決戦!影月高校生徒会!

第3話 出会い、そして予兆!~Daemon is hidden in darkness~

「なんだ、それではもう初顔合わせは済んでいるのか」


「いや、済んだっていうか……」


 影月高校、2-A教室。もう日は暮れ、蛍光灯の白い光に照らされながら俺はダッキに答えた。

 教室内には、俺とダッキの他にあと四人。それぞれ自由に、適当な机や椅子に腰かけている。ちなみに、ダッキは何故か教卓の上に腕組みしながら仁王立ちしていた。

 同じクラスの、悪山あくやま・ロコ。“風林火山”の“林”である、辜林こばやし・スピカ。この二人はわかるにしても。

 顔だけは知っている、でっかいマッチョの後輩男子。それと、顔もロクに見えなかった屋上から落ちてきた人。この二人は、顔合わせが済んだかと言われれば微妙な所だ。

 というか悪山も含め、この三人が“風林火山”のメンバーだとは、俺はついさっき知ったばかりだし。


「ふむ? ならばここで一度、全員自己紹介でもやっておくとするか。これから先、長い付き合いになるのだ。なにせ、我らの最終目標は世界征服だからな!」


「フッ。ならば、“風”のボクから始めようじゃないか!」


 ダッキの戯言に応じ、屋上から落ちてきた人が名乗りをあげる。

 ……落ち着いて見れば、この人かなりの美形イケメンだな。

 肩まで伸ばした青い長髪はなんかキラキラしていて、整った容姿にモデルみたいなスラッとした体格と相まって、どこかの貴族みたいな印象を感じさせる。とどめに、バラの花を口にくわえている。どこの少女漫画の登場人物ですか? といった感じだ。

 ……もっとも。鼻に、真っ赤に染まったティッシュを詰めていなければ、だが。この人もダッキや悪山と同じく、残念な人なのかもしれない。

 ブレザーのネクタイが赤色な事から、3年生なのだろう。これほどのイケメンなら、別学年でも女子なら知っているかもな。


「ボクの名は禍風まがかぜ・リヒト! 影月高校3年C組の生徒にして、“元”園芸部部長さ。今は“風林火山”の“風”、諜報や情報収集担当だけどねっ! よろしく頼むよ、ベイビーたち」


 キラキラと、なんか光輝く粒子を撒き散らしながらバラの花を手に、スマイルを決める禍風先輩。一般人がやるとギャグにしかならない行為も、イケメンがやると様になるようだ。

 鼻にティッシュさえ詰めてなければ、凄く格好いいんだろうな。ティッシュさえ詰めてなければ。


「禍風殿の次は、“林”の手前でございますね!」


 はいはいはーい! と、ダッキが立つ教壇の傍に控えていたスピカが元気よく手を上げる。


「手前は、その名も辜林こばやし・スピカと申します! 1年D組のクラスメートからは皮肉を込めて雄弁家スピーカーなどと呼ばれておりますが、いやいやところがどっこい! こう見えて手前は中々に人見知りな性格なものでして! そのような自分を変えるために放送部に入部し、当時の部長を東呉舌戦の諸葛孔明伝説的レスバ超人もかくやとばかりの名演説でばっさりと斬り伏せ、見事手前が部長の座に就任したのですぞ! いや、あの時の元部長殿のぐうの音も出ぬといった顔は、皆様にも見せたいくらい愉快痛快でございました! もっとも、今や手前が元部長になった有り様ではありますが! しかし、こうして世界征服を目指す部に属す事ができるとは、まさに光栄の至り! そもそも、辜林のお家は……」


「あ、うん。スピカ君、もういいぞ。では、次はウオウ君だな?」


 マシンガンのようにまくし立てるスピカを途中で遮り、ダッキが次の人を促す。

 えー、とかなり不服そうなスピカだが、いやコイツ、マジで話が長ぇ! 放っとくと、一日中でも平気で喋っていそうだ。


「俺、か……」


 ズン、と。姿勢よく椅子に座っていたマッチョが立ち上がり、一歩前へ出る。

 うぉぉ……、この人やっぱ迫力あるな……。強面の顔と大柄な体格に加えて、目つきがとても鋭い。絶対、何人か殺してそうだ。


罪火つみび・ウオウだ……。俺には、気安く……」


 あぁ、うん。そんな感じですよね。気安く話しかけるな、って。そりゃそう……


「話しかけてくれると、嬉しい……」


「……へ?」


 想像していたのとは真逆の言葉に、思わず目が点になる。


「ウーちゃんって……、呼んでくれ……」


「……」


 なんだろう。この後輩、ウーちゃん? からも残念な感じがする。ここには残念な奴しかいないのか。


「ほう。中々、可愛いあだ名ではないか。よかろう! ならば我の事も、親しみと敬意と愛情を込めて“ダッキちゃん”と呼ぶがいい!」


「わかった……。ダッキ、ちゃん……」


 ちゃん付けに、どう敬意を込めろと言うのか。そもそも後輩にちゃん付けされるのは、先輩とか部長とか悪の組織とかからして、どうなんだ。

 もはやツッコむ気力も無くなってきた俺には構わずに、最後の悪山が前へ出る。

 もう帰ろうかな。ダメかな。

 ……こっそり帰ってみようかな。


「はいは~い。いつもニコニコ、マッドでBOOMブーム! でお馴染みの悪山あくやま・ロコだよ~。よろしくね~、トガ助にマサ助。アチシは研究やら改造やら担当で、そっちのウー助は戦闘担当ね。ま、見りゃわかると思うけど。……ん?」


「ふむ、これで“風林火山”の自己紹介は終わったな。せっかくだ、我らも自己紹介をするとしよう! では、我からいくぞ! 我こそは咎ノ宮とがのみや・ダッキ! 栄えある悪の組織部の部長と書いてラスボスである! 夢はもちろん世界征服であり、その為にはいかなる手段をも……」


「ねぇねぇ、トガ助。一人で盛り上がってる所、悪いんだけどさ」


 ちょいちょい、と悪山がダッキを制してこちらを指差すのが目の端に映る。

 クソッ、扉まであともうちょいだってのに! ……かくなる上は。

 全! 力! 疾! 走!


「マサ助、帰ったよ。たった今」


 なにぃー!? と叫ぶダッキの声を背に受けながら。

 『走るな コロすぞ by生徒会』と書かれた張り紙のある廊下を、全速力で駆け抜ける俺なのだった。


 ……ただ、後から思うに。

 俺がこの時、一人で先に帰ったのは。

 ? なんて、考えてしまうのだ。

 そんな出会いが、もう、すぐそこにあったのだから。

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