第52話 嘘だろ?

「わぁ〜、すごい綺麗ですね」


「ああ、そうだな……めぐり・・・


俺と七星さんの目の前には赤い鳥居が無数に並んでいる光景。


今、俺たちは『千本鳥居』で有名な伏見稲荷神社に来ていた。


確かに、これは絶景だな……。


「連れてきてくれてありがとう」


「いえいえ、ryogaくん・・が喜んでくれたみたいで本当によかったです♪」


そう言って繋いだ手をギュッとより強く握ってくる七星さん——いや、俺の彼女。

な、なんだか緊張して手汗が……。


「あれ、なんだか緊張してますか?」


「い、いや。そんな訳ないだろ。そっちこそ大丈夫か?」


「ぜ、全然余裕です」


そう言ってからかってくる七星さんの顔も、心なしか赤くなっている。


「それにしても、さっきの告白・・は少しびっくりしたな」


「ふふっ、アレですか?マヤさんにアドバイスしてもらったんです」


「なるほどな。はぁ……」


ため息をつき、俺は先程のすき焼きのお店での出来事を思い出す——





「ryoga様、私の——七星めぐりの彼氏になってください!」


「……えっ?」


七星さんの発言に思考がフリーズする。

今、なんて……。


「ダメ……ですか?」


「い、いや。えっ?どういうことだ?」


本当に意味が分からない。

七星さんが、俺と?い、いや。さすがにそれはあり得ない。


でも、言葉通りに考えると……。


「私、本当に困ってるんです。彼氏役・・・なんて頼める人他にいなくて」


「いや、でもさすがにそれは……ってえっ?」


今、なんて言った?俺の聞き間違いでなければ——


「お願いします、私の彼氏役・・・になってください!」


「……えーっと、詳しく話を聞かせてくれる?」


————


「——まとめると、役作りのために俺に彼氏役・・・をして欲しいってこと?」


「はい、それでちょっと困ってたんです……」


七星さんの話は、『今度決まった学園ラブコメアニメの役が、経験豊富なギャルなので役作りのために彼氏役をして欲しい』という内容だった。


声優というのは、与えられた役がなんであれきちんと対応することが求められる。


その点で、自分の演じたことがない役では特に人生経験の差がモロに出てしまうのだ。


だから、七星さんも『デートをする』という経験をすることで演技に生かしたいのだろう。


そういうことであれば断る理由はない。

まあ、イケメンではないからそこは勘弁してくれ。


「それで、お願い……できますか?」


「ああ、手伝わせてくれ」


「あ、ありがとうございますっ!」





——という経緯で、俺と七星さんは今カップルを演じているというわけだ。


まあ、演技なしで俺がこんな美少女と付き合うのはさすがに無理があるからな……。


そうして一通り七星さんの指定する場所を巡った俺たちは京都駅に戻ってくる。


「今日は本当にありがとうございました!ryoga様は……どうでしたか?」


不安そうな表情で、上目遣いに俺を見つめてくる七星さん。


「ああ、すごく楽しかったよ。演技でも、七星さんみたいな可愛い子とデートする機会なんてないから」


「〜〜っ!!」


七星さんが突然顔を真っ赤にして俯いてしまう。

し、しまった。また俺は変なことを……。


「ご、ごめん」


「い、いえっ!その……嬉しい、です」


な、なんか気まずい雰囲気になってしまった。

何か言わないと、、


「今日のデート、役作りに活かせそう?」


「は、はいっ!」


「そっか、良かった」


そうして、気づけばもう七星さんの新幹線の出発15分前。


「そ、それじゃあ私帰りますね」


「ああ、お疲れさま」


「はい、ありがとうございますryoga様」


そう言って七星さんは改札に向かって歩いていく。

俺も、帰るか。


そう思ってくるりと振り返ると——


「涼雅……くん?」


「えっ?」


そこには、ポカンと口を開けて俺を見つめている葉月さんの姿。

う、嘘だろ……?

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