第10話 フランキーは容赦ない

「だいたい片付いたかしら? 

「女二人だからって舐めてたんじゃない? ウフ」

 地下の会場。ギガント姉妹の周囲には、沈黙した兵士たちが累々と横たわっていた。会場の隅には青ざめた顧客たちが縮こまっている。

「あんなに怖がらなくていいのに。失礼しちゃうわね」

「だって戦ってるときのお姉ちゃん、鬼みたいに怖い顔してるわよ? 気付いてないの?」

「あらヤダ、お嫁に行けないわ。気をつけないと」

 ギギルナが辺りを見回し、首を傾げる。

「ん〜? ねぇ、お姉ちゃん? エリオットがいないよ?」

「何ですってぇ!?」




「クソ……クソッ! あと少しだったのに!」

 エリオットは会場を密かに抜け出し、来客用の通路を急いでいた。倉庫の一室に入り、緊急用の隠し通路を探る。普段は資材で覆い隠している入口がなぜか露わになっていた。一瞬訝しむも、兵士の誰かが先に利用したのだろうと思い至った。

 継ぎ接ぎだらけの体に鞭打ち、息を切らしながらも廊下を疾走する。地上への出口は開放されていた。もはや疑う余裕もなく、追いすがるようにエリオットは飛びこんだ。

「ゼェ、ゼェ……よし、いいぞ。このまま……!」

「エリオット様、お待ちしておりました! こちらです!」

 見ると社用車が乗り付けていた。運転席からの手招きを受け、エリオットは急いで乗り込む。

「よくやった、今すぐ発進しろ! 場所はどこでもいい! 一刻も早くここから離れるんだ!」

 自身こそ安全圏に逃げ込んだが、これまで秘匿し続けてきた悪事がゴーツに依らぬガーディアンに知られてしまったのは事実。収束を図らねばこれまで築いてきた地位、名誉、財産、情報--全てを失ってしまう。エリオットは恐怖に震えていた。

「ゴーツから一向に連絡がつかん、何をやってるんだバカめ! おい、どうした。早く出せ!」

 一向に車が出発しないことに声を荒げる。運転手はおもむろに振り向いた。

《久シブリダナ、エリオット》

 そこにいたのは、再びラバースーツに身を包んだフランキーだった。

「な、何でお前がここに!?」

《オ前、ココニ来ルマデニ隠シ通路ヲ使ッタダロ? 私モソウダ。カツテオ前タチニ皮ヲ剥ガサレ、施設カラ逃ゲ出ソウト死ニ物狂イデ足掻イテ見ツケタ、アノ道……忘レルハズモナイ》 

 隠し通路の出口を把握していたフランキーは予め車を用意。先に通路を利用し、車内でスーツに着替えた上で、エリオットを待ち構えていたのだ。

《モウ終ワリニシヨウ、十分ダロ?》

 フランキーはリボルバーを取り出し、突きつけた。

「や、やめろ、許してくれ。頼む……!」

 銃口を額に押し当てられるエリオット。ドアはロックされ、狭い車内に逃げ場などない。死への恐怖がこみ上げたとき、彼は涙と鼻水と小便を垂れ流していた。

「何でもする、死にたくない、こんなところで、嫌だいやだイヤダ……!」

《……》

 助命を哀願する彼を見て、フランキーは静かに銃口を下げた。

《考エテミレバ、オ前ノ物デモナイ肌ヲ傷ツケルノハ悪イカラナ》

「あぁ、は、は……」

 エリオットが安堵したのも束の間。

《ココハ流石ニ自前ダロ?》

 フランキーは銃口の照準を変えただけだった。汚らわしい小便に塗れた、彼の股間に。銃声は、近づいていくサイレンの中にかき消された。

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