第7話 悪魔の軍勢

清々しい朝。


ミコトはスジャータを起こすことなく、ひとりで外へ出て昨日の夢のことを考えていた。少し歩いては良さげな樹のたもとに座って、ゆっくり考えてみることにする。


なんか速攻で眠くなってきた。そういやあんまり考えごととか苦手なタチだった。勉強とかそういうのが好きだったらゾクのヘッドなんてなってないよなー。まあ、あのままスジャータと一緒にいてもな…



!!!



いつの間にか、目を開くと周りを不気味なクリーチャーたちに囲まれている。小さく跳ねる人型、蛇の尾を持つもの、鱗肌に多足のもの、蝙蝠に似た人面のもの、形容しがたい不定形のもの…


ミコトをみじろぎせずにガンを飛ばす。気合いだ気合い。飲まれたら即呑まれる。それらは一体ずつミコトの前に向かい合って威嚇しながら言葉を発してきた。威嚇なら負ける気しねー。


人型の怪異。

「人々は苦行により浄められるのに、それを諦めた者が自らを浄いと言っておる!」

カッカッカと嗤っている。


ミコトは挑戦を受けてたった。

「苦行なんて意味ないんだよ。ぜんっぜん役に立たない。悟りってのはな、あー、悟りってのは…」

ミコトの心をかき乱すかのように周りの悪鬼どもの嗤い声が強まる。

「そう、精神統一。そしてあとは、あー、智慧。あとはまあ、戒律?かな。つまり悪いことをしないってことだ。俺が言うのもなんだけどな。そういうことだ。浄いってのは。お前の負けだ」


「貴様…知っているのか…」


小鬼は小さくなって消えてしまった。


次は蛇みたいなやつ。こいつはとにかく見た目で脅してきた。ミコトはビビらねーと決める。


「ガウタマにだって俺にだって、そんな姿でいくら脅したってダメだ。お前の負けだ」


蛇みたいなやつは慌てて逃げて消えた。


続いて多足のかいぶつがミコトの前に出る。


「貴様はもう俺の糸で縛られている。貴様は天と地の糸で縛られている。修業者よ、おまえはもう動けない。貴様はもう解脱することはない」


ミコトはやれやれといった感じで答えた。ぜんっぜんこわくねーぞ?


「俺はそんな糸なんかに縛られちゃいない。天?地?しらねーよ。たとえ縛られたって俺には効かねー」


ミコトは両手をひらひらさせた。そして手を組む。


「おまえの負けだ」


多足のかいぶつは怯えて逃げ消える。

「こやつはだめだ、こやつは我々のことを知っている!」


続いて蝙蝠に似た者がミコトの頭上を飛び回る。老いた顔がその腹からしゃべりだした。


「昼夜は過ぎ去らぬ。生命は損なわれぬ。人の寿命はめぐり廻る。車輪の巡るようにだ」


ミコトはその蝙蝠の腹から目を離さない。


「昼夜は過ぎていく。生命は損なわれる。人の寿命は尽きる。死が訪れないということはありえない。そこの小川の流れるように」


蝙蝠は逃げ飛んで消えていった。



ガウタマの智慧だろうか。後半はミコトが考えるよりも悪魔の軍勢たちへの答えが出てきた。やれやれと小屋へ戻るとスジャータはいなくなっていて、さっき残っていたはずの不定形のばけものが伏せて待ち構えていた。マジかー。


「お前はまた眠るのか?太陽が昇ったというのに」


ミコトは息を吸い、さっきは無意識にしたのうにガウタマの智慧を自分の中から探した。少しそのやり方がわかってきた気がする。


「一切の妄執が滅び尽きてしまったら賢者は微睡むのである。それがお前に何の用があろうか。悪魔よ」


不定形の悪魔はやはり怯えるように逃げ消える。


あくびをすると、ミコトはもうひと眠りすることにした。ごろんと麻の床へと横になる。


「智慧かー」


「勉強、すっかな。なにせ世界救わなきゃいけねーんだしな。よし、カピラバストゥに戻るか」


そこにはガウタマの読んだ本とかが残ってるかもしれなかった。

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