第17話 河原の乱闘
ミコトは東への道を歩み続ける。その時は河沿いの土手を進んでいた。五比丘やアングラマーラたちはカピラバストゥに残している。もしまたコーサラの侵攻があり国が滅ぼされてしまったなんてことになれば、彼らやミフユたちがその遺民を率いて新しい教団で受け入れる手筈だった。ヴィドゥーダバの手勢だけでは数的に流石に無理だろうとは思うが、パセーナディーがいつその気にならないとは限らない。全国制覇を目指すチームの覇気に似たものがコーサラにはあった。
ん?あれは…
行く手の先、土手を降りた広い遊水池のあたり、しかも周りから陰になっていてあまり人目につかないあたりがひとだかりになってきて、しかも二手にわかれて睨み合っているように見える。
おーおー、ああいうのやったな。夜の方がケーサツこないんだけど結局手元足元見えなくて昼間やることになるんだよな。うんうん。じゃなくて。
ミコトは駆け出す。俺もまぜろ。いや、違う。お釈迦さまはそんなこといわねーよなー。タイマンとかしちゃーいけねーよなー。
ミコトが到着する直前に、ついに乱闘が始まってしまう。あっちゃー。始まっちまったかー。俺抜きでー。しゃーねーな。土手を降り始める。すると、その姿に気圧されたのか、少しずつ、気づいた者たちからケンカをやめてミコトの方に膝をついた。経験からリーダーたち二人を見抜いてそこへと行く。体格とかじゃーねーんだ。あー、なんてーの?わかるんだよな、なんか、格っての。
リーダーの二人は自分たちが集団からそれだと見抜かれたことに驚くと、ミコトに礼をしてから訪ねた。
「こいつが、ヴァーセッタのやつが俺たちを馬鹿にすんすよ。生まれが悪りぃ奴は何しても悪ぃんだって。そんで俺たちキレちまって」
言われたヴァーセッタの方も言い返す。
「てめーがしょーもねーことばっかしてっからだろーがよ!バーラトバージャ!血筋のいい奴はてめーらみてーなくそみてーなことしねー」
「あー?やんのかこら?」
「あーん?」
ミコトは土手を歩いていた農夫を指差した。
「人間のうちで、牧牛によって生活する人があれば、かれは農夫であって、ブラーフマナではないと知れ。ヴァーセッタよ。
人間のうちで、種々の技能によって生活する人があれば、かれは職人であって、ブラーフマナではないと知れ。ヴァーセッタよ。
人間のうちで売買をして生活する人があれば、かれは商人であって、ブラーフマナではないと知れ。ヴァーセッタよ」
そのようにミコトは傭人(やといにん)、盗賊、武士、司祭、王についても続けた。
「われは、(ブラーフマナ女の)胎から生まれ(ブラーフマナの)母から生まれた人をブラーフマナと呼ぶのではない」
娼婦たちに説いたことを改めて若者たちに説いた。この時代ブラーフマナ(バラモン)は王侯より上位とされていた。
「すべての束縛を断ち切り、怖れることなく、執着を超越して、とらわれることのない人、ーかれをわたくしは〈ブラーフマナ〉と呼ぶ」
若者たちの目に光が宿る。いつしか、騒ぎを聞きつけた群衆も説法を聞いていた。
「世の中で名とし姓として付けられているのは、名称にすぎない。(人の生まれた)その時その時に付けられて、約束の取り決めによってかりに設けられて伝えられているのである。
(姓名は、かりに付けられたものにすぎないということを)知らない人々にとっては、誤った偏見が長い間ひそんでいる。知らない人々はわれらに告げていう、『生れによってブラーフマナなのである』と。
生れによって〈ブラーフマナ〉となるのではない。生れによって〈ブラーフマナならざる者〉となるのでもない。行為によって〈ブラーフマナ〉となるのである。行為によって〈ブラーフマナならざる者〉なのである。
行為によって農夫となるのである。行為によって職人となるのである。行為によって商人となるのである。行為によって傭人となるのである。
行為によって盗賊ともなり、行為によって武士ともなるのである。行為によって司祭者となり、行為によって王ともなる。
賢者はこのようにこの行為を、あるがままに見る。かれらは縁起を見る者であり、行為(業)とその報いとを熟知している。
世の中は行為によって成り立ち、人々は行為によって成り立つ。生きとし生ける者は業(行為)に束縛されている。ー進みゆく車がくさびに結ばれているように」
アクセルふかす手つきをしそうになった。
「熱心な修行と清らかな行いと感官の制御と自制と、ーこれによって〈ブラーフマナ〉となる。これが最上のブラーフマナの境地である。
三つのヴェーダ(明知)を具え、心安らかに、再び世に生まれることのない人は、諸々の識者にとっては、ブラフマンやインドラ[と見なされる]のである。ヴァーセッタよ。このとおりであると知れ」
(参加文献 中村 元 訳 ブッダのことば)
若者たちとやじうまの群衆は喜んでガウタマに帰依した。
ケンカの仲裁かー。
これで合ってるよな?ガウタマ。
ミコトは空に、この身体の主だったガウタマの思いを受け継ごうと願うのだった。
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