第22話 五事の戒律
ディーバダッタに転生した元ブラックパーピマンの四代目総長、宇里虎夫(うり とらお)。彼は、どちらかというと真面目で、やりすぎる性格だった。関東連合BIG3の一角を務めるB.P.M.のヘッドとして鉢巻を受け継いでからというもの、鉄の掟を破ったメンバーは半殺しでは済まなかった。関東連合に逆らおうというチームは少なかったが、抗争でももちろん容赦なく病院送り再起不能にしてきた。真椛尊のチームスーサイドラビットが関東連合を抜けるという情報を聞いた時も、考えるより先に身体が動いてミコトをクレーンで吊り上げていた。しかしまさかどんなばかが暴れて自分から転落死するというんだ。慌ててCB400SBのケツに乗せて病院に運ぼうとするも、既に意識を失っているミコトを二尻しようとするのが無理な話で操作を誤り虎夫もまた落命、古代インドへと転生することとなった。
お釈迦さまの時代か。
ミコトに先じてディーバダッタとしてカピラバストゥへと転生したトラオは、すでに苦行林へと出発していたガウタマの残した蓮華の手記を得て体得し、人助けをして村々を回ることにした。そこで火事にあった村人たちを助けていたところ、マガダの部隊に拾われることになった。ビンビサーラ王とアジャータシャトル王子に求められるままにマガダの軍民にガウタマの教えを広めていく。特に新設された軍へのトラオの軍律・教練は厳しかった。
後世に伝えられるディーバダッタの五事の戒律というものがある。
「比丘らは終生林住者たらしめ、村里に入ることなからしめよ。
終生乞食たらしめ、招待を受くることなからしめよ。
終生糞掃の衣をきる者たらしめ、居士のほどこす衣服を受くることなからしめよ。
終生樹下に住する者たらしめ、屋根ある家に入ることなからしめよ。
終生魚肉をくらうことなく、これを罪に触るとせられよ」
(参考文献 友松圓諦 仏教聖典)
これらを教団に主張したが、ブッダに受け入れられなかったとされている。トラオはこのごとくマガダの新設部隊に極めて厳しい軍律を敷いたのだった。それでもコーサラの新部隊同様、法の神ヴァルナに象徴される四姓の別を越えた武の身分を得られる機会としてマガダの軍民は耐えた。特に象や馬といった機動部隊の活用にトラオは長けていた。そして運用されたその目覚ましい成果にビンビサーラもアジャータシャトルもトラオを重用することになった。またひとつ、敵の城が鍛えられた精鋭により落ちようとしている。
「見事である」
褒美、というほどではないが、金品屋敷などは受け取ることのないトラオにビンビサーラは手製の激辛カレーを授ける。トラオはうやうやしく受け取りぺろりと平らげた。脇で膝をついていたアジャータシャトルは内心驚く。あれ食ったんか。いや、今回が初めてではないか。ビンビサーラは上機嫌で本営の中、おそらくキッチンへと去っていく。その背中を見送るトラオは、立ち上がったアジャータシャトルへと話しかけた。
「王子殿」
「どうかなされたか」
「王子殿は、王位を狙われる気はないか」
「!…何故に」
ディーバダッタは手に残った空の皿に目をやる。
「王子殿は…雷神火神の宿った食物を褒美とされるおひとではないでしょう」
平気じゃなかったんだ!!
アジャータシャトルは目を剥く。てかその理由で!?クーデターを俺に起こせって!?
一秒だけ考えてみた。
考えるまでもなかった。
ありよりのありだ。
アジャータシャトルはトラオへと微笑んだ。
輪廻転生!?暴走族のヘッドが生まれ変わったらなんとお釈迦さまになったらしいので悟りを開いて世界を救います!! 三浦介 @zeflos
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