第14話
「瀬田君さ、クリスマスはヒマ? 予定ある?」
例によって僕らは、瀬田君の部屋で作業をしている。
「いや、何もないよ。どうして?」
瀬田君をデートに誘いたいの、と僕が言わなければならないのか。
「えーと。剣道部の何人かで、クリスマスパーティをしようかって話になってるんだけど。僕も行く予定。どう? 瀬田君も。一緒に行こうよ」
「あー、うん。行くよ。有難う誘ってくれて」
拍子抜けするほど簡単だったぞ。もう少し情報を出しておこう。後で騙されたと思われたら困るし。
「そのパーティは、厳密に言うとデートみたいな感じもあって、女子も参加します。門脇さんは彼氏と参加して、あとは深山先輩と川崎真里子が来る。瀬田君が参加してくれれば六人で、まあ、トリプルデート的な感じで……」
僕は瀬田君の表情を伺う。やばい、ちょっと渋い顔になってる。
「デートか……。それで計画は、誰が?」
「門脇さんが考えてくれるらしいけど、もちろん俺らの意見も聞いてくれる。あまり深く考えないで気楽に行こうよ。俺らはまだ高一なわけで、まあ、楽しく過ごせればいいじゃない。女子が居たほうが場が華やぐよ。深山先輩は暴れるかもしれないけど」
僕は冗談めかして言う。
「せっかくのデートなんだから、ちゃんと計画を立てたいな。佐藤君?」
「は? ハイ」
「門脇さんに、僕のメールアドレスを伝えてくれない? よければデートの段取りに関して、相談をしたいので。ちょっとアテがあるので、僕も協力出来るかもしれない。どうかな」
思いっきり喰いついたよ。やっぱり瀬田君、真里子に惚れてるのかも。それならばもう一歩行こう。
「瀬田君、気を悪くしないで聞いてくれ。俺はさ、川崎真里子と幼馴染なわけですよ。もしだよ、もし瀬田君が、真里子の事が好きならば、俺は協力を惜しまない。瀬田君と真里子は相性がいいと思う。二人を知ってる俺だから言うんだ。上手くいくかどうか保証はできない。でも真剣な話だよ」
思い切って僕は訊いてみた。直球の方が瀬田君の心に響くはず。三分ほど固まった後で、瀬田君がポツリと言った。
「……佐藤君が協力してくれたら、心強い」
ひゃっほう大金星。門脇さん僕、仕事しましたよ! 頑張った。めちゃくちゃ褒めて貰おう。
「瀬田君が? すごい! あ、これが瀬田君のメアドね? うん。ちゃんと相談する。本当に楽しみになって来たね! こんなにすんなり行くなんて想像してなかった。さすが佐藤君!」
門脇さんがぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。なんて可愛い。
「じゃあ、真里子も問題無し?」
「うん。あっさりとOKでした。デートだってちゃんと言ったんだよ? 真里子ちゃんのお相手は瀬田君で、宗ちゃんのお相手は深山先輩。そういう風に説明したの。ちょっと恥ずかしそうにしてたけど、真里子ちゃんは嬉しそうだった。やっぱり瀬田君の事が好きなんだよ」
門脇さんが、僕のことを宗ちゃんと言った。真里子の言葉を引用しただけなんだろうけど、心にずっしりと来た。かなわぬ恋にも、所々喜びがある。
デート計画は恐ろしいほど順調だった。しかし思わぬところに伏兵がいた。門脇さんが深山先輩にデートの話をして、あっさりと断られてしまった。ヤンキーだと思って油断していた。硬派なのを忘れていた。門脇さんが泣きそう。
「だけどさ、深山先輩はいなくてもいいんじゃない? 俺の相手は誰か、一年の女子に頼むとか。それで行こうよ」
僕は言った。その瞬間、門脇さんが怒りの表情に変わる。
「佐藤君! 深山先輩の気持ちを考えてあげて! あんなに先輩がアプローチしてるのに、いっつも無視して。確かに先輩はガサツな所はあるけれど、すごく後輩思いで優しい人じゃない。それをいっつも無視して。今回のデートの目的は、真里子ちゃんの為でもあるけど、深山先輩と佐藤君のためでもあるんだよ? それなのに佐藤君、いっつも無視して」
ボロボロと門脇さんが涙をこぼす。「いっつも無視して」と三回も言われた。
「アプローチ? 先輩が俺に? 俺は先輩にどつかれたり、罵られてばかりじゃない」
僕は慌てて言った。涙が止まらない門脇さん。ディフェンダーの彼氏にこの状況を見られたら、僕は殺されるかもしれない。ちなみに僕らは、今日も屋上で会議をしている。
「もしかして気がついてないの?」
門脇さんが驚愕の表情を浮かべる。
「何が」
「あ! そうだったんだ……。あのね……、深山先輩は、佐藤君の事が好きなんだよ……」
そう言って、門脇さんがあらためてボロボロと涙をこぼし始めた。泣きすぎ。僕も泣きたい。
「だって、だってさ。先輩は俺に嫌がらせしかしないよ。門脇さんも毎日見てるでしょ」
「小学生の悪ガキ男子が、好きな女子に嫌がらせする理由は、佐藤君なら分かりますね?」
「分かります」
「深山先輩は悪ガキなんです。好きだからちょっかいを出すの! 好きです、って毎日言ってるのも同然なの」
涙のあとを頬に残して、門脇さんが言った。
「そうか……」
女子高生だけど悪ガキ。それが深山先輩。納得できる。
「それで佐藤君、改めて深山先輩の事をどう思う? 嫌いじゃないよね」
門脇さんの切実な表情。
「嫌いじゃない。性格が男前だし、見た目だけはスゲー綺麗だし。でも正直、僕は不良っぽい人が苦手なんだ。女の子の乱暴な言葉は我慢出来ない。恋愛対象にならないよ。これは好みの問題で、致し方ない所だと思う」
自分の好みを門脇さんに語っている。果てしなく虚しい。
「深山先輩が、女の子らしくなったらどうですか? 乱暴な言葉づかいはしないの。例えばだよ、宗ちゃん?」
最後の「宗ちゃん?」が効いた。
「まあ、それなら印象は変わると思うけど。でも無理だよ」
僕の言葉を聞いて、門脇さんがウフフと笑った。さっきまで号泣してたくせに。
屋上会議から数日後。
「深山先輩。クリスマスに僕とデートして下さい」
僕はわざわざ二年生の教室まで行って、深山先輩を呼び出してお願いをした。もちろん門脇さんの差し金である。
深山先輩は驚いたのか、僕の目をじっと見て真顔になっている。口をモグモグさせて何か食べている。早弁したらしい。女子で早弁してる人、初めて見たよ。
「先輩?」
「あ、ああ、デートね。聞いてる聞いてる。門脇から聞いてる。あれだ、瀬田と川崎の為のデートだろ。了解了解。行ってやるよ」
あらま。簡単に承諾したぞ。拍子抜けした。
「詳細はまた部活で話しましょうか。なんか瀬田君が張り切ってて、結構楽しいかもしれませんよ。じゃあ、失礼します」
僕は笑って言った。
「あの佐藤」
「はい」
「誘ってくれてありがとう」
まだ口をモグモグさせている。
「いえ、俺こそ先輩とデート出来て光栄です」
キツネ目っていうのかな。キリッとしてて綺麗なんだよね。客観的に見れば、僕はかなり恵まれている。
「佐藤」
「はい」
深山先輩が、口の中のものをゴクリと飲み込んだ。
「佐藤は……彼女とかいるのか」
「いたら、先輩をデートに誘いませんよ」
「あ、そう」
深山先輩が軽く頷いた。そしてポカンとした表情で、教室に戻って行った。読めねえなあ。単純なヤンキーだから、あまり深くは考えて無いような気がするけど。一度はデートを断ったクセに、ずいぶん物腰が柔らかだった。門脇さんを初め、剣道部の女子達に教育されたのだろうか。女子は恐ろしいよな。
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