片想いロシアンティー
ピピピピピ――……。
軽い電子音が頭上でそこそこの音量をもって鳴っている。三月に入り寒さもそろそろ和らいでくる頃だけれど、まだまだ冷えるこの時期。布団の奥底に埋まっていた私は電子音に叩き起こされて眠い目を擦った。
ピピピピピ――……。
鳴り止むことのない電子音。煩わしいそれを止めるべく布団から手を出してヘッドボードの棚を右往左往させる。けれど目的のものに手が当たらない。仕方なく身体を起こして見やれば、眼鏡を掛けていないぼんやりとした視界に目的のものを捉えた。ぺしり、と音の発信源……目覚まし時計のボタンを叩くと音が止まる。
次第に広がる静けさに慣れてくると、チチチ、という小鳥の声が微かに聞こえた。顔を上げ、見やった窓からは柔らかな日差しが差し込んでくる。未だに手を乗せたままだった目覚まし時計を持ち上げて見れば、針は十時を指していた。一瞬仕事という焦りが過ぎるが、今日はそういえば休日だったと思い出す。だからこそ目覚ましは随分とのんびり屋だったのだけれど。
スヌーズでまた鳴り出す前に目覚まし機能自体をオフにして、ヘッドボードに戻しながら今度は眼鏡を手にして掛けた。視界がクリアになって部屋の様子がよく見て取れる。
脱ぎ散らかされたYシャツ、カーディガン、スカート、ストッキング……昨日着ていた洋服があちらこちらに落っこちていた。それを見て、ああ、と小さく声を溢してしまう。そう、昨日は金曜日だった。
私は今、電気給湯器の修理販売を行う中小企業で働いている。三月はまだまだ給湯器の活躍の場は多く繁忙期真っ只中で、修理・交換・購入の電話がひっきりなしに鳴り響いていた。特に土日祝日は休日になるために金曜日は駆け込み電話が多い。酷い残業に見舞われた。
日付が変わるか否かにひとり暮らしのアパートへ帰宅して、へろへろになりながら部屋着に着替えた。お風呂になんて入る気力はなく、メイクもメイク落としシートでゴシゴシと拭い去ってベッドに潜り込んだ。そして、一応は家事を片付けようと目覚ましを十時に設定して今に至る。
ぼんやりとした頭で昨晩を思い出し、大きなため息を吐き出した。とりあえず洗濯物の回収と昨日入れなかったお風呂に入りたい。今年で齢三十に突入する干物女はまだまだ寝たい身体を無理やり動かして、ベッドから抜け出し冷えた部屋へと身体を晒した。
【サンプルここまで】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます