第53話 ホテル

「疲れた〜」


俺は『バタン』とベッドに倒れ込む。

本当に今日は色々あった。本当に色々……。


「はぁ」


あの後、葉月さんと俺は無言でホテルまで戻り、点呼を受けた。

そしてホテルで夕食を取り、つい先程部屋まで戻ってきたところ。


ちなみに、この部屋は2人部屋だが俺しかいない。


理由は簡単。他の4人が全員もう1つの3人部屋に泊まっているからな……。


それにしても。


「勘違いされた、よな……」


あの時、七星さんと別れていたところを葉月さんに見られてしまったのだ。


まあ、葉月さんのことだから言いふらすようなことはしないと思うが、このままではさすがにマズいだろう。


そんなことを考えていると部屋がノックされる。


コンコン


「涼雅くん、いるかな?」


扉越しに聞こえる葉月さんの声。

さっきのことだろう。


「今開けます」


ガチャッ


「お邪魔するね」


「はい」


ボスンッ


そして俺がベッドの脇に座ると、葉月さんは隣に腰を降ろしてくる。


……って、ち、近くないか?


お風呂上がりだろうか。バスローブ姿の葉月さんからふんわりといい匂いが……。


いや、な、何を考えているんだ俺は。


「す、すみません。ちょっと近くないですか?」


「……」


葉月さん無言で下を向いている。


「あ、あの——」


「七星さん、だよね?」


俺の声を遮るように、葉月さんはそう呟く。


「……はい」


「涼雅くんは七星さんと、そういう関係なの?」


「い、いや。そんな訳ないです、あれは偶然会っただけで……」


「で、でも。……手、握ってたよね?」


泣きそうな表情で俺を見つめてくる葉月さん。

な、なんでそんな涙目で……。


————


「——って感じです」


「そ、そうなんだ……」


俺は葉月さんに今日あったことをざっくりと説明した。

まあ、これで葉月さんの誤解も解けるだろう。


「じゃ、じゃあ、涼雅くんは七星さんとカップルのふりをしていた、ってことかな?」


「はい、そうです」


「そ、そうなんだ。(よかったぁ……)」


ん?何か今呟いたような……。


「何か言いました?」


「えっ?な、何でもないよ!」


手をブンブン振って焦った様子の葉月さん。

……まあ、いいか。


「そ、そういえば涼雅くん。もう1人の人はいないの?」


不思議そうな顔の葉月さん。

そりゃそうだよな……。


修学旅行のしおりでは俺のクラスに1人部屋はない。


「他の人がもう1つの部屋に行っちゃって」


「そ、そうなんだ……」


「いや、大丈夫です」


ぼっち行動になったときはさすがにきつかったが、さすがにもう慣れたからな。

むしろ1人でこの広い部屋を使えると考えれば悪くない。


だから、マジでその申し訳なさそうな表情はやめてくれ……。


「じゃ、じゃあ……私が一緒に寝てもいいかな?」


「へっ?」


「ほらっ、私の部屋結構狭くてね。だ、だから涼雅くんの部屋で寝たいなぁって……。べ、別に変な意味はないよ?」


顔が少し赤く染めて、そう提案してくる葉月さん。

……まあ、お風呂上がりだからだろう。


それにしても、そこまで俺は葉月さんに気を使わせていたのか……。


「いや、それはさすがに大丈夫です」


「そ、そうだよね!何言ってるのかな私。あ、熱いな〜」


そう言って手で顔をパタパタとあおぐ葉月さん。

この部屋冷房つけてるから涼しいはずなんだけど……。


「じゃ、じゃあ私部屋に戻るね。明後日は一緒に京都観光しようね、涼雅くん!」


「あっ、は、はい」


タッタッ


ガチャン!


あっという間に葉月さんは出て行ってしまった。

それにしても、なんであんなに焦って……。

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