第85話 再開拓せよ!えっさっさ!

「どりゃぁぁぁぁぁぁッ! えっさっさ! ほいさっさっ!」


「「「えっさっさ! ほいさっさっ!」」」


 十にも満たない数しかいないドワーフたちは、ワイナルドゥエムの掛け声に呼応して、地鳴りのような轟音と勘違いしそうな低い声で叫んでいる。

 両手で巨大なハンマーを一つ持っており、掛け声に合わせてリズムよく振り下ろしていく。


「……なんでハンマーしか使ってないのに、こんなにキレイに掘れるんだよ。おかしいだろ」


 俺は螺旋階段に登り、上からその珍妙な光景を眺めていた。

 作業開始から僅か数分だというのに、歪ながら、下へと続く螺旋階段が出来上がってきていた。

 あまりにも早い。酒を飲んだドワーフ族に戦うことを覚えさせたら、易々と各国の騎士や兵士を超えられそうだ。


「ラストじゃぁぁぁぁッ!」


「「「うぅぅーーーーっす!!」」」


 俺が目の前の光景の異常さに呆れていると、ワイナルドゥエムは招集したドワーフたちに目配せを送った。

 ドワーフたちは天に叫ぶようなよく響く声を出して、一斉にハンマーを振り下ろした。

 同時に大規模な破壊による砂塵が、外部からの強風によって巻き上げられた。


「……規格外だな」


 俺は鞘に手をかけすぐさま抜刀し、立ち込める砂塵を一瞬で晴らした。


「ゲイルさん、終わりましたぞい! バベルの材質を強固にしすぎたせいで、中々壊すのに苦労したんじゃが、こんな感じで良かったかのぅ?」


 ワイナルドゥエムは螺旋階段に寄りかかって見下ろす俺に手を振っていた。

 他のドワーフたちはやりきったような表情になっており、ワイナルドゥエムさんの言葉に同調するように、首を縦にブンブンと振っていた。


「ああ。素晴らしい出来だ。実のところ、まだまだやってほしいことはあるから、後日詳しい概要を紙に書いて渡すよ」


 俺はその場から飛び降りて、造りたての歪な螺旋階段のもとへ向かった。

 今日のところはこのくらいで良いだろう。本当はダンジョンの一層目に続く入り口や受付を設けたかったが、まずは攻略することが先決だ。


「うむ。それにしても、ワシらがバベルを建設した時、ここに大きめの穴があったんじゃが、何も考えずに埋めてしまったのじゃ。もしかして、ゲイルさんが意図的に掘ったものだったりするかのぅ?」


 ワイナルドゥエムさんは口髭を撫でながら言った。

 まだユルメルと二人きりだった頃、俺はダンジョンの入り口を名も無き領地の中心に造った記憶がある。ダンジョンを中心とした国を造ろうと考えていたからだ。

 ドワーフたちがたまたま俺の思惑通りに、名も無き領地の中心にバベルを建ててくれたから良かったが、仮にここに一般的な民家が建てられていた場合、かなり大変なことになっていただろう。


「まあ、そうだな。結果オーライってやつだ」


 俺が造った階段よりも、ドワーフが造った方が確実に見栄えが良いので特に気にしてはいない。

 それに俺はまだ攻略の途中だったので、そんなことはすっかり忘れていた。


「それならば良かった。それでは、ワシらは消費した分のエネルギーを酒で補わねばならぬから、ここいらで失礼。皆の衆! 宴の準備じゃぁ!」


 ワイナルドゥエムはハンマーを片手で天に突き出すと、他のドワーフたちを連れてこの場を後にした。

 真昼間から宴をすることに疑問を覚えてしまったが、酒好きなドワーフに対してこの考えは野暮だろうし、大人しく無視するとしよう。


「……さあ、行くか」


 俺は下へと続く螺旋階段に足をかけた。

 ここに至るまで色々と障害があったが、やっとダンジョンの攻略をすることができる。

 前回はおおよそ百層あるうちの五十層程度までしか到達できていないので、今回はサクサクと進んで最奥の百層まで到達するとしよう。

 

 

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