第65話 カラオケ
『——もっと♡ ぎゅっと♡ ナイショなのです〜♪』
カラオケの一室。
部屋の中には俺と柳エリカ、そしてエレナと七星さんの4人が座っていた。
……まあ、言いたい事は色々あるが一旦それはいいとして。
なぜ俺達がカラオケに来ているのかと言うと、あの後カフェで周りからの注目を集めてしまったため、すぐに場所を移さなければならなくなってしまったのだ。
もちろん、パフェは上の部分のアイスとマンゴーを2、3切れくらいしか食べられていない。
はぁ、俺のDXマンゴーパフェ……。
……ま、まあ。それは置いといて。
俺は視線をテーブルの向かいにいる七星さんに目を向ける。
『甘酸っぱいコイの味〜! キミと味わいたい〜——』
マイクを持って楽しそうに歌っている七星さんを見ていると、なんだかほっこりとした気分にさせられる。
あと、このオレンジジュース美味しいな……。
「ね、ねぇリョウガ。次の曲私に何歌って欲しい?」
「うおっ」
右を向くと、触れ合いそうな距離に制服姿のエレナがスカイブルーの瞳で上目遣いに見つめてくる光景。
というか、なんか近いな……。
「……そ、そうだな。【スノーホワイト】とか」
【スノーホワイト】とは『俺マチ』のアニメ1期でエレナが演じているヒロインのキャラクターソング(キャラソン)だ。
まあ、エレナの気分次第だしこんなところでさすがに歌ってくれるわけ——
ピロンッ
「はい。入れといたわよ」
「お、おう……」
4人で2時間しかないからそんなに曲数ないのに、そんな簡単に俺のチョイスで選んでいいのだろうか?
ま、まあ俺としてはありがたいが。
「せ、せんぱい!ジュースいりますか?」
今度は左側からジュースのコップを差し出してくる柳エリカ。
というか、こっちもやっぱり距離近いな……。
距離感がキャバクラとかそういう系の店のような感じ。いや、行ったことないからわからないけど。
というか、普段ぼっちの俺からすれば4人でカラオケに来ているという事自体がまずあり得ない状況。
しかも3人とも美少女って、マジか……。
「ああ、ありがとう」
そう言って渡された炭酸ジュースを飲む。
ゴクッ ゴクッ
「ちょ、ちょっと!それあなたの飲みかけじゃないの?」
「ごほっ ごほっ」
えっ、ど、どういうことだ?
むせ込みつつ左を向くと、そこには少し顔を赤く染めていたずらっぽい顔を浮かべている柳エリカ。
「あっ、ま、間違えちゃいました〜。てへぺろっ♪」
「あ、あんたねぇ……」
ま、マジか……。
エリカの言うことが正しければ、今のってそういうこと……だよな?
「……」
ただでさえ頭が追いついていないのに、もう俺の脳は完全にショートしてしまう。
「ほらっ、四条せんぱいもう始まりますよ?」
「くっ、柳エリカ……。お、覚えておきなさいよ!」
そう言って俺マチのキャラソンを歌い始めるエレナ。
おお、これはアツいな……。
キャラクターの揺れ動く心を儚げなメロディーに乗せて歌い上げるエレナの歌声に聞き入っていると、気づけばあっという間にCメロ。
『——あなたと出会えた事 ずっと忘れない〜』
エレナが最後の歌詞を歌いきって、背景画面がフェードアウトする。
パチパチパチッ
「わわっ、やっぱりエレナちゃんすごいです!」
「悔しいけど、上手いです……」
少し納得いかない表情で手を叩き、ジュースを飲むエリカ。
まあ、さすがにこの完成度で歌われるとな……。
「私の曲、どうだったかしら?リョウガ」
「——ああ、すごい良かった」
「ふふっ、ま、まあ当たり前よね。……また今度2人きりで聞かせてあげるわ」
満更でもなさそうに微笑み、そう耳打ちしてくるエレナ。
そ、それはアツい……。
心の中でガッツポーズをして、ふと画面に目を向けるとそこには【98.6点】という文字列が表示されている。
まあ、自分の持ち歌だからというのもあると思うが、それにしても1発目からこれはすごいな……。
「エレナちゃんおめでと〜!」
「ありがとう、めぐりちゃん。めぐりちゃんもさっきの曲すごい良かったわよ」
「そ、そんなことないよ〜。93点しか取れなかったし……(あ、あとryoga様の前だから歌えないなんて言えないよぉ、、)」
そう言って少し苦笑いしている七星さん。
というか、な、なんかレベル高くないか?
確かに、養成所でボイスレッスンの一環で歌のトレーニングもさせられたが、正直声優としての演技と歌で求められる物はかなり異なるため、演技が上手いから歌もできるなんていう事はない。
まあ、最近の声優って歌ったり踊ったりできるのが当たり前だし、そんなものなのかもな……。
「はいっ、せんぱいマイクどうぞ」
「ああ、ありがとう」
そうしてエリカからマイクを受けとった俺はテレビ画面に向き直り、意識を集中させる。
何事であれ、目の前のことに集中するのが俺のモットー。カラオケだからといって手は抜きたくない。
曲のイントロが流れ出す。
さて、やりますか——
————
『——振り向かないで あの日のままで〜』
カタンッ
最後まで歌いきった俺はマイクをテーブルに置く。
パチパチパチッ
「せんぱい、すごい上手かったです!」
「で、ですですっ!」
柳エリカの言うことに全力で頷きながらこちらを見てくる七星さん。
な、なんか照れるな……。
「今日は調子良いじゃない。リョウガ」
「ああ。まあ、今のは結構上手く歌えたな」
そうして画面に表示される点数を見ると【95.8点】と書かれている。
うん、まずまず悪くない数字。
「じゃあ次私ですね。ふぅ〜」
そうして俺の置いたマイクを手に取り、息を吐き出すエリカ。
「ふふっ、どんな物なのかお手並み拝見ね」
「なっ、し、四条せんぱいにだけは負けませんから!」
余裕のある表情で柳エリカをからかうエレナ。
なんでそんな子供みたいな挑発を……。
というかなんでこの2人こんなに仲が悪いんだ?
まだ出会ったばかりなのに、本当に謎しかない。
————
『——あなたのハート 撃ち抜きたい〜♪』
カタンッ
「「「……」」」
「ど、どうでしたか?」
う、上手いな……。
ふと周りを見ると、エレナや七星さんも目を見開いて驚いている。
いや、まぁ声優だからと言われればそこまでだが、1年目の新人でこれはすごい。
「あ、あなた本当に一般人なの……?」
あ、そう言えば言ってなかったな。
「あ、言い忘れてたんだが「初めまして、
……えっ?今なんて、いや、えっ?
「えっ、ど、どういうことよリョウガ!」
「いや、ど、どういうことだ?」
声優だということは知っていたが、アオノエンタープライズって……いや、でもその名前の事務所は1つしかないよな?
「だから言ってるじゃないですか。
「じゃ、じゃあ学校で俺のことを知っていたのは——」
「ああ、関さんから教えてもらったんですよ。『頼れる先輩だから色々相談に乗ってくれると思うよ』って」
「ま、マジか……」
関さん、いやあのおっさん……やったなこれ。
「それじゃあドンドン歌っていきましょー!七星せんぱい次マイクどうぞ」
まるで何事もなかったかのように七星さんにマイクを渡すエリカ。
「りょ、リョウガ。ちょっとドリンク取りにいきましょうか」
「えっ?でも俺のドリンク残って——」
「ん?何か言った?」
「な、何でもないです……」
俺は悪くないだろこれ……。というかなんでそんなにキレて……。
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どうも、タマです。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
改稿前の話を読まれた方には混乱させてしまい申し訳ありませんでしたm(_ _)m
今後はこの話の流れでやっていくので読んでいただけると幸いです。
また、もし良ければ ★(レビュー) ♥ フォロー等していただけると今後の創作の励みになります。
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