最終兵器育児計画

渡り鳩

第1話 ようこそ

聞こえてくるのは、風を切る音と微かに聞こえる人の声、そして一定の感覚で聞こえてくる爆発音。もう走れば肺が寒さで凍てついて苦しくなり、足は疲れてパンパンになる。さすがに疲れ果て、壁に背中を当て崩れる。


「なんで、俺がこんな逃げなきゃいけないんだよ」


自分の足が震えるのを感じながら、自分が抱えている小さな命に目を送った・・・



いつも通りの朝だった。7時に目を覚まし、顔を洗い歯を磨き、便所によって用を足し、昨日の夜に作っておいた朝食を食べる。大学に行く前に洗濯をし、干してそのまま大学にに向かう・・・はずだった。


その出来事は俺、星谷燈矢ほしがやとうやが大学に向かう最初の一歩に起こった 。いつもなら流れるように開く玄関のドアが未知の物体によって邪魔されていた。


「白いダンボール?。宅配、いや何も書かれていないからお隣さんの荷物か」


一応念の為、隣に住む赤井さんに聞くも、自分のではないと言う。このままにしとくのも不安なため、とりあえず自分の部屋に持っていくことにした。再び部屋に戻り、ダンボールを置くと、がっちりガムテープで閉じられたダンボールから小さな生き物らしき声が聞こえた。


「今の、なんの声だ?。猫かねずみの声のような気がするけど」


すると、俺の声に反応したかのように、今度はダンボールの中から何かが動く音が聞こえてきた。かなり不安になってきた俺は、申し訳ないと思いながらも、近くにあったハサミでダンボールの中身を覗いてみることにした。そして中にいたのは、猫でもねずみでもない、片手で覆えるほどしかない顔。自分の親指程度しかない手が包まれている布から出ている赤ん坊だった。


「おいおい、なんでわざわざ俺の部屋の前に置いてくんだよ。捨てるんだったら養護施設にでも行って来ればいいのに。っめんどくせぇなぁ」


俺は今置かれている状況を一刻も早く抜け出したかった。この後大学があるのはもちろんのこと、この乳児とさっさとおさらばしたかった。こんなの置いといても何もいいことは無いむしろ邪魔だ。冷静になって、とりあえず大学に行く途中の近くの交番に寄ることにした。名も知らぬ乳児を抱き、再び部屋をあとにした。


大学の最寄り駅に到着し、スマホで近くの交番を検索していると、後ろから誰かに抱きつかれた。


「何を大事そうに持ってんだよ燈矢」


「はぁー。いきなり後ろから抱きついてくんじゃねーよ畠中。危うく肘で殴ろうとしちゃっただろ」


畠中優はたなか ゆう、こいつとは大学の入学試験で後ろに座っていて、試験日に筆記用具を忘れたこいつに筆記用具一式を貸したところからずっと一緒にいるため、もう少しで1年近く経つ俺の友人だ。性格は明るいだけで成績は一学期のを見たが、お世辞にもいいとは言えないがそれでもこいつといると、自然と笑えるような良い奴だ。


「そりゃ勘弁してくれ。で、抱えてるそれって・・・もしかしてお前のガキか?」


「本気で言ってるならマジで殴るぞ。こいつは今朝俺の住んでるアパートで捨てられてたんだよ。しかもご丁寧に俺の部屋の目の前にな。これからこいつを交番に届けるとこ」


「ほんとにそんな親がいるもんなんだな。しかも冷え込んできたこの季節に捨てるとかやばいな」


「とりあえず俺は交番寄ってから大学むかうから、先行ってろよ」


「おっけい。出席カードは出しといてやるよ」


そう言って畠中は駅ナカの人混みの中に消えていった。俺は再びスマホで交番の場所を探し始めた。


その時、突然近くからものすごい爆発音が駅の中に響いた。駅の中にいる全員が爆発音のした方に視線を送る。煙が上がるなか、スプリンクラーで煙が薄くなって出てきたのは、フードを深く被った男らしき姿とベビーカーそして、地面に倒れて動かなくなった一部体のない死体達だった。










「始まりましたね」

「あぁ、ようやく私の計画が動き出したよ。歓迎しよう星谷燈矢くん。ようこそ!私の最終兵器育児計画へ・・・」


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