ボクっ子、ドジっ子、男の娘
「はい、ジャムどうぞ」
「ありがと」
熱々のパンに苺ジャムを塗り、頬張る。
サクサク音を立てながら食べていく。
口の中が乾いてきて水分が欲しくなったら、インスタントのコーンスープで口の中を潤す。
そして、塩分が欲しくなったら目玉焼きとウインナーを食べるのだ。
これが毎朝の朝食ルーティーンとなりつつあった。
忙しい朝に楓がぱっと作れるメニューということで、これからも朝食はこのメニューが定番となりそうだ。
「結局、料理は完全に任せけど大変じゃないか?」
凝った料理ではないとはいえ、毎朝作るのはそれなりに大変なはずだ。
俺だったら三日も続く気がしないが、楓は引っ越してからの一週間、毎朝ご飯を用意してくれている。朝だけでなく、昼も夜もだ。
「料理担当は、ぼくだからね。このぐらいは任せておいて!」
食パンを両手で持ちながら食べるのは小動物のようで愛らしいが、この家のシェフを頼りにさせてもらおう。
「頼りにしてます! 楓シェフ!!」
「シェフはやめてよ、恥ずかしいから」
本当は嬉しいのに謙虚なところが楓らしい。
「そういえば、入学式って午前あがりだっけ?」
「昼過ぎには終わるって書いてあったけど」
「そうか、昼ごはんはどうする?」
「お弁当は作ってないし、どこかに食べにいこっか」
楓の手作り弁当、なんて素晴らしい響きだ。
まさか、毎日作ってくれるのか?
「毎日、弁当作るつもりなのか?」
「そのつもりだけど」
「購買とかでよくないか?」
「節約にもなるからいいの」
まさかこんな大豪邸の中で、節約の二文字を聞くとは思わなかったな。
「助かるけど、無理はしないようにな」
「うん」
料理担当として少し張り切りすぎな気もするが、嬉しいから頼むとしよう。
代わりに俺も他の家事には力を入れなければいけないな。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
料理は楓が担当となっているが、自分の使った食器は自分で洗うというルールになっている。
俺は食器を洗いながら、まだ朝食を食べている楓に話しかける。
「まだ、時間には余裕がありそうだけどどうする?」
「んー道もよく覚えてないし、散歩しながら早めにいこっか」
「わかった」
食器を洗い終わると、自分の部屋に戻り学校の制服に着替えた。
俺と楓が入学する
「着かたってこれで会ってんのかな」
部屋にある全身鏡で自分の姿を確認するがどうもしっくりこない。
見慣れないせいもあるかもしれないが、生まれて初めてネクタイをつけたのでどうも違和感を感じる。
「父さんに聞いときゃよかったな」
少し後悔したが、よく考えると父さんがネクタイをしているところなんて見たことがない。いつも、つなぎを着ていた。農家だしな。
着替えが終わり、忘れ物がないことも確認して一階に降りていく。
下に降りると、先に準備が終わっていた楓が待っていた。
「日真の制服姿見慣れないね」
「そうか?」
楓はそう言って笑っているが、俺からしたら楓の制服姿の方が違和感がつよい。
何せ半年前までは女だと思っていたのだから、男物のブレザーをきていることに違和感しか感じないのだ。
「楓は似合ってるな」
「本当? ありがと!」
違和感は感じるが似合っていることに変わりはない。
ひとまず、褒めておこうではないか。
「それじゃ、いこっか」
今年の桜は入学式に合わせたかのように今日、満開を迎えている。
家から学校までの道に咲いている桜の花は、道をピンク一色に染めずらりと並んでいる。
そんな、桜の木の下を高校生活について話しながら歩いていく。
「人が多い教室ってどんな感じなんだろう」
「なんか、集中できなそうだな」
「今まで二人だったしね」
「いきなり十倍以上の人数が同じクラスだからな」
中学までは同級生は楓だけだったから、教室に何十人も人がいる雰囲気がまるでわからない。俺と楓の一番の不安要素は人の多さだろう。
「ぼく、うまく話せるかな・・・」
楓は普段から、あまり積極的に前へは出て行かない性格なのだ。
能天気な俺とは違って、人と話す不安が大きいのかもしれない。
「少しずつ慣れていけばいいさ」
「うん」
今日の楓は少し元気がない。生まれてからほとんど一緒に過ごしてきたらなんとなくわかるのだが、かなり緊張している。
これは俺がなんとかしなければ!
具体的に何をすればいかは思いついていないが、謎の使命感が湧いてくる。
「日真はさ、、っと!!」
楓がつまずき転びそうになる。すかさず楓の前に手を伸ばし、なんとか転ばずにすんだ。
「おいおい、緊張しすぎじゃないか?」
「そうかも、少しリラックスしなきゃね」
つまずいた衝撃でバックから、筆箱やら何やらいろいろ飛び散ってしまっていた。
「楓ってこんなにドジだったか?」
「たっ、たまたまだよ!」
そう言って俺から視線を少しずらす。
まさか、俺が気がついていなかっただけでドジっ子なのでは?
男だと気がついていなかったし、全然ありえるな。
ボクっ子、ドジっ子、男の娘か。
いいリズムだな。
「まあ、怪我がないならいいか」
「ありがと日真」
楓を元の体勢に戻し、散らばったものを拾おうとすると、後ろからとても透き通った声で話しかけられた。
「あの、これ」
振り向くと、そこにはとんでもない美少女が立っていた。
肩より少し下まで伸ばしたさらさらの黒髪に、整った顔立ちはまさに優等生美少女のイメージ通り。
楓が可愛い系だとしたら、この子は美人系。楓は男なのだが。
「あっあ、どうも」
今考えると、年齢の近い女の子がいない環境で育った俺は、若干挙動不審になりながらも拾ってくれた楓の学生証を受け取る。
「じゃあ、私はこれで」
「あ、はい。ありがとうございます」
黒髪美少女は軽くお辞儀をして去っていった。
彼女が俺と楓の横を通り過ぎて行った時、俺は彼女と目が合った気がした。
思春期男子特有の勘違いでなければいいのだが。
「すごい綺麗な人だったね」
「いい匂いしたな」
俺たちはしばらくの間、前を歩いていく彼女の後ろ姿をただ眺めていた。
「すごい人だね」
「他の高校からしたら人数は少ないらしいけどな」
「これより多いって想像できない」
俺と楓は学校の昇降口前まで来ていた。新入生のクラス分けが書いてある掲示板を見るためだ。
「一緒のクラスになれるかな」
「三分の一で同じクラスのはずだから、多分いけるさ」
登校時間より三十分以上は早くついたのだが、入学式ということもあってかもうほとんどの人が来ているのではないだろうか。
俺たちが通う海香高校は、一学年が百人前後で他の多くの高校と比べると人数が少ない。花言町よりは多いとはいえ海香町もそれほど住んでいる人の数は多くない。住宅街というよりかは観光地として有名な場所だからだと思う。
そんな、人数が少ない高校と言っても俺たちの中学と比べると明らかに多いのだが。
俺と楓はその人混みになかなか入っていくことができず、自分たちのクラスを確認できないでいた。
「君たちは見に行かないのかい?」
突然後ろから声をかけられた。用務員のような格好をしたおじさんが立っている。手にはじょうろを持ち、土で汚れた軍手をしている。花壇の手入れなどでもしてきた後のようだ。
離れて人だかりを眺めている新入生に気を使って声をかけてくれたのだろう。
今日は後ろからよく声をかけられる日だ。
「あー、その、あまり人だかりとかが得意じゃないんですよ。 ド田舎で育ったので」
急に話しかけられると楓は緊張して話せないので、基本は俺が話す。
俺も話すのは得意ではないが、特別に苦とは感じないからだ。
「そうか、そうか、こらへんの子じゃないとは珍しいの」
用務員のおじさんは優しく話しかけてくれる。
中学時代、生徒の数が少なく教師と生徒の距離が近くフレンドリーだったこともあり、こんな先生がいてくれると安心できる。
「俺たち、花言町からきたんですよ」
「ほお、あそこはいいところだ」
「知っているんですか?」
「私は花言町で働いてたことがあるんだよ」
「そうなんですか!」
「何十年も前に、花言町の学校でな」
花言町にいたからこんなに近い距離で接してくれるのかとも思ったが、元から生徒との距離が近い先生だったのだろう。理由はないがそんな気がする。
「おぉ、そうだ!」
用務員のおじさんは、手に持っていた道具を置き軍手を外すとズボンの後ろのポケットから紙切れを取り出した。
「よかったら、これを使いな」
そう言って、俺に丁寧に折りたたまれたしわくしゃの紙を手渡した。
「えーっと、これは?」
「新入生のクラスが書いてある紙だ、人がまだ多そうだからね」
親指をたてウインクしている。とても愉快な先生のようだ。俺はそんな雰囲気が好きで、この先生の事をすぐに好きに慣れそうだ。
「ありがとうございます! 楓ほら」
人見知りで話してはいなかったが、楓もお礼を言って二人で名前を探し始めた。
「あった!」
探し始めてわずか1秒。すぐに名前は見つかった。
「1ー1の1番と3番か」
雨戸と井晴の苗字は出席番号にしたらかなり前の方になる。今まで二人しかいなかったため意識したことはなかったが、一組一番の座について少し嬉しい。
「よかった、一緒だ」
楓は安堵の表情を浮かべ胸をなで下ろしている。
「楓、そんなに俺と一緒が・・・」
「当たり前じゃん」
冗談のつもりで言ったのだが真剣に返されてしまい、思わず喜びのにやけが漏れそうになる。
「お、おう」
恥ずかしくなり、顔が赤くなりそうなので話相手を用務員のおじさんに向けることにする。
「ありがとうございます! 見つかりました」
「それはよかった。雨戸くんと井晴くんでよかったかな?」
「そうですけど、名前言いましたっけ?」
名前を言ったつもりはなかったけど、言ったかな?
「番号と名前ぐらいは覚えてるよ、もう顔も覚えたからね」
「すごい」
驚きで楓の口から言葉が漏れた。
用務員さんは嬉しそうに楓の方を見て微笑むが、人見知りが発動し俯いてしまった。
いろいろなことを器用にこなす楓だが、人見知りだけは直らないらしい。
「それじゃあね、雨戸くん井晴くん」
「はい、ありがとうございました」
常ににこにこしていた用務員のおじさんは、置いた道具を持ち上げると校舎の裏の方に消えていってしまった。
「楓・・・」
「何?」
「もう少し、人見知り直そうな」
「善処します」
あ、これやらないやつや。と思いながらも人見知りの気持ちがわからないわけでもないので、あまり強くは言わないでおこう。
それから俺たちは掲示板に用はなくなったため、素通りして1−1組の教室に入った。入学式まで時間があるので楓と二人で話していた。楓が自分の机に座り、俺が机の脇に立って話している。これ自体は、どこの高校でもよくある光景だろう。しかし、俺たちはクラスメイトの注目の的となっていた。
「ねぇ、日真。なんかすごく見られてる気がするんだけど」
「実は俺も少し前から周りからの視線が痛い気がするんだが」
お互いの声が周りには聞こえないように、ひそひそ声で会話をする。
周りを見渡すと、明らかに俺たちの方に視線が向いている。
まさか、田舎者臭がするのか?
「俺らって田舎者くさいのか?」
自分の匂いを一通り嗅いだ後、楓にも意見を聞いてみる。
「日真、ふざけてる?」
「真面目なんだが?」
至って真剣に考えていたつもりだが、呆れられた表情をされてしまった。
実は薄々この痛い視線の理由には気付いてたんだが。本人が気付いていないみたいだから黙っていた。
まぁ、こんな可愛い子がいたら誰でも気になるよな。
でも一番の驚きは、その可愛い子が男子の制服を来てるってことだろうな。
わかる、わかるぞ!! 俺も十数年一緒にいて、気づかなかったレベルだからな、その気持ちはよーくわかる!
クラスの男女ほとんどの視線は俺たちに向いていた。俺たちというか、楓になんだけど。
そして、クラスの男子の視線は半分が楓、もう半分が窓際の一番後ろの席に座る女子生徒に向いていた。当然、俺と楓の視線はそちらに向く。
そこには、一人で外を眺める黒髪の美少女がいた。
ただ座っているだけなのに、とても絵になっている。
何時間でも眺めていることができる。そう思った。
「日真、あの子って」
「あぁ朝の子だな」
もう一つの注目の的となっている女子生徒は、朝に楓の学生証を拾ってくれた子だ。
あれだけの美少女にはなかなかお目にかかれないので、すぐにわかった。
「同じクラスだったんだね」
「そうだな」
「やった」
「ん? 何か言ったか?」
「いや、何も言ってないよ」
顔を赤くして少し慌てている。
どうしたんだろう。
教室の中は新しい環境に落ち着かず、がやがやしている。
そんな騒がしさが、先生が入ってきたことによりすぐに静かになった。
「よーし、全員着せーき」
勢いよく扉を開け入ってきたかと思うとすぐに生徒全員を座らせた。
「休んでるやつはなし! よっし! 全員いるな」
体育会系という雰囲気ではないが元気のいい先生だ。
見た目はかなり若く、俺たちとあまり歳が離れていないように見える。
「私の名前は、
手を上にあげながら、自己紹介が終わった。
身振り手振りまで賑やかな先生ということはわかった。
「名前が強そうとか堅い感じがするってよく言われるから、くもちゃんとかくも先生と呼んでくれ」
軽いなと思いながらも、取っ付きやすそうな先生でよかった。
あまりにも怖い先生だったら嫌だったからな。
「何か質問がある奴は?」
自分が手をあげながら、質問があるかを聞いていく。
しかし、まだ慣れない場で発言できる奴は少ないだろう。案の定、質問はなかった。
「質問はないようだから、入学式にいくぞ。移動開始!」
くもちゃんの号令とともに各々が好きなペースで体育館への移動を開始した。団体行動をしろなどとは強く言われない、緩い校風のようだ。
ちなみに俺は、先生とは近い距離感が好きなのでくもちゃんと呼ぶことにした。
入学式のために体育館に全校生徒と教職員が集まっていた。
新入生を前にして生徒がきれいに並ぶ。
俺はそれを見て、人はこんなにまとまるものなのかと感動した。感動するところが少しずれてるかもしれないが、初めて見ると迫力がある。俺も一部なのだが。
普通の学生だったら入学式はそこまで楽しいものではないのかもしれない。しかし、俺にとっては見るもの全てが新鮮で驚くことばかりだった。
そして、一番の驚きは校長先生だった。
新入生への祝辞を述べるため、壇上に登壇したのだが俺はその顔に見覚えがあった。
『校長祝辞』
式の進行を務める先生のアナウンスとともに校長先生が、壇上へと登壇した。
黒のスーツでビシッと決めた優しそうな人だ。
どこかであったことがあるような、と考えていたら、今朝話しかけてくれた用務員さんにそっくりだ。というか本人だ。
用務員さんじゃなかったのかと心の中で驚いた。
祝辞中にチラッとこっちを見て笑ってくれた気がした。
顔を覚えたと言っていたし気付いてくれたのだろうか。
入学式が一通り終わり、再び教室でのフリータイムとなった。
先ほどまでよりかこちらに視線を向けている人は少なくなった。
女子生徒はほとんど友達と話すのに夢中になっている。男子生徒は楓と窓際黒髪美少女の二つに視線が分かれている。
ちなみに、窓際黒髪美少女に視線を向けている奴らは休み時間に俺に話しかけてきた奴らだ。
入学式の休憩時間中、俺が楓から離れてトイレに行っていたときだ。後ろに何人かついてきたクラスの男子が俺に話しかけてきた。
「君、一緒にいるあの子は男なのか?」
突然変なことを言い出した奴に思えるかもしれないが、言いたいことはわかった。
「残念だが男だ」
俺は真剣な表情でそう答えた。
「そうか」
それを聞いてあからさまにがっかりする男数人。
なぜか喜びの表情を見せる男一人。
おい! お前なぜ喜んだ!
「君、名前を聞いてもいいかな」
「雨戸 日真」
「日真くん、俺たちに希望はないんだな」
俺たちという言い方が少し引っかかるが、先に玉砕した先輩として優しく教えてやろう。
「あぁ、ない!」
「わかった、それじゃあ俺たちは窓際の美少女を狙うこととする、ありがとう、日真くん」
「お、おう」
最近の高校生はなぜこんなにも女に飢えているのかよくわからんが、ひとまずノリに合わせて応援しておく。
そして今、クラスで窓際の黒髪美少女を眺めているのが先ほど話しかけてきた数人プラスアルファ。楓を見ているのが話しかけてこなかった奴ら。おそらく未だ男ではないと期待をしているものたちだ。
悪いことは言わん、諦めろ。
そんなことを考えながら俺は、ぼーっと窓際の黒髪美少女を眺めていた。
「日真もあの子が気になるの?」
「そ、そ、そ、そんなことないぞ?」
「動揺しすぎ」
口に手を当てて楓は笑った。
そりゃ突然話しかけれられたら驚くわけで、別にあの子が気になっていたわけじゃないんだからね?
「そうだ、昼ごはん何食べに行く?」
俺は必死に話を逸らそうと、思いついた話題を振っていく。
「せっかく海が近い街にきたんだし、海鮮がいいな」
「お、いいな海鮮。そういえば、まだ食べてないもんな。海鮮丼食える場所あるかな」
「ぼく、エビがたべたい!」
「お前、えび好きだな」
俺と楓はランチの店をスマホで探していた。
この店はどうだ、あの店もいいんじゃないかと議論をしていたせいで一人の美少女が近づいてくるのに気がつかなかった。
「あの、ちょっといいかしら」
「はい、なんでしょうかぁぁあ!!??」
二人同時に顔をあげ、つい驚いてしまった。
声にまで出てしまい、変に注目を浴びる。
「そこまで、驚かないで欲しいのだけど」
「あ、すみません」
つい、反射的に敬語で誤ってしまった。
美少女が相手だと調子狂うな。
「雨戸くんと井晴くんでいいのよね?」
「はい」
「学校が終わった後、少し先生の手伝いを手伝ってほしいのだけどいい?」
「手伝いを手伝うんですか」
「バカにしてる?」
「いえ、滅相もございません!」
イメージ通りというかなんというか、黒髪美少女=冷たいという方程式は誰が考えたのだろうか。この人もそのイメージぴったりなんだが。確か名前は・・・
「
「そうよ、よろしく」
「よろしくお願いします」
「敬語はいらないわ」
「わかりまし・・・」
そう言いかけて、睨まれてしまった。
「わかった」
「それで、学校が終わったらどこに行けばいい?」
「そうね、学校裏の花壇のところまで来てくれるかしら」
あの、用務員さんのような格好をした校長先生が歩いていった方かな。
「了解です」
俺は上官に対する兵のように敬礼をしながら言ってみた。
「それじゃあ、よろしく」
俺の敬礼は完全にスルーされてしまった。
「それと、手伝いは雨戸くん一人でいいわ」
「わかった」
それじゃあ、楓には少し待っててもらうか。
「あ、あの。朝はありがとうございました」
今まで黙ってた楓が雪瀬に声をかけた。人見知りの楓が自分から声をかけるなんて。明日は雪でも降るのか?
「い、いえ。あのぐらい、気にしないで」
なぜか少し焦った様子を見せながら、自分の席へと帰って言った。
くもちゃんからの連絡も終わり今日の日程は全て終了となった。
俺は楓に教室で待っててもらい、雪瀬の手伝いに校舎裏の花壇に向かっていた。
「お! いたいた」
遠目に雪瀬を見つけて俺は駆け寄っていく。
「お待たせ、手伝いって何すればいい?」
楓を待たせているため、さっさと手伝いを終わらせて昼ご飯に行くつもりだ。
「ごめんなさい、実は手伝いなんてないの」
少し、申し訳なさそうに下を向いている。
「え? それはどうゆう?」
「実はあなたを呼び出したくて」
「え?」
状況が全く理解できない、どうゆうことだ?
「雨戸くん」
「はい!」
雪瀬があまりにも真剣な顔で名前を呼ぶものだから、返事が大きくなってしまった。
「好きです! 私と付き合ってください!!」
「へ?」
新学期。入学式初日。
俺、雨戸日真は人生で初めて女の子に告白されました。
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