第1話 ありえない

「…ふぁ?」


目を覚ますと俺は草原に寝ていた。

ありえない。そのまま寝落ちしたはずなのに…


「あっ!目を覚ました!」


女性の声が聞こえる。


「…ふわぁぁ…」


まだ目がぼやけてあまり見えない。


「あなた…突然すみませんが、誰ですか?」


「私はイタリアオオカミです。あなたは?」


…正直状況が読めない。とりあえず質問には答えていこう。

…でも名前か。


「…オレンジです」


「オレンジ?オレンジお兄様と同じ名前?」


…これでわかった。多分これ、夢だわ。


「…ごめんなさい、俺のほっぺた叩いてください」


「え」


「お願いします。夢から覚めたいんです」


「は、はぁ…じゃあ、やりますよ?」


そのあと、すごい刺激が来た。


「いてぇ!?」


「あ…ごめんなさい!」


でも意識がなくならない。…多分これ、リアルだわ。


「…いてて…こりゃダメだ…」


「え?」


「ごめんなさい、訂正します。俺の名前は…そうだね…ヤマトとでも言ってくれれば助かります」


一応偽名を使っておくことにした。


「ヤマトさんですね…なんだかオレンジお兄様の面影を感じます!」


そりゃあそうだろうね。俺をモチーフにしたまま理想の姿を描いたのがオレンジくんなんだから。

…ともかく、俺がオレンジくんを作ったことはあえて言わないでおこう。


「そのオレンジお兄様とは?」


「パークの英雄でもあってタイリクオオカミお姉様とつがいにもなってるんですよー!オオカミ連盟のリーダーでもあって、いつも楽しい企画を考えてくれたりする最高のフレンズです!」


「なるほど…」


一応初めて知ったこととしておこう。…そしてアニメだとかでしか知らないパーク。実際に行ったことは絶対無いし、これが初めて。だったら悪いけど、案内してもらおうか。


「すみません、ここ…案内してもらえますか?ここのこと、何も知らないので」


「わかりました!任せてください!」


簡単に了承してくれるねぇ…


「…ヤマトさん?」


「あ、あぁ、どうしました?」


「その…敬語じゃなくていいですよ?」


「…そっか!じゃあ俺はそうさせてもらうね!」


「はい!…あと、ヒトのオスですか?」


「…うん。ヒトのオス」


「なるほど!わかりました!…では、行きましょうか!」


このあるはずがないジャパリパークに足を踏みしめる。

このジャパリパーク行き片道切符かもしれないこの機会。無駄にしないようにしないとね!



「ボスー!ジャパリまん2つくださーい!」


「タクサンアルカラネ」


ジャパリまん…コンビニでコラボしてたけど、本場の味はどんな感じかな?


「これがパークの食べ物、ジャパリまんです!」


「なるほど…で、味は?」


「味?とっても美味しいですよ!まあオレンジお兄様とタイリクオオカミお姉様の料理には負けますけどね!」


「コレハ万能食ダカラ色々ナ栄養ガ入ッテルヨ。人デモ食ベラレルカラ安心シテネ」


なるほど…だからみんな元気よく…


「じゃあ、いただきます!」


一口目を大きめに頬張る。

…!美味しい…!料理人として味をもっと知りたくなる!


「美味しい…!」


「…ヤマトさん?」


「はい?」


「なんか、すごい躊躇いがないっていうか…初めてじゃない感じがすごいです」


「あぁ…一応これでも料理人を目指しててね…」


「料理人ってオレンジお兄様みたいな料理をするフレンズのことですか!?」


「まあそうだね。俺の場合、フレンズじゃないけど!」


「え!なら食べてみたいです!ヤマトさんの料理!」


「なら機会があったときに食べさせてあげるよ!」


「本当ですか!?ありがとうございます!」


せっかく最初に会ったんだし、ね?


「…ねぇ、イタリアオオカミ」


「はい!」


「最初に会ったフレンズってことだし…友達にならない?」


「友達…ですか?」


「そう!今こうやって仲良さそうに話してるじゃん?だからさ!」


「…イナお姉様と喧嘩して1人になってからまさか私と仲良くしてくれるヒトがいるなんて…!」


あれっ?イナとイタリアオオカミが喧嘩した?設定内では何でも屋のはず…てことは未来のお話か?


「もちろん友達になりましょう!ヤマトさん!いえ、ヤマトお兄様!」


「お、お兄様なんて呼ばれるのはちょっと気まずいかな…?まあ、悪くもないね!じゃ、これからよろしくね!」


「はい!」


ジャパリパークでのはじめての友達、イタリアオオカミができた!

戻るのかよくわからないけど…本音を言ってしまえばずっとこっちにいたい。



だがサバンナは思ったよりも広大で…


「暗い…」


もう夜になった!くっそ人だから何も見えない!


「あそこに木がありますからそこで休みましょうか!」


「ちょっ、ちょっと待って!どこ!?」


「え?ここですよー!」


「暗くて見えないんだってー!」


「あ、ヒトって暗いところ見えないんですか?」


「だね…ごめんね?迷惑かけちゃって」


「大丈夫です!私の手、しっかり握っててくださいね!私もヤマトお兄様の手は絶対離しませんから!」


ちょっと、女性の手をがっちり握ったことなんて初めてなんだけど。


「…はい!着きましたよ!」


「よし!ありがと!」


2人で座ったけど…ドッキドキしてしょうがないわ。初対面のフレンズと2人っきりで夜を共にするなんて初めてだし。


「…ヤマトお兄様」


「ん?」


「私…ヤマトお兄様と友達になったじゃないですか…」


「うん」


「やっぱオレンジお兄様の面影が感じられるんですよ…」


「そうなんだね?」


「…ヤマトお兄様…本当のこと、隠しているなら言ってくれませんか?」


…全く、勘が冴えてるね…せっかくだし教えてあげようか…


「…じゃあ勘が冴えてる君に教えてあげよっか…」


「やっぱ隠してたんですか…」


「オレンジとかカカオっているじゃん?英雄の5人」


「…それも知ってるんですか!?」


「うん。てかこのパークのことはほとんど知ってる。英雄5人と今はどこかに消えた異世界の英雄4人によってセルリアンが消えた世界。そしてオレンジには3人の子供、レオ、イナ、そしてカエデがいること」


「…全部知ってたんですね…」


「もちろん、オオカミ連盟にビャッコがいることもね?」


「…なんでそんなに知ってるんですか…?」


「俺が仕組んだ…というよりかは俺がそういうことになるように描いたってことだよ」


「えっと…つまりどういうことですか?」


「このパークにオレンジたち5人が来ること、セルリアンが消える事、全部俺が作った物語だよ」


「えっ…!?それってタイリクオオカミお姉様が描いている漫画みたいな…」


「そう!そう言う感じ!でも俺自身がパークに来るなんて予想もしてなかったことだけど…」


「じゃあヤマトお兄様がパークに来る予定は無かった、そういうことですか?」


「そういうこと!だから、ここから先はまだ誰も知らない物語。誰がどう生きるのは俺に委ねられたものではない。誰もが自由に生きる世界になったんだよ?」


「…じゃあ私、決めました!」


「ん?」


「タイリクオオカミお姉様はオレンジお兄様に取られてしまいました…なら!私はヤマトお兄様に一生ついて行きます!」


「え…えぇ!?こんな初対面でみんなの運命を決めていた人に!?タイリクオオカミを君から奪わせた張本人だよ!?」


「だからですよ!その…なんて言えばいいんでしょうかね?私の運命を今まで通り、ヤマトお兄様が描いてください!」


「え…いいの?こんな初対面の人に?」


「その方が面白そうですし、将来がどうなるか、わかっちゃいますもんねー!うふふ♪」


…いい笑顔だ。ほんとに。フレンズは…いい存在だよ。


「…そこまで言うなら仕方ないよ。そこまで言うなら!俺は君の運命を描き、幸せまで導こうか!」


…つがいになるはずじゃないのに、どうして初日でここまで発展しちゃったんだろ。

でもそれほどフレンズは色々なことに積極的だということがわかった。


「…ふわぁぁ…ヤマトお兄様…そろそろ寝ましょうか…」


「だね…おやすみ…?」


「おやすみなさい。ヤマトお兄様…」


そこからは俺もイタリアオオカミもゆっくり意識をなくし、深い眠りへと誘われた…





朝…


「…!奇しくも同じ構えだ…!」


ほぼ同じ姿勢で寝てた。


「うわっ!?…なんだ、ヤマトお兄様ですか…」


「あ、ごめんね?邪魔しちゃった?」


「大丈夫です!さぁ、行きましょう!」


そのまま歩き始める。次はどこへ行くのかな?すっごい楽しみ!

…これがリアルであってくれ。頼む。俺の楽しいことを壊さないでくれ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る