〜第2話 “力”〜

便器に浮かび上がる謎の老人に

“最期の希望”と告げられる。



『最後の希望って…?

 ってかあんた、俺が誰だかわかるか!?』


「お前が誰かなど知らぬ。

 自分の名前も分からぬのか?」


『ぐ……。思い出せなくて…』


周りを見渡しながら老人に聞く。


『ここ、どこなんだ?』


「…ここは”地獄”だ。」


『”地獄”…?たしかに楽しそうな場所じゃないか…。あんたはいつから捕まってるんだ?』


老人は小さく顔を横に振る。


「いつからじゃろう。1年はこの状態かもしれぬな。」


『1年も…?』




「さて…、雑談は終いじゃ。」


老人はゆっくりと顔を上げた。

暗くて顔はハッキリ見えなかった。

ただ、真っ赤に燃えるような赤い瞳が輝いていた。


男に告げる。



「…、時は来た。

 お前はここから脱獄するのじゃ。」



男は驚く。

手錠も掛けられ扉の鍵も無いのに脱獄などできるはずがない。


『脱獄!?どうやって…?』


「お前ならできるはずじゃ。お前の”力”で」


意味を理解していない男の反応に

老人は深くため息を付き、淡々と説明をする。



「”力”はこの世界の全ての生命が持つ、内に秘めたる未知のエネルギーのこと。この”力”は人様々であらゆる事柄を実現できる。例えば目の前に火を起こせる者や、空を飛ぶ者などがおる。」


老人の話に男は惹かれた。


『すごい!!魔法みたいだな…。

その”力”は俺にも使えるのか?…よし!』


男は力を込めて扉に体当たりする。

しかし扉はびくともしない。


『ダメじゃん』


それを見かね老人はため息を吐き、

再度口を開く。


「お前は今、何がしたい?」


『…??』


「脱獄するためには、まず何をする?」


その問いに男は静止し、周りを見渡す。

そして自身の両腕に付いている手錠に目が行く。




『まずは…手錠を…、解く…!』





カチッ!!


その瞬間、男の両腕の手錠の鍵が外れて床に落ちた。外した当の本人が驚きを隠せなかった。


『うわっ!?なんで!?』


老人は不気味に笑う。


「ふっふっふっ…これが”力”だ。”力”には未知の情報で溢れかえっているが、生命の想いに強く反応する性質を持つ。今のはお前の”手錠を解きたい”想いとお前の”力”が反応し、実現ができた。」


『すげぇ…。じゃあこの扉も…。』


男は右手を扉に当て、先ほどと同じように強く想いを込めて扉を押す。


カチッ…


小さな開錠音が響いた。扉が開いたのだ。

老人は口角を上げ、密かに笑みを浮かべた。


男は静かに扉を開け、外を覗く。

人の気配は無い。

長い廊下で独房の扉がたくさん並んでいる。


男は便器の前に戻り老人に礼を言おうとした。


しかし、便器の水に老人は映ってなく、声も聞こえなかった。


『ありがとな…、便器のおっさん…。』


小さな声でお礼の言葉を呟き、

男は扉の外に出た。




老人は、鎖で繋がれた右手をゆっくり前に伸ばし指を指す。



「さぁ行け…。ここを脱獄し世界を元に戻してくれ…。私の…”最期の希望”…。」




〜続く〜

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