第21話 仏の顔(二度目)

マガダ王ビンビサーラは取り急ぎコーサラに追いつくためにガウタマの教えに恭じることを小さく宣言して新たな軍の招集を始めた。それと同時にその祖となるべくガウタマを確保すべく象兵を主とする部隊をカピラバストゥへの差し向ける。コーサラに先じて行わなくてはなるまい。その部隊の隊長をカランダという。アジャータシャトルが例によって志願したが、ビンビサーラはにべもなく却下した。口には出さないが、ビンビサーラはこの王太子が実子であるか疑問に思っていた。他に王子ができ次第、廃嫡しようとすら思っている。功績を立てさせる訳にはいかなかった。軍を率いるさせれば有能なので全く用いないわけにもいかなかったが、幸か不幸か先のカーシーの戦いでは無様に敗れている。それを口実にしばらく控えさせておけよう。なんか比較的辛さにも強いしなこいつ。



カランダはマガダの精鋭たる三頭の象兵を先頭に竹林を進む。状況によってはそのままカピラバストゥに駐留を続けてよいともビンビサーラから言われていた。穀物地帯の確保。コーサラの属国とみなされていることもあるが、その二国の関係は良くないとも言われていて、また当代のシュッドーダナ王の政治的才覚も高いとはいえないと評価がなされていた。精強な軍を持つとも言われていない。そもそも、カピラバストゥは十六大国にすら入っていない国だった。マガダが蹂躙するに躊躇う理由はない。


竹林の切れ目から、遠くない距離に煙が上がっているのを目に止める。この辺りはカランダの領地だった。部隊を指示してそちらに向かわせる。あの辺りには確か村があったはずだが…やはり、火事か。田畑にて焼く季節でもない。川沿いに進み村へと近づくと、家々が濛々と煙に包まれる中で一人の僧が村の人々を指揮して避難を誘導している。丸太橋が、細い。カランダがたどり着いて状況を確認する前にその僧が村のある向こう岸から大きな太い声で協力を求めてきた。


「おい!村の人たちが渡るのをその三頭の象で助けてやってくれ!」


僧はそういうなり煙の方に戻っていってしまう。カランダは両側にいた二頭には待機を命じ、自らの騎象を操ると言われた通りに村人たちの渡河を助けた。乗り手と象の両者が火を恐れずに勇敢で賢くやり遂げる必要があったからだ。部下たちには丸太橋の方を助けるように支持した。村が焼け落ちるまでこの救出活動は続く。


そして、日暮れ。ようやく火の勢いも衰え、部隊の者の助けもあり村人たちは領主とその僧に感謝の意を伝えた。一旦カピラバストゥへと向かった軍としては引かねばなるまいが、ガウタマを迎えよという任務は果たしたいと思う。カランダは聞く。


「もしかして貴方がガウタマ仙か?」


「いーや。俺はガウタマ以上に尊い存在だ」


「???」


「俺はディーバダッタ。神の子、ディーバダッタだ。俺は村の人たちに三乗の乗り物があると言ったのに、アンタは一乗しかよこさなかったな」


カランダは抗弁しようとするが、ディーバダッタは手で制する。


「それでいいんだよ。みんな助かったんだから。アンタ、ガウタマを探しているのかい?なら俺にしときな。俺は本当のガウタマの教えを受け継いでいる」


ディーバダッタが指さした手には、白い蓮が大きく描かれた転生前のガウタマが遺した手記があった。

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