第13話 バイト先でのトラブル
「トールちゃん、レッドチキン三つね」
「はーい。ちょっと待ってね」
「トールちゃん、こっちはイエローを四つだ」
「ごめんなさい。今作るから待っててください。店長、イエロー4つ追加で」
「あいよー」
本日のアルバイトも大忙し。
女である事を認めてからは、まぁこんな生活も悪くないかなと思い始めていた。
だが行列はお昼時を過ぎても途切れず、材料が切れて店をたたむことも増えてきた。
「悪りぃ、材料切らした。今日は店じまいだ」
「えー、せっかく並んだのによぉ~」
不満の声を募らせる連中の多くは、店長よりも僕との触れ合いを楽しみにしてる奴らが多いのだが、それを店長に言う必要はないだろう。
「すみません、こちらの不手際で。またお越しください」
「ここはトールちゃんに免じて許してやるか」
「ったく仕方ねぇな~」
鼻の下を伸ばして帰っていく男たち。
チョロい分、僕が止めに入らなかったら誰も止めに入れる人がいないと思うと怖い。
「悪いな、助かった」
「良いですよ。原因が僕と言う自覚はありますし」
「じゃあ余りもので悪いが昼飯食ってくか?」
「あれ? 材料切らしてたんじゃ?」
「一応アルバイトの特権だからな。お前の分を取っておくのは当たり前だろ?」
「さすが」
それを屋台横の椅子に座って頬張る。
うん、これこれ。
これぞ僕の愛したフライドチキンだ。
最初は骨つきだったけど、手間だけど骨を取ってから揚げてみたら? とアドバイスしてから飛ぶように売れるようになった。
そして香辛料の調整。
ホワイトソースの一つを僕の錬金術でマヨネーズクラスまで進化させたら最高に鶏肉とマッチした。
甘辛いソースとの相性もバッチリで、その分値段は上げたが、文句を言う客はいなかった。
「相変わらずうまそうに食うよな」
「だって美味しいもん」
思わず足をバタつかせるくらいには美味しい。
子供っぽいって? 見た目が子供だからこそ許されるのだ。
大体にして僕が実年齢を言っても馬鹿にされるか失笑されるかの二択だからな。
「そういや店長、いつも材料切らしてるけど、お肉を多めに買うことって難しいの?」
「買っても良いが、保存しとく場所がねぇ」
「なんだ、なら作っておくよ氷温機」
「作るって……そういやお前錬金術師だったな。でも材料とか買えば高いんだろ?」
「錬金術は素材だけ集めちゃえば錬成のみでいけるから楽だよ。僕はマジックバック持ってるから持ち運びは任せてよ」
「そりゃ助かるが、タダじゃ貰えんだろう」
「え、あげないよ?」
「ん?」
店長は訝し気に僕をみる。
僕は得意げに答えた。
「あくまで貸すだけ。僕がアルバイトに来てる間だけ貸すの。僕は貸し出し料を店長からもらうから。それで材料費を賄う」
「チャッカリしてるぜ。アルバイトに来てるからつい忘れそうになるが、そういやお前も商人だったな。でもそういう事なら俺も追加で買い込める」
「よっし、商談成立だね」
「でもよ、買い込むったって限度があるぜ? それに合わせて油も小麦粉も買い足さなきゃならんし」
「そうだね。今の状態で夕方まで販売したとする。それから考えられる見込み客は?」
「祝祭日で変動するし、平日でもこの売れ行きだ。通常の三倍は見ている」
店長ことヘイワードさんは個人用の氷温機を手で叩いてこちらに薄く笑って見せた。これの三倍の規模の氷温機をお前に作れるのか? そんな風に聞こえる。
「可能だよ。でも容量を増やすと満遍なく冷やすための装置が必要になる。賃料が跳ね上がるけど平気?」
「怖いから先に聞くが、幾らだ?」
「1日で銀貨2枚」
「うーん……それは高いな」
銅貨5枚で一つ売って、40個相当の本数を売ってトントン。
今は大体100捌けてるから、300は入る。
それを全部売っても銀貨15枚だ。
素材の原価を知らないから憶測になるけど、料を三倍に増やせばコストも三倍かかる。
今の氷温機も借りてるとはいえ、銀貨を払うよりは安いだろう。
「でも今売れてるうちに売っちまったほうがいいな。肉や小麦粉も大量に買えば安くしてくれる場所も知ってるし。良いぜ、その話乗った!」
「了解。この氷温機をベースに三倍の容量で作るよ。売り上げ次第ではすぐに返せちゃうかもね?」
「だったら良いんだがなー」
今はまだ僕が看板娘としての需要だけど、ここのホットサンドは本当に美味しくなった。
いずれ僕が居なくなっても行列が客足が途切れる事はないだろうと自負している。
ケアクリームの方の利益は残念ながら見込みはなくなってしまったけど、それ以上の儲け話が転がってきたので良しとする。
さて、氷温機とは名ばかりの冷蔵庫でも再現しますか。
なーに、側だけ氷温機に似せればバレないでしょ。
どうせ赤の他人に貸し出しするわけじゃないし。
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