〜第4話 仲間〜


男は階段を駆け上がる。

かなり長い階段だ。少し息を切らしつつ駆け上がる。他に脱獄した者は既に階段を上り切っているようだ。


『はぁ…、はぁ…。いつ以来なんだ、こんなに走るのは…。身体が痛い…。』


男はいつからあの独房に捕らわれていたのかわからない。身体の痛みに耐えながら上り続ける。


その時、上から騒がしい物音や人の声が聞こえてきた。まるで争っているような音だ。


男はスピードを落とし、慎重に階段を上り切った。



『…!!これは…!?』



目の前には壮絶な光景が広がっていた。


至る所に先程の鎧をまとった兵や、犬が血を流し倒れていた。壁や床もひどく破損している。



『なんだよこれ…、俺が少し出遅れただけなのにこんな…。これみんな、あの脱獄した奴らが…?』



このフロアは先程の地下よりは明るく、道も開けている。道も多岐に分かれてまるで迷路のようになっている。廊下には様々な機材が置いてあり、独房と思われる扉もある。


しかし、全ての独房の扉は開いていた。

誰かが開けて脱獄させたようだ。


男は慎重に荒れ果てた後の廊下を進む。


「…!この!おりゃぉ!」


男の声だ。

右の曲がり角から争っている声が聞こえてくる。男は走り曲がり角からそっと顔を覗かせた。


そこには茶髪の男がナイフを手に、

3匹の犬と交戦していたのだ。


茶髪の男は巧みにナイフを操り犬を斬り払っていく。


(すげぇ…)


「うわっ…!」


残り1匹を倒そうとした時、機材に足が引っかかり転倒してしまった。犬は倒れた茶髪の男に飛びかかる。


『危ない!』


男は角から飛び出して犬に体当たりした。

犬は少し吹き飛び転倒する。


茶髪の男はすぐに立ち上がり、

犬に向けてナイフを投げつけた。


ナイフは犬の頭に突き刺さり、静かに倒れた。


茶髪の男は額の汗を拭い感謝を述べる。


「助けてくれてありがとな!恩に着るぜ!」


笑顔で気さくな雰囲気だった。

男も軽く頭を下げる。


『いや、あんな場面見てたら何もしないわけにはいかなくてさ…。無事でよかった。』


茶髪の男は自己紹介を始めた。


「俺はナルフ!よろしくな!お前は?」


ナルフは男より少し背が高い。

男は軽く頭を下げて挨拶する。


『よろしくナルフ。おれ…は…』


男は自分の名前が分からない。

そのまま黙り込み下を向いてしまう。


ナルフは覗き込むように男を見る。


「なんだよ?人の名前聞いといて自分は応えないってか?」


『その…、俺、自分が誰なのか分からないんだ…。名前も、親も、ここがどこなのかも…。』


ナルフは驚いた。


「マジかよ…。それは…辛いな…。」


『ありがと。ついさっき、ようやく”力”が何なのかを学んだばっかりだよ。』


落ち込む男にナルフは笑顔で肩を組み始める。


「そうか!じゃあ俺がこの世界のことを全部教えてやるよ!!感謝しろよコノヤロ〜」


男の頭を撫でまわし髪をクシャクシャにする。男は組まれた手を振り払う。


『ちょっ!いきなり馴れ馴れしいぞ!』


「照れてやんのー。俺たちもうここを脱出するまでは仲間なんだからさ。」


『…、仲間…か…。そうだな、俺も1人じゃ無理そうだし、一緒に逃げよう。』


ナルフは壁に書いてあるフロアの地図を見た。

現在地とこのフロアの出口を確認し、男を誘導する。


「さ、行くぞ!警備の応援が来るかもしれない。俺たちも先に行った奴らに追いつこう!」


『あぁ!』


2人は出口を目指した…。



〜続く〜

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