第6話 決戦は明日!~Ghosts are not scary !~
「宣戦布告……、ですか。この影月高校に、ひいては、この私に。戦争を仕掛けると」
生暖かい一陣の風が、黄乃城会長の長い黒髪を揺らす。
人形のように整った顔は、無表情のまま。
突拍子も無いダッキの宣言にも、眉一つ動かしていないのは、さすが“断罪”の魔女と言ったところか。
「フハハハ! 臆したか、黄乃城・ルナ! 我、咎ノ宮・ダッキ率いる『悪の組織部』はこの影月高校を支配下に置く! 逆らう者は全て切り捨てる! さぁ、恭順か死か? 好きな方を選ぶがいい!」
「無論、断罪します。この私が屈するなど、あってはなりませんから」
ダッキの言葉を、真っ向から受け止める黄乃城会長。2人の魔女の視線が、激しく交差する。
「ハーッハッハッ! いいぞぉ! いい答えではないか、生徒会長よ! 存分に乱れ狂おうではないか!」
「いいでしょう……。己の罪を悔いて、逝きなさい」
その場の緊張が、一気に高まる。
始まるのか……? と、皆が固唾を吞んで見守る中。
「とは言え……」
フッ、と。張り詰めた空気を和らげたのは、意外にも黄乃城会長だった。
「今、この場で始めるのは承服しかねます。終業式という学校行事の最中ですし、一般生徒を巻き込むわけにもいきません」
「ふむ……」
会長の言葉を受け、ダッキが顎に手をやって考える素振りを見せる。
「いたずらに被害を出しても、確かにその後の処理が面倒か……。よかろう! ならば明日、夏休みの初日に決戦としようではないか!」
「いいでしょう。やれやれ、また仕事が増えましたか」
事もなげに、肩を竦めてみせる黄乃城会長。
「皆の者、聞いたなー! 撤収であーる!」と、暴走族の集団を散り散りに返すダッキ。アフロの生徒を先頭に、爆音を鳴り響かせ帰っていく族の皆さん。暴走族がおとなしく指示にしたがうとは……。コイツ、変なカリスマはあるんだよな。
「さて、お待たせしました。校長、どうぞ終業式の続きを」
「うむ! さっさとやるがいい!」
えぇ……? この空気で……? みたいな顔をしている校長先生。そりゃ、そうだ。どんだけ肝の据わった教師でも、暴走族が乱入してグチャグチャになったグラウンドで終業式の続きとかしたくはないだろう。
「なんだ? 話が無いという事は、式は終わりでいいな! 生徒共! 終業式は無事終了である! 明日の『悪の組織部』対『黄乃城・ルナ』を心待ちにしながら帰宅するがいい!」
「貴女が勝手に仕切らないように。……しかし、確かにこの空気では式の続行は難しいかもしれませんね。校長。遺憾ですが、ここはこの黄乃城の顔に免じて、閉会として下さい。必要であれば、また日を改めてという事で」
「なになに? 帰っていーの?」「また咎ノ宮さんが面白そうな事やるみてーだな!」「よーし! 明日に備えて今日は帰るか!」
口々に友人達と話ながら、徐々に全校生徒が帰宅していく。
ややあって。
グラウンドに残されたのは、俺とダッキ、黄乃城会長の3人だけとなった。ちなみに、校長を含めた教師達も皆、校舎の中に戻って行った。終業式は終わったとは言え、まだまだ仕事があるのだろう。お疲れ様です。
「さて。それでは私も、生徒会の業務に戻るとしましょう。……くれぐれも、これ以上の騒ぎを起こさぬよう」
そう言うと、黄乃城会長はジロリとダッキを見やり、そして何故かその後、俺のほうまで見てきた。
「貴方もですよ、倫道・マサヨシ君? 『制御しろ』とまでは言いませんが、傍に居るのですから、『ブレーキ役』くらいにはなるように」
「……へ? なんで俺の名前知ってるんですか?」
「生徒会長たる者、全校生徒の顔と名前くらいは覚えていて当然ですから」
事もなげに、結構凄い事を言い放つ会長。この高校、生徒数やたら多かったような……。
それでは。と言い残し、颯爽と校舎へと入って行く黄乃城会長。その後ろ姿は、恐らくは同性であっても惚れ惚れするであろう、格好いいものだった。
「むぅぅ、最後まで気に食わん女だ! 汝よ、見ているがいい! 明日には
ダッキはダッキで、相も変わらずバカだった。
「いや、つーか、お前。どうすんだよ。影月高校に宣戦布告とか、黄乃城会長にまで喧嘩売るとかさ……。マジで、勝てるわけないんじゃね? “断罪”の魔女なんつー呼ばれ方してる人だぞ?」
「えぇい! 汝がそんな事を言っていて、どうする! 全く。そんな事だから、いつまでたっても背が伸びんのだ!」
「身長は関係
はい、キレた。もう、ブチギレ。人には、決して触れてはならない
「貧乳ー! ペチャパイー!」 「なんだとー! 汝はチビで天パではないか!」 と、俺とダッキがギャアギャア騒いでいると、いつの間に傍に来たのか。“風林火山”の4人が呆れた顔で周りに立っていた。
「いやぁ、部長殿と副部長殿は実に仲が良ろしいですな。剣吞、剣吞」
「剣吞は意味違うくない? まー、でもトガ助とマサ助って確かにいいコンビだよねー」
「おいやめろ。コイツと俺を勝手にコンビ認定するな」
取っ組み合いの喧嘩になりかけた所に、悪山が気持ちの悪い事を言ってくる。
ダッキと俺は、ただの腐れ縁なのだ。コンビなんて程いい物じゃない。
「そうだぞ、ロコ君。我と此奴は、どちらかと言えば水魚よりはむしろ犬猿の――」
そこまで言いかけたダッキが、ふと何かに気が付いたように、俺の服を掴んでいた手を緩める。
「……む?」
かと思うと、急に真顔になって、こちらに鼻を近づけてくる。
クンクンと俺の匂いを嗅いでは、しきりに首を傾げているのだが……。まさか、俺、汗臭い? ちゃんと昨晩もお風呂に入ったし、朝にデオドラントスプレーもつけてきたのに!?
「……いや、まさかな。我の考えすぎ、か」
よくわからない事を言っている。まぁ、コイツが意味不明なのはいつもの事だが、なんとなく普段とは違う感じがした。
「どうかしたのかい? 部長のキミよ」
「あぁ、いや。何でもないのだ、リヒト君。恐らくは、我の気のせいだろう」
急にテンションの下がったダッキを、怪訝な顔で見る4人。
それに気づく様子もなく、ダッキが漏らした呟きは――。
「……死んだ者が蘇るなど、そうそうあってたまるものか」
果たして、俺以外には聞こえたのだろうか……。
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