第11話 アリシアの可能性
「えーと、本気? 僕の錬金術は結構特殊というか、覚えようと思って覚えられるものじゃないというか」
「そんな、ダメですか?」
「ダメっていうか……」
はっきり言って不可能に近いと思う。
僕の魔法の才能は王国の宮廷魔導師を軽く越えている。
けれどこの子にはそんなことは関係なくて、憧れだけで懇願してきている。
そう言えばリード様も言っていたな。
同年代の友達が居なくて寂しい思いをさせていると。
じゃあ別に教えても物にならなくても良いのか。
そんな事を思いながら了承する。
「取り敢えず教えることは引き受けるよ。あとはアリシアの努力次第。それで良いかな?」
「はい!」
元気よく返事された。
家出を決行する子だからどんなお転婆な子かと思ったら素直な良い子じゃない。
だからリード様もそこまで心配してなかったのかな?
取り敢えず僕はこの子の錬金術の教師として頑張ろうか。
そのあとは普通にポーションの知識を学んだ。
急にポーション作成をやったってどんな風になれば成功か分からない。
だから僕が一つ一つポイントを教え、彼女にはそれをみてメモを取ってもらった。
形式的には特殊でも、魔道具を扱う錬金術とそう変わらない。
僕のはちょっとズルしてるけど、新しいものを覚えようとするアリシアは一生懸命だった。
少ししてメイドさんから夕食に誘われる。
アリシアの懐き具合から今日もお泊まりコースかな?
年上として振る舞いたいところだが、メイドさんの前で同じように処理された。
うん、まあ楽で良いんだけどさ。
寝室は別に用意してくれたけど、アリシアが一緒に寝たいというので仕方なくご一緒した。やっぱり兄弟が居ないと寂しいよな。
僕の家は多すぎて常に険悪なムードだったけど、兄弟が居たから乗り越えられた辛さもあったなと思い出す。
姉や兄、弟、妹たちは今頃何をしているだろうか?
アリシアの寝顔が幼い妹に重なった。
「トール様、起きてくださいまし」
「ん、んぅ……おはようアリシア」
「おはよう御座います」
朝も早くから彼女はニコニコである。
僕は少しだけ魔力の使いすぎで体調が悪い。
のんびりしてれば治るんだけど、連続で錬金術を使っていたからな。
僕があまり商売を広げたくない理由はこれが原因だ。
あのズルい錬金術は割と魔力を馬鹿食いする。
魔法陣の同時展開でお察しだろう。
音が立たずに床も汚れず匂いもつかない良いことづくめな反面、上位の攻性魔法10発相当の魔力消費量を誇る。
僕だから調子悪い程度で済むが、ちょっと魔法が使える程度のマジックキャスターだったら今頃魔力欠乏症で死の淵を彷徨っている頃だろう。
「実はあのあと見様見真似でお母様からお借りした魔道具でポーションを作ってみたんです。それでトール様のお知恵をお借りしたく……」
目蓋を擦る僕を引っ張るようにして部屋の一角に誘うアリシア。
あの後ってもしかして夜起き出して行動したのだろうか?
やる気が十分なのは微笑ましいけど、夜更かしは美容の敵だよ?
「うん、一応見るけどアリシアが途中で倒れたらご両親も僕も心配するから無理はしないでね?」
「あぅ、ごめんなさい」
ちょっと凹んでしまったかな。
あまり怒られ慣れてないのだろう、僕と違ってこの子は見た目通りの年齢だから配慮しないと。
「怒ってないよ。謝らなくて良い。けどね、しっかり寝ないとアリシアの可愛さが損なわれてしまう。それは世界の損失だ」
「あの、可愛いだなんて。トール様の方がわたくしよりも……」
もじもじしだす彼女の唇に人差し指を置く。
そこから先は言わないでくれる?
男に持ち上げられるのも年上から愛でられるのも慣れたけど、年下から言われるのはまだ気恥ずかしいんだ。
「ありがとう。でも僕はアリシアほど純真ではないから。内面の美しさでは負けちゃうよ」
「トール様……」
アリシアは惚けたように顔を赤くして俯いてしまった。
おかしいな。
僕の男を誘惑する呪いは年下の女の子にも発動してしまうのか?
それともあまり勘違いさせる言葉は今後しない方がいいかな?
「それじゃあ早速見せてもらおうかな」
「はい、こちらです!」
アリシアの差し出した皿の上には昨日教えた工程が一つ一つ結果として残されていた。
それを指にとって舐める。傍らではアリシアが鼓動を早くしていた。
「驚いた。たった一回教えただけでここまでできちゃうんだ?」
それは僕からみてもとんでもない成長速度だった。
飲み込みの速さで言えば僕以上かもしれない。
ただ、今の状態では最下級ポーションは愚か、目薬にも至れない。
僕が驚いているのは全く別のこと。
それは味の変化にある。
ポーションというのは草を煎じた物なので、基本的には草の苦味とえぐみや土臭さが残ってしまうのだ。
しかしアリシアの煎じた薬液はほのかな甘さを出していた。これは口で教えても本人が気づかないといつまで経っても抜け出せないトラップのような物だ。
頼み込まれた時は、厄介な話が転がり込んできたと思ったけど、案外拾いものかもしれない。
本格的に育ててやろうという気持ちが僕の胸中に渦巻いていた。
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