〜第7話 少女〜



『……………、!!!』


男は目を覚まし飛び上がるように

上半身を起こした。


薄暗い洞窟のようなところに寝ていたのだ。


死刑隊”雷突管轄”スピカとの激戦に力尽き意識を失っていたことを思い出したようだ。


足には布団代わりに薄い布切れがかけてあった。

負傷した箇所にも包帯や処置が施された様子がある。誰かが看病してくれたようだ。


まだ身体が痛むが、男はゆっくりと立ち上がる。


『…いってぇ…。ナルフがいない…。どこだ…?』


洞窟を少し進むと出口があった。

陽の光が差し込んでくる。


出口には女性の後ろ姿が見えた。

金髪のショートヘア、身長は150cm程度で小柄。

少女というべきだろうか。


少女は遠くを見つめていた。

看病してくれた人なのだろうか。男は歩み寄り話しかける。


『なぁ、もしかして俺を助けてくれた…?』


少女は男の方を振り向く。

透き通るような綺麗な青い瞳をしていた。


「あ、起きた!気にしなくていいよー。ここを抜けるために一緒に行動してくれる人を探してたんだー!」


『あんたも捕まってたのか?』


「あたし?うん、何もしてないのに…。」


明らかに嫌そうに語り溜息をつく。

それ以上は聞いたら気まずくなりそうだったので、男は言及せずにうなずくだけにした。


「あたしはシリス。よろしくね。キミは?」


『わからない。』


「はぁ?」


男は悩むことをやめ正直に即答した。

さすがにシリスは驚きクスッと笑った。


「なにそれ?面白いね。」

『ぐ…。あ!俺以外にもう1人男がいなかったか!?俺の仲間なんだ。』


ナルフについて尋ねる。

しかしシリスは不思議そうな表情をする。


「ん~?キミ以外は誰もいなかったよ?キミだけ倒れてたよ。」


『そんな・・・。』


さすがにナルフが男を置いて去るとは考えたくない。

死刑隊スピカの姿も無かったということは、ナルフはスピカに捕まってしまったのか。

など、男は想像をしてしまい不安になってしまった。


「そのお仲間は大事な人?」


『あぁ。俺が独房を出て初めて出会った仲間なんだ。』


「ふ〜ん、そっか。

 じゃあ一緒に探しに行こっか!」


無邪気な笑顔を見せ提案する。

しかし男は頭を抱えて悩んだ。


『ありがたいんだけど…、その…』


(こんなか弱そうな女の子を巻き込むわけにはいかないな…。誰かを守る余裕も今は無いぞ…)


言葉に困る男の顔を見て頬を膨らませ睨み付ける。そして顔を近づけて追撃の言葉を放つ。


「なに?あたしがいると邪魔だって?」

「キミさ?あたしが助けてなかったら死んでたよね?」

「誰が瀕死のキミを助けたと思ってるの?」

「命の恩人だよ?わかる?」

「命を救われたなら恩を返すべきよね?」

「何でも言うこと聞くのが道理じゃない?」


容赦ない攻撃はまだまだ続く…。



……




結局「命の恩人の言うことは絶対」と言いくるめられ、同行を余儀なくされた。


身支度を済ませ、2人は洞窟の出口に立つ。

この洞窟が高い場所にあり、洞窟を出ると目の前は険しい崖。崖を登らないとここの洞窟には入れない。


『…高っ!!』

「そうだねー、ここなら兵も追ってこないと思ったから選んだんだよ〜、すごいでしょ?」


自慢げに話す。男は一つ心の中で疑問を抱いた。


(こんな小さな身体で、一体どうやって俺をここまで運んだんだ…?こんな崖を担いで登れるわけがない…)


質問すると話が長くなりそうだったのでその事は聞かず、高い崖の上から周りを見渡す。


そこには森、川、湖、花畑などの広大な自然が広がっていた。その中、あちこちで脱獄した者と兵が戦っている光景も確認できる。


ナルフの姿は見当たらない。

探すにしてもの情報は何一つ無く、行く当てもない。


するとシリスが遠くを指さす。

その方角には小さな建物が見えた。


「あれ、収容所だよ。もしかしたらあそこに捕まってるかもしれない!」


『そうだな。行ってみるか!』


2人は収容所を目指し、崖を降りる。

崖の下は森となっていた。


地上に降り立ったその時、茂みの中からライフルのような銃を持った兵士5人と番犬3匹が姿を表した。

待ち伏せされていたのだ。


「やば…!」


兵達は2人を取り囲むように陣取りをする。


「動くな。両手を上に挙げて膝をつけ。」


この状況では何もできない。2人は言われた通り両手を挙げて膝をつく。


兵の1人が無線機を取り出し誰かに報告する。


『雷突管轄スピカを退けた脱獄囚と子供を発見。確保する。』


子供呼ばわりされシリスは激怒する。


「ちょっと!!子供扱いしないでよ!」


兵はシリスに銃口を向ける。


「うるさいぞ!次余計なことほざいたら撃つ。お前たちへの発砲許可は既に出ている。何かあれば始末してもいいんだぞ?」


『シリス、やめとけ!今はおとなしくしよう。』


シリスは下を向いてうなずき答えた。


「うん…わかった。


 あたしはおとなしくしてるよ。



 あたし”は”ね。」



すると少し多くの方の茂みが揺れ始めた。

小さな地鳴りが近づいてくる。何かがものすごい勢いで向かってきているようだ。


兵は地鳴りがする茂みの方に3匹の番犬を放つ。



その瞬間、3匹の番犬が返り討ちにあったかのように吹き飛ばされて戻って倒れた。


そして木々が激しく揺れ、大きな何かが姿を現した。男と兵はただただ唖然とする。


シリスはそっとつぶやいた。








「おかえり、デスペラード。」





〜続く〜

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