〜第6話 死刑隊〜
「さぁ、君は抵抗しないの?大人しく牢獄に帰る?」
金髪の男がゆっくり男に歩み寄ってくる。
男は恐怖で体が動かなかったが、諦める気は無かった。
『牢には帰らない!絶対ここから逃げてやる…』
「度胸は良いみたいだね、たださ、”武力”も出さずに俺と戦うわけ?抵抗する気ないよね?」
(……!)
”武力”を使えない。先程のスピードも見たところ、とてもじゃないが金髪の男に太刀打ちできないのは分かっていた。
その時、金髪の男からまた強烈な光が放たれた。同時に姿が消える。
男は集中して意識を研ぎ澄ます。
後ろから物音が聞こえたのが確認でき、男は咄嗟に前方に飛び込んだ。
男は後ろを振り向くと、
金髪の男の小太刀が空を斬っていた。
攻撃を避けたのだ。
「俺の攻撃を躱した…?」
金髪の男は驚きを隠せなかった。
(ただ躱しただけじゃない、躱す反応とスピードが特に速かった…。まぐれか…?)
攻撃を躱した男自身が驚いていた。
あの一瞬の出来事での緊張か、心拍数が上がり息を切らすように呼吸している。
『はぁ…、はぁ…。避け…れた…?』
金髪の男は一呼吸置いて2刀の小太刀を構える。
「よく躱したな、そこは褒めてやる。だが次は、そうはいかない…!」
(…くる!)
再度強烈な光が放たれたと同時に金髪の男の姿が消えた。男は再び集中する。
(音が聞こえない…。どこにいる…!)
その時、風の流れが変わる違和感があった。
(…、上か!!!)
男は咄嗟に見上げた。そこには2刀の小太刀を振り上げて飛びかかる金髪の男の姿があった。
(これなら避けられる……、うわっ!)
金髪の男と太陽が重なり合い目眩しとなってしまった。目に焼き付いた強い太陽の光で視界が眩み、回避の反応に遅れてしまった。
「もらった!!!」
金髪の男の一閃が決まる。男は回避をしていたこともあり致命傷は免れた。左肩を斬られただけで済んだ。斬り傷から流れ出る血を右手で押さえる。
『はぁ…、はぁ…。』
「確実に腕を斬り落とせたと思ったんだが、、、お前、反応はかなり速いな。」
『そいつはどうも…はぁ…はぁ…。』
「だけど、もう同じような反応は出来ない」
斬られた左肩に異変が起きた。傷口が痺れ始め、徐々に左腕、肩の感覚が無くなってきたのだ。
男は膝を付き痺れに苦しむ。
『うわぁ…、なんだこれは…!』
「”雷の力”だ。それが俺の”力”。その痺れは全身の筋肉に影響を与える。先程のような反応はもう出来ないぞ。」
立ち上がるにも一苦労が状態だった。
金髪の男が口を開く。
「そうだ、自己紹介が遅れた。
俺はスピカ。死刑隊(しけいたい)”雷突管轄(らいとつかんかつ)”」
その言葉に倒れていたナルフの顔色が変わった。
「死刑隊だって…!?こ、、殺される…!」
明らかに冷静になってないナルフに
落ち着くように声をかける。
『落ち着けナルフ!死刑隊ってなんなんだ?』
ふと我に帰るナルフ。そして一呼吸置いて死刑隊について話す。
「死刑隊は、その名の通り罪人の死刑を執行するためだけの殺しの組織。俺もよくわからないが噂には”殺し方の管轄”があると聞いた…。コイツは”雷突”管轄って言ってたな…。」
スピカは二刀の小太刀に雷を宿した。
刃から稲妻の光が発せられている。
「その通り。俺は”雷突管轄”。罪人を電気、麻痺による拷問死刑のプロフェッショナルだ。さて、もうちょっと電圧上げて痛めつけてやるよ…!」
スピカはナルフの左膝に1本の小太刀を容赦無く突き刺した。凄まじい電流が全身に伝わりナルフはもがき苦しみ悲鳴を出す。
人の苦しむ表情を見て異常な程の声で高笑いをし始めた。
男はただ呆然と立ち尽くす。
そしてスピカに叫びつける。
『やめろぉおおおおおおお!!』
男の中で何かが変わった。
スピカは何かを感じ取り、ナルフの膝から小太刀を抜いて男を見る。
男の周囲には血のように赤く光るオーラのようなものが発せられていた。その光が徐々に男の右の手のひらの中に集まっていく。
手のひらには赤く光り輝く球体が出来ていた。男にはそれが何なのか感覚で分かった。
『…暖かいな…、これが…』
男は球体を強く握りしめた。
すると球体の形状が変化し、
1本の剣に変化したのだ。
剣の長さは120cm程度。少し長い。
片刃で綺麗な赤に染まった刃の色をしている。
『俺の”武力”…。』
「すげぇ…、、、」
ナルフは男の”武力”の解放を見届けたと共に、なぜか安心感に包まれ、その場で意識を失ってしまった。
凄まじい変化にスピカも驚く。スピカは男の瞳の色が黒から赤に変わったことにも注目した。
「瞳が赤い…。まぁいいか。解放したての”武力”だ。お前はまだろくにコントロールすることが出来ないだろうな。それに、俺とお前では力の差以前に”戦いの練度”が違いすぎるんだよ。」
スピカは突きの構えを取り、体から強烈な光を発した。猛スピードで男に突きを放ちながら叫ぶ。
「ろくに戦ったこともないやつに、俺が負けることはない…!!!」
一瞬の出来事だった。
スピカの突きが当たる直前、男は寸前のところで体を横に逸らし、回避しつつ剣を下から上に振り上げた。
剣はスピカの左手に持つ小太刀の刃を粉砕し、真っ二つに一刀両断した。
折れた刃が宙を舞い、地面に突き刺さる。
「なんだと……!?」
男は肩に剣を乗せ、赤く光る瞳でスピカを睨みつけて口を開いた。
『戦いの練度は…、俺の方が上かもしれない』
スピカは折れた小太刀を捨て、残り一本の小太刀を両手で持って構える。
「練度が俺より上?どういうことだ?」
『俺もよくわからない。俺、記憶が無いから何もわからないんだ…。ただ、”武力”が解放されて一つ思い出せたことがあるんだ。』
「…それは…?」
『記憶がなくなる前の俺は、計り知れないほど闘ってきたってことをな!!』
男は前に踏み込む時に足に”力”を集中させた。
するとスピカのように速いスピードで飛び出したのだ。
男の突きをスピカは逸らし、激しい剣のぶつかり合いが続く。
(こいつ…!”力”の使い方がさっきまでとは別人だ…!俺の初撃を躱せたのはまぐれじゃなかった!コイツの本来の力だったということか…!?)
重い一撃にスピカはのけぞった。その隙を突いて、男の一閃が決まる。
スピカは腹部から血を流し、その場で倒れた。
「ぐ…くそぉ…!こんな奴に……!!」
意識を失ってしまったようだ。
男も膝を付き倒れる。”力”を消耗したのか、男の剣は光り輝き消えてしまった。
『はぁ…、はぁ…。やった……、勝て…た…』
視界が徐々にぼやけ、そして男も意識を失ってしまった。
〜続く〜
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