最期の希望

ひろねこ

〜第1話 目覚め〜


『……。』


狭く薄暗い部屋の真ん中で、

男が仰向けで寝ている。


『…ア……、ア…』


男は目を覚まし、

ゆっくりと身体を起こそうとする。


『…?』


両腕には手錠が掛けられていた。

足は自由に動かせる。


『ア…、ガァ…、ウガァ…』


何か喋ろうとしているが

言葉を出すことが出来ない。


『ウガァァ…、ァアー!ウァー!』


ただ獣のように叫び、悶え苦しみ続けた。



ーー ただひたすらに時は流れた…。



『…はぁ…、はぁ…。』


男に変化があった。

獣のような叫びは無くなり、

息遣いに“人間っぽさ”が出てきた。


男はひどく汗をかき意識が朦朧としている。


『…はぁ…、ここ…は…、どこだ…?』


ついに言葉を発した。

男はゆっくり立ち上がり、周りを見渡す。


2畳分の小さな部屋。ある物は、

鏡、水道、便器、布団、扉。


扉には小窓が付いている。


『どこなんだここは…?俺は…?』


男は慌ただしく鏡の前に立つ。

自分の顔を見て、言葉を放つ。





『俺は……、誰だ……?』





男は自分が誰なのか分からないようだ。


容姿は、身長170中盤、細身。

ボサボサに伸びた黒髪、髭は薄い。

白い半袖のシャツに黒い長ズボン。


扉を開けようとするが、ドアノブが無い。

扉の小窓もこちら側からでは開けることができない。


『俺は…、捕まってるのか…?』



「そうだ。」



男の独り言に誰かが返した。男の声だ。

驚き周りを見渡すが誰もいない。


『誰だ…!?どこにいる…!?』


「便器の前に来い」


恐る恐る便器の前に立つ。ひどい臭いだ。


すると便器に張っている水に

“老人”と思わしき人物が映し出されていた。


老人は天井から垂れ下がる鎖によって

両手が縛られている状態であぐらをかいて

座って下を向いている。


老人の顔は見えない。


『あんたは一体…?』


男は老人に問いかける。


「ワシのことはどうでもよい。


 それより、よく目覚めた。


 ワシの”最期の希望”よ…」




『最期の…希望…?』




〜続く〜

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