第5話 宣戦布告!~Freaks versus witch of judgment~
不思議な少女との出会いから、一夜明けて。
時は“
明日からの夏休みに浮かれる生徒達の気を引き締めるための、最後の行事。終業式が執り行われていた。
クラス毎に身長順に並んでいるため、150cm程度の、あまり背の高くない俺は、列の一番前に座っている。
うだるような暑さの中、校長先生の有り難くもどうでもいい話に皆が辟易し始めた頃。
突如としてやって来た、それに最も早く気がついたのは。
教師陣の横に並ぶ生徒会の面々の、その筆頭。
――私立影月高校には、3人の魔女がいる。
1人目は、
2人目は、
そして、3人目。
何があっても揺るがない、鋼鉄のような女。それがこの、影月高校生徒会長、黄乃城・ルナの評判だ。
とは言っても、彼女は先の2人とは決定的に違う所がある。
黄乃城・ルナは、正義だ。弱きを助け強きを挫く。その理想を、見事にやってのけた。
実は、影月高校と聞いて外の人間がイメージするものは、決して良いものではない。むしろ、ただでさえ悪名高い“
そう、彼女が入学するまでは。
手の付けられない不良達を、叩きのめして改心させ。腐りきっていた教師陣の悪事を暴いては、首を挿げ替え。果てはこの影月高校そのものを、創り変えてしまった。
文武両道、才色兼備、眉目秀麗。ありとあらゆる褒め言葉を用いてもまだ足りぬ程の、才能の塊。
“断罪”の魔女、と呼ばれる正義の権化。
「――おや」
だから、彼女がその異変に一番早く気がついたのも、自明の理というやつなのかもしれない。
最前列に座る俺だから、かろうじて聞こえた会長の呟き。女子にしては、低く落ち着いた声だ。
「で、あるからしてー、えー、青春という名の人生の一ページを彩るのは――」
「校長、ちょっとよろしいでしょうか」
長く美しい黒髪を風になびかせながら、黄乃城会長が校長の話を遮る。
何よりも秩序を重んじる会長にしては、珍しい事だ。その場に居る生徒や教師から、どよめきが起こる。
「む、どうしたのだね黄乃城君。ここから私の青春時代の思い出である、妻との馴れ初めをネットリコッテリたっぷりと皆に惚気ようと思っているのだが――」
「黙れ、ハゲ」
ハ、ハゲてないもん! ハゲてないもん! ちょっと、つむじとおでこが繋がっちゃってるだけだもん! と、狼狽する
「どうやら、終業式は一時中断のようです」
「へ? そ、それはどういう……」
会長が、グラウンドのある一点を見やる。そちらの方向には、校舎の影になって直接は見えないが、影月高校の大きな正面校門がある筈だ。
誰もが、そちらに注目した時。
――遠くから、音が近づいてきた。
最初は微かな、小さな音。しかしそれは、瞬く間に無数の轟音へと変貌した。
明らかに必要以上に増幅された、唸りを上げるエンジン音。パラリラパラリラと、けたたましいミュージックホーン。そして、熱狂的とも言えるような――、怒号。
「え? なになに?」「暴走族?」と、その場に居る全員が動揺する中、黄乃城会長だけは眉一つ動かしていない。
市街を通り抜け、影月高校の敷地内へ到達したのであろう、爆音を放つ違法改造された車とバイクの集団。
やがてグラウンドに現れた、その暴走族へ。
俺は、全力でツッコまざるを得なかった。
「はーっはっはっは! 我! 参!
「――何してんだ、こんのバカ女ァァァ!」
30台以上はいる、暴走族の集団の先頭。やたらと高い位置にハンドルがあるハーレーを運転する、冗談みたいに巨大でしかも金髪のアフロ……の、不良。
そのモコモコの金アフロの中に腰まで埋まりながら、ダッキが腕を組みふんぞり返っていた。不良の体格から考えるに肩車でもされているのだろうが、傍目にはアフロからダッキの上半身が生えているようにしか見えない。
いや、確かに、朝から姿が見えないとは思っていたんだ。
体調不良とかだろうか? 今日一日来ないようであれば、帰りに見舞いにぐらい行ってやろうかな――、なんて。
のほほんと考えていた、俺こそがバカだったのかもしれない。
いや、にしたってコレはやりすぎだ。朝っぱらから、暴走族を率いて終業式に乱入するなど、悪名高い影月高校の歴史の中でも恐らくは初だろう。……というか、なんでコイツ、アフロに埋まってるんだ?
ドルンドルンと砂埃を上げながら、生徒会の面々から距離を置いて停車する暴走族の集団。
「とぉう!」
アフロから跳びあがり、空中で綺麗に一回転を決めて着地したダッキが、黄乃城会長と相対する。
そんなダッキを見て、俺は。
「ブフッ」
吹き出した。
おかしい。いや、もう何処からツッコんでいいかわからないくらい何もかもおかしいが、ダッキの格好が
制服でない、私服ですらないだろう。そもそも衣服というには、布面積が少なすぎた。肌色が露出しまくっている。
黒いビキニが、イメージ的には一番近いだろう。胸と股の大事な所しか隠していないような、きわどい衣装でスレンダーな体を惜しげもなく披露し。
悪の一文字が刻印されている金バッジがついた、黒い
表地が黒、裏地が赤の大きなマントを風になびかせ。
腰には、
どうフォローしても悪の女幹部か何かのコスプレにしか見えない、そんな咎ノ宮・ダッキが不敵に笑っていた。
「はーっはっはっは! どうだ驚いたか、黄乃城・ルナ! あと、昨日我らを置いて勝手に帰宅した
うわ、巻き込まれた。ツッコんでしまった時点で無関係を装えなくはなっていただろうが、全校生徒と教師陣の前で
チラリ、と黄乃城会長がこちらを見る。違うんです、俺は何も関与していません。全部あのバカ女がやった事です。
「……それで」
視線を、正面のダッキに戻した黄乃城会長が口を開く。これだけの騒動が起こって尚、静かな声色だ。
「問題児達がまとめて、一体何事です? 私に“断罪”されに来ましたか?」
“断罪”という単語に、その場に居る生徒達の血の気が引く。
こいつは、会長の決めゼリフだ。不良を叩きのめす時も、悪徳教師を糾弾した時も、この言葉を使っていたらしい。
「くっくっく。あぁ、そうとも言えるなぁ。もっとも、簡単に“断罪”などされはせぬがな! しかと聞くがいい! 今日、この時をもって我ら『悪の組織部』は!」
“断罪”の魔女を指差す、“狂乱”の魔女。
心底愉快そうに、そして高らかに言い放った言葉は。
「私立影月高校に! 宣戦布告をする!」
“狂乱”の通り名に、或いは、その可笑しな格好に相応しい。
とんでもない宣言だった。
あれ? これ、もしかして俺も学校の敵になるの……?
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