第59話 本番 ②

『【こんにちふれんず〜!ryoga様としおりんに質問です。お2人の好きな食べ物は何ですか?】 はい、ご質問いただきました!まずはしおりちゃんから、どうですか?』


「そうですね。私、結構ラーメンとか好きでよく食べにいきますね」


『えっ、そうなんですか!これは予想外な回答ですね〜』


「ふふっ、よく言われます」


《ハハハッ》


観客席から笑いが沸き起こる。

会場では、予定通りにイベントが進んでいた。


監督を交えた裏トークも終わり、今やっているのはファンからの質問コーナー。


余裕のある笑顔で観客の笑いをとっている姫宮さん。やっぱり経験値が違うな……。


俺の方はと言うと、姫宮さんや司会の女性声優のアシストでなんとか耐えているという状況。


まあ、初めてだから仕方ないといえば仕方ないが、普段コミュ障なのが完全にバレてしまっている。


はぁ……。


『なるほど……。ちなみにラーメンにはまったきっかけとか——』


——それにしても。


司会の女性声優と猫コスプレの姫宮さんが会話しているのを横目に、俺は観客席の前側のとある場所を凝視する。


そこに座っているのはサングラスとマスクをして帽子を被っている女性。


冬でもないのになぜあんな格好をしているのか疑問だが、問題はそこではなく——


(あれって、銀髪・・……だよな?)


俺の目がおかしくなければ、座っている女性の帽子からはみ出ている髪の色は綺麗な銀色。


普段まず見かけることのない髪色だし、染めていてもあんな鮮やかな銀色にはならないはず。


俺の考えが正しければ、あの変装している女性はもう間違いなく……。


いや、でもなんでここにいる?

意味が分からないぞほんとに……。


そんなことを考えていると、背中につんつんと柔らかい感触。


「ryogaくん、お願いします」


「えっ?」


慌てて視線を横に向けると、司会の人と姫宮さんが俺を見ている。


『ryogaさんはどうですか?』


や、やばい。

観客席に気を取られていたせいで何の話か分からない。


(好きな食べ物の話ですよ)


姫宮さんが小声でそう教えてくれる。

あ、ありがとう姫宮さん……。


「あ、えっと。ぱ、パフェとか好きです」


『へ〜、そうなんですね!これはまた可愛らしいアンサーですね〜』


《ハハハッ》


お、おお。観客の人が笑ってくれている……。


「そういえばryogaくんツイッターでもパフェの写真載せてましたよね?」


「えっ、あ、はい。アレは修学旅行で行った京都の【中村屋】で——」



————



『はーい、それではいよいよ次が最後の質問です!』


時計を見るともう4時前。

質問コーナーがイベントの最後だったからこの質問で終わりということになる。


「ふぅ」


よし、この調子で最後まで乗り切るぞ——


『【こんにちふれんず〜!ryoga様に質問です。ryoga様は好きな女性のタイプはありますか?】』


——ん?今なんて言った?


『これは私もぜひ知りたいですね〜。しおりちゃんも気になるんじゃないですか?』


「私も気になりますね。ryogaくん、どんな女性が好みなんですか?」


「えっ?」


気づけば周りからの注目が一気に俺に集まっている光景。

姫宮さんに至っては真剣な表情でこちらを見つめてくる。


な、なんで俺みたいな陰キャにこんな質問を……。


「……」


——いや、そうか。分かったぞ。

これは完全にただの冷やかし。

真面目に答えたら笑われるタイプの質問だ。


ふぅ、危ない危ない。

危うく騙される所だった……。


「い、いや。ないです」


「で、でも少しくらいありますよね?教えて欲しいです……」


なぜか切実な表情で食い下がってくる姫宮さん。

なんでそんなに……。


「えっと、そうですね——」


そう言いつつ俺は頭をフル回転させる。


まず、この質問にまともに答えたら間違いなくアウト。

俺の女性のタイプなんて聞いたところで誰も得しないからな。


となると、ここで答えるべきは面白いアンサー。最後に観客を満足させられるような面白い回答が何かあるはず……。


その時、ふととあるキャラ・・・の映像が脳裏に浮かぶ。


金髪ツインテールに青色の瞳。

切なげな表情で主人公に告白をする高貴な美少女。


俺が最近プレイしているギャルゲー『金と銀 どっちが好き?』のヒロイン、沙々良 アリサ。


こ、これだ……。

俺は自分の天才的閃きに内心感動しつつ、口を開き——


「き、金髪ツインテール」


シーン


会場が完全な静寂に包まれる。

う、嘘だろ?


「う、うそ……」


姫宮さんも泣きそうな顔でこちらを見てくるし、もうこれは完全に修復不可能。

お、終わった……。


『な、なるほど〜。そ、それじゃあこれにてイベントは終了ということで。みなさんありがとうございましたー!』


こうして、イベントは幕を閉じたのだった。





「アオノエンタープライズのryogaです。本日はありがとうございました」


「ああ、ryogaくんのほうこそお疲れさま〜」


「では失礼します」


タッタッ


解散後、スタッフの挨拶回りを終わらせた俺は楽屋に到着。


ガチャッ


「あっ……」


椅子に座っていた姫宮さんと目が合う。


今日のイベントは途中まで上手くいっていたのに最後の俺のやらかしで微妙な感じになってしまった。

やはり姫宮さんに謝るべきだろう。


「さっきはすみ——」


「り、涼くん!」


「は、はい」


真剣な面持ちで俺を見てくる姫宮さん。やっぱり怒られるのだろうか?

俺は覚悟を決めて目を閉じ——


「き、金髪ツインテールの女の子が好きなんですか?」


「……へっ?」


予想外の発言に、一瞬思考がフリーズする。

な、なんで今さらその質問を……。


「い、いや。あれは最近やっていたゲームのキャラが金髪ツインテールだっただけです」


「ほ、本当ですか?」


そう言ってグイッと近づいてくる姫宮さん。

さっきといい、なんか距離感がおかしくないか……?


「あ、ああ。本当にごめん、面白いことが言えなくて」


姫宮さんでもカバーできないくらいの地雷アンサーをしてしまったからな、本当に反省しかない。


「そ、そうだったんですね。(はぁ……)」


なぜか安心したようなため息をついている姫宮さん。

どういうことだろうか?


「じゃ、じゃあ俺はこれで」


そう言ってコスプレのケモ耳を外そうとした瞬間、パシッと腕を掴まれる。


「ま、待ってください」


「ん?どうした?」


「あの……写真とりませんか?」


そう言って、姫宮さんはスマホのインカメラを起動する。


「こ、この格好で?」


「せっかくイベントで共演出来ましたし、ツイッターに載せようかなって」


ま、マジか……。


姫宮さんは猫のコスプレ姿が驚くほど似合っていて可愛いが、正直俺の方は目も当てられない。


こんな姿をツイッターに上げられたら黒歴史になるのはもう確定。


「ダメ……ですか?」


くっ、そんな表情で見つめられたら……。


「……分かった。撮ろうか」


「やったぁ♪じゃあそっち座りますね」


「えっ?お、おう」


そう言って俺の椅子の余っている部分に座ってくる姫宮さん。

スマホに映っている画像は、どう見ても余白部分が多い。


「な、なんか近くないか?」


「あっ、ズームしますね」


えっ、そ、そっち?


「はい、ピース」


「……」


パシャッ!


「ありがとうございます。涼くんにも送りますね!」


「ああ、ありがとう」


ピコンッ


そうして送られてきた写真には俺と満面の笑顔を浮かべている姫宮さんが映っている。

この姫宮さん可愛いな……。


「……や、やっぱりツイッターに載せるのやめますね」


「えっ?」


なぜか頬が少し赤く染まっているしおりん。

俺としては願ってもない申し出だが、どういう風の吹き回しだろうか?


「記念に、お互いの待ち受けにしましょうか」


「待ち受け?」


待ち受けって、スマホのロックを解除するときのアレだよな?


「やり方分かります?」


「い、いや。分からないです」


「ちょっと貸してください」


「あ、ああ」


言われるままにスマホを渡し、姫宮さんが操作をする。

そして返ってきたスマホのロック画面に映っているのは先ほど撮った写真。


「か、変えちゃダメですよ?」


「えっ?ちょっ——」


タッタッ


姫宮さんはそう言って楽屋から出て行ってしまった。

ど、どうするんだこれ……?

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