第2話の2 参上!謎のイケメンとマッチョマン!
あの後。
爆発四散した実験室を、超片付けた。『問題委員会』のメンバーを、結局手伝ったのだ。
途中から他のクラスの生徒や、生徒会の人まで手伝ってくれた。「倫道君も大変だね」って同情までされちまったよ。生徒会の人、凄い良い人だったよ。
「流石に疲れたぜ……」
教室一つを元通り……には、まぁ、不可能だったが。なんとか空き教室みたいな状態にまでは修復できた。
予想外の重労働に疲れ果てながら、ふらふらとゾンビのように校舎内をさまよっていると、いつの間にか中庭にまで来てしまっていた。
「中庭か。ちょうど、ノンビリできていいや」
影月高校の敷地は他の学校と比べても、かなり広いほうだろう。
この中庭も例に漏れず相当広く、下手をすれば小さな学校のグラウンドぐらいある。
花壇やバラ園、小動物の飼育小屋やビオトープと呼ばれる金魚とかカエルとかが棲んでいる池と川、更には中央に噴水まである。
「ウサギさんの小屋にでも行ってみるか。今の時間って餌やりできたっけな」
実は、俺は自然が好きだ。小さな動物達とか、超好き。見てるだけで超癒される。
校舎の出入り口に立ち、さて飼育小屋はどっちだったか、なんてキョロキョロしていると。
――不意に、バラの花びらが降ってきた。
「……は?」
一枚や二枚ではなく、それこそ数えきれない程の赤い花びらが。独特の良い香りと共に、無数に。
それらは風に舞い、さながら優しい吹雪のように空間を彩る。
しばし、幻想的な光景に目を奪われていると。
「フッフッフ。気に入ってくれたかね、疲れた顔のキミよ!」
「へ?」
声の出どころを探るが、周りに人は見当たらない。
「上を見たまえ! 疲れた顔のキミよ!」
「え?」
言われるがまま、上を見る。四階建ての校舎の上、屋上の縁の、更にフェンスの上に。
人が立っていた。
既にやや日が沈みかけているため、その人物が何者かはわからない。だが、それは紛れもなく人だ。腕組みをして、仁王立ちしているように見えるその人影は。
「フッ。今、そちらへ行こう! トォウ!」
と、言うが早いか。
フェンスから飛び降りた。
いや、跳び上がった、と言ったほうが正確かもしれない。
「えええ!?」
クルリ、クルリと。優雅な、しかし力強さを感じさせる、しなやかな身のこなしで。
その人物は、バラの花びら達と一緒に空を舞い降りてきた。
そして、一瞬の後に。
ドゴォォォン!
凄い音を立てて、頭から地面に墜落した。
「……えーっと」
俺の呟きに、答える人は誰もいない。ていうか、屋上から跳んだりしたらそうなるだろ。
何これ、自殺? え? なんかクルクル回ってたけど、頭からいく? いや、足から着地したとしても、最低でも大怪我だったろうけどさ? え? どうすんのこれ、どうしたらいいの?
「あ、あの……。大丈夫ですか……?」
突然の惨事に混乱しまくるが、まずは声をかけてみよう、という結論に至った自分を褒めてやりたい。
けれど屋上から降ってきた彼……、服装から男子生徒なのはわかる。青い長髪が肩くらいまであり、顔は地面に突っ伏しているためわからないが、体つきは全体的にスラリとしている。
そんな彼は、壊れた人形のような恰好のまま、ピクリとも動かなかった。
本当にお亡くなりになってしまったのだろうか……?
「こ、こういう時は、保健室? 救急車? いや、まず先生に報告か?」
慌てる俺の背後から。
「おい……」
突如、声が掛けられた。
「え?」
振り向く俺の、目の前に。
――壁が、そびえ立っていた。
いや、こんな所に壁は無い。少なくとも、さっきまでは無かった。
ゆっくりと、視線を上に向けていく。
そこには。
「何か、あったのか……」
一人の男子生徒がいた。
しかし、まずその身長が凄い。斜め上、というか真上に近い角度で見上げなければいけないくらい位置に厳めしい顔がある。小柄な俺と比べれば、1.5倍くらいあるんじゃないか?
そして何より目を引くのが、俺の太股以上の太さがありそうな腕。筋肉という言葉の権化のようで、何もしていなくても、力こぶが盛り上がっている。無論、腕だけではなく体全体も凄い。制服のブレザーをキチンと着てはいるが、その中身は鋼鉄のような肉体であろう事が容易に想像できる程、ぱっつんぱっつんになっている。
ボディビル大会のチャンピオンとかが制服を着たら、こんな感じになるのではないだろうか?
短い金髪をツーブロックにして逆立てているのが、浅黒い肌によく似合っている。
ていうか、ブレザーのネクタイの色が黄色!? この学校では、3年生が赤のリボンやネクタイで、2年生が緑なのだ。黄色は1年生だ……、コイツ年下かよ!?
「どうした……?」
「あ、い、いえ」
上級生にタメ口で話す
「えっと、なんか、この人が急に屋上から飛び降りてきまして」
敬語のまま、未だに倒れたままの彼を指差す。するとマッチョマンは、深く嘆息した。
「また、か……」
「へ?」
え、この人そんなに毎回飛び降りてるの?
「心配ない……。世話を、かけた……」
そう言うとマッチョマンは、まるで子猫をつまみ上げるかのように軽々と倒れている男子を持ち上げて肩に担いで。
「では、な……」
と言い残して、人一人担いでいるとは思えないくらいの平然とした足取りで、どこかへ去っていった。
バラの花吹雪もいつしか止み、風だけが中庭に吹き抜ける。
嵐のような出来事に、俺は。
「なんだったんだ……」
呆然とするしか、できなかった。
……。
……、……。
……、……、……。
「遅い!」
いつから教室に戻ってきていたのか。
肉体的にも精神的にも疲れ果て、教室に戻った俺を出迎えてくれたダッキの第一声である。
「まったく、どこをほっつき歩いていたのだ
「いや、なんでいきなり怒られてんだよ……。てか、
ダッキに返答しながら自分の机まで行き、カバンに教科書や筆記用具を詰めていく。
もう帰ろう。お家に帰って、ゆっくりしよう。コイツに付き合って残っていたのが、そもそもの間違いだったんだ。
「うん? 何故、帰宅の準備を始めているのだ。もうじき“風林火山”が揃うというのに」
「迅速かつ速やかに帰らせてもらう」
これ以上の面倒事はゴメンだ。
ダッキの言葉を受け、急いでカバンを持ち、一歩を踏み出したその時。
「おっ待たせ致しましたー! “風”と“林”と“火”と“山”、勢揃いしてございまーす!」
しまった、遅かった!?
教室の扉が勢い良く開かれ、“林”担当の
「さぁさぁさぁ! 御三方、ずずいと前へ! こちらが、我ら『悪の組織部』の部長殿と副部長殿でございますよー!」
そうして、丸メガネの女子に続いて入ってきた三人は。
「おー。やっぱ、マサ助じゃん」
「おぉ、先程の疲れた顔のキミじゃないか!」
「む……」
まぁ、何て言うか。予想通り。
さっき会った人達だった。
あぁ……。
マジで、お家帰りたいなぁ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます