第60話 逆襲の鈴木

イベント翌日の朝。

俺は学校への通学路を歩いていた。


タッタッ


「ねぇ、あの眼鏡ヤバくない?」


「どれどれ?うわっ、何あれキモすぎ……」


「なんかニヤニヤしてるんだけど〜!まじ無理。ってか臭そう」


「マリひどすぎ〜www」


近くにいる3人組の女子から罵倒する声が聞こえて来る。


「はぁ……」


思わずため息が漏れる。


彼女たちが話している『あの眼鏡』とは間違いなく俺のことだろう。


手元のスマホ画面から顔を上げるまでもなく分かってしまう。

ある程度慣れているとはいえ、さすがにきついな……。



――だがしかし、今俺がため息をついているのはそのせいではない。


その原因は、俺の手元にあるスマホのロック画面に映っている黒髪の美少女。


「いや、マジか……」


そう。俺は今、昨日姫宮さんと撮ったツーショット写真を眺めている。


声優でありながら、見る者を虜にする清楚系アイドル声優――姫宮 しおり。


写真の姫宮さんは艶のある黒髪をかき上げるような仕草で、小悪魔のような笑顔を浮かべこちらに微笑みかけてくる。


やっばり何回見ても……


「可愛いな」


うん。隣にいるヤツのガチガチにこわばった顔さえなければ本当にもうベストショットと言っても過言ではない。


さすがにいつまでもこのホーム画面にしているわけにはいかないから変え方を調べて変えるつもりだが、もう少しだけこのまま――


「何が可愛いのかな?」


「うおわっ!」


耳元に囁かれた声に思わずのけ反ると、そこにいたのはドアップで天使のような顔を近づけてくる葉月さん。


び、びっくりした……。


「おおお、おはようございます」


「おはよっ、涼雅くん!……ところで。何でそんなに慌ててるのかな?」


「い、いや。何でもないです」


怪しむような目でこちらを見てくる葉月さんから遠ざけるように、俺はスマホをポケットにしまう。


ササッ


「あっ!今何かポケットにしまったよね?」


「き、気のせいです」


くっ、何でそんなに鋭いんだ……。


「むぅ」


「……」


そんなに可愛らしく頬を膨らませて見つめてもダメです。


「……エッチな写真?」


「ぶふぉっ」


な、何を言っているんだ?


「いや、そんな物ではないです」


「ふぅん、エッチな物じゃないんだ?」


そう言って至近距離で俺にジト目を向けてくる葉月さん。

ま、周りからの視線が……。


「すみません、でもこれはちょっと……」


「はぁ。分かったよ……。じゃあ私日直だから先行くね!ばいばーい!」


「ば、ばいばい」


タッタッタッ


そう言って走り去っていく葉月さんに手を振り返すと、周りからは『何だコイツ?』的な視線が突き刺さる。はぁ……。


まあ、俺も行くか――


そう思って歩き出した瞬間、右肩に強い衝撃。


ドンッ!


な、なんだ?

そう思って横を向くと、陽キャ感マシマシの茶髪が俺を睨んでいる。


「前見て歩けや根暗ァ!」


どう見てもこの状況、前を見ていないのはお前だろ――鈴木。


「……」


まあ、馬鹿に何を言っても無駄。

俺は鈴木を無視して歩き出す。


タッタッ


「――昼休み、校舎裏来いや陰キャ」


背中から聞こえる声に返答するか迷うが、コイツは無視すれば何をして来るか分からない。


「……分かりました」


「チッ。逃げんじゃねぇぞ」


「……」


タッタッ タッタッ


今度こそ俺は鈴木を無視して歩き出す。

はぁ、ツイてないな今日は。

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