第11話 論より証拠

「——それで、一体何のようかな?」


 国王は特に焦る様子もなく玉座に腰をかけなおした。


 そうやって取り繕えるのも今のうちだけだ。


「これ、知ってます?」


 論より証拠。過程より結果。

 俺は懐からとあるデザインが記されたコインのようなものを取り出し、とぼけた様子で国王に見せつけた。


「っ!? い、いや……知らないな」


 すると国王は先程の表情を一気に取り崩した。

 いきなり証拠となる現物が出てきて驚いているのだろう。


 このコインのようなものに記されたデザインはイグワイアの紋章だ。

 クララ王女の王冠にも同じものが記されていたので間違い無いだろう。

 そしてこのコインのようなものの正体はおそらく免罪符か何か。

 国に自由に出入りすることができ、余程のことがない限り咎められず、その代わり支給されるには一定の条件が必要になる代物だ。


 この予想が正しければ三人組のチンピラは国に雇われた暗殺者かその類いということになる。

 実力もそこそこで、冒険者のランクに換算するならBランク程度だろう。


「そうですか。実はクララ王女を襲っていたやつらがこれを持っていたんですよねー。このデザイン、どこかで見たことあるんですけどねー。どこかわかりますかか?」


 俺は既に答えは見えていたが、尚も惚けたフリを続けていく。

 こういうのは本人の口から聞くまで徹底的に言及していくのが良い。そのうち必ずボロが出るし、何より楽しいからな。

 まあ、あまり俺に時間がないからっていうのも理由の一つだが。


「……知らないな。そのがたまたまそれを持っていたんだろう」


「あれ? 何で襲っていたやつらが男だって知っているんですか? 俺、そんなこと言いましたっけ?」


 早速ボロが出た。

 早すぎる。あまりにも早すぎる。

 こんな簡単な釣り針に引っかかるなんてな。


「……っ! 女が馬車を襲うなんて聞いたことないからな」

 

 まだシラを切り通すつもりのようだ。

 まあそれもそうか。

 仮にイグワイア全体に俺が色々とバラしたところで信用されるはずないもんな。

 第一、俺は身元不明のアノールドの人間だし、権力も知名度も全くないしな。


 それならもう少し深く切り込むか。


「あなたがそういうのならそうなのでしょう。まあこれはおそらく一般人は持っていないものだと思いますがね。では、もう一つ聞きます。クララ王女は本日どちらまで行かれていたんですか?」


 俺は追い討ちとばかりに次の疑念をぶつけた。

 それはクララ王女が外に出ていた理由だ。

 

「名も無き領地だ。視察を任せていたんだ」


 ここで嘘をついても不利になると踏んだのか国王は至って冷静に答えた。

 クララ王女が俺に懐いているというのを知ってこその選択だろう。


「第三王女が? なぜ? 普通は領地や地理に詳しいものが赴くはずでは?」


 そう。クララ王女が赴いていたのは中途半端な位置にある領地——名も無き領地だ。

 言っちゃぁ悪いが、あの能天気でどこか抜けているような第三王女がそんなところに行っても何も得るものはないだろう。

 土地勘もなければ、領地を得るメリットも何一つ知らない。ましてや本人ですら深く関わりがないと断言していた。


 では、どうしてあんなところに行かされていたのか。

 

「……国の仕事だ。貴様には関係なかろう? 大体なんだ? さっきから訳の分からない質問ばかりしてきおって。とっとと出ていけっ!」


 俺の核心をついた言葉の連打は国王を怒らせるのに十分だったようで、国王は頭に乗せられた巨大な王冠が落ちる勢いで力強く玉座から立ち上がると、俺のことを指差して怒号をあげた。


 こんな態度を出したら自分のせいですと認めてるようなものだ。

 煽りっぽく言ってしまった俺が悪いが、国のトップならもう少し落ち着いてくれ。


「はぁ……分かりましたよ。ただ一つだけ忠告しておきます。あなたがクララ王女を殺そうとしているのならやめておいたほうがいい。もう俺にはバレているからな」


 俺は軽い忠告という名の脅しの言葉を国王に吐き、そそくさと部屋を後にした。

 こういうのは引き際が大事なのだ。ネタを使い切る勢いで深追いをしてはいけない。


 その分、ここで与えたダメージは後々必ず生きてくるから今は我慢するに限る。

 

「今夜で決着か」


 俺は広い廊下を歩きながら呟いた。

 おそらく今夜、いや、俺が部屋に戻ると国王は何らかの行動を起こしてくるだろう。


「ふふ……」


 たった今気がついたが、モンスターを相手にした時しか心は燃えないかと思っていたがそうでもないらしい。

 自分が悪だと認識した不条理かつ強大な相手にはとことんやる気が出てきて戦いたくなってくる。


「さあ、お前はどう動く?」

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