第49話 抹茶パフェ

「お待たせしました〜!こちら【特製抹茶パフェ】になります」


「ど、どうも」


カタンッ


目の前に置かれた抹茶パフェはかなりの大きさとクオリティ。写真では見ていたが、正直これは予想以上だ……。


今、俺は【甘味処 中村屋】という店に1人で来ていた。


この店は駅からバスで30分ほどかかる場所にある。


そのため誰にも見られる心配がなさそうなので、店のトイレでマスクと眼鏡を外して仕事モード。


それにしても、なぜ俺がこんな所に1人でいるのかって?


それは京都駅に着いた後のこと——


————


「——注意事項は以上だ。夕食までにはホテルに帰って点呼を受け終わっているように、解散!」


ガヤガヤ ガヤガヤ


先生の諸注意と挨拶が終わり、あたりが騒がしくなる。


「俺たちどうする?」


「あー、何か行きたいところバラバラだよな」


「あっ!じゃあいっそのこと個人行動にする?」


「おっ、アリだな。根倉もそれでいいよな?」


「……はい」


「よーし、じゃあ6時にホテル前集合ってことで!」


————


——ということがあったのだ。


いや、決してハブられたわけではない。そう、これはあくまで個人行動。別に悲しくはない。


……すいません、ハブられました。


「はぁ……」


まあ、今さらそんなことを言っても仕方ない。

俺はスマホを取り出し、カメラを起動。


パシャッ パシャッ


よし、これでOKだ。

俺はツイッターを立ち上げ、『抹茶パフェなう』という文章とともにツイートを投稿する。


それにしても、


「ヤバいな、これ……」


相変わらず、右肩上がりに増え続ける通知とフォロワー数。


だが、通知音はもう鳴ることはない。

エレナがあの後、通知の切り方をLINEで教えてくれたのだ。急用とか言ってた気がするが……まあいいか。


俺がイケメンと勘違いされている件については『仕方ないでしょ。諦めなさい』とエレナに言われて、関さんにも苦笑されたし、もう半分諦めている。


ま、そんなことより今は目の前のパフェを食べるか。


————


「——ごちそうさまでした」


いや、本当に美味しかった……。

普段食べる抹茶のお菓子とはレベルが違うな、うん。


放心状態でパフェの余韻に浸っていると、何やらヒソヒソと声が聞こえてくる。

ん?なんだろうか。


「ねぇ、あれって……」


「うん、間違いない。——様だよ」


誰か有名人が来ているのだろうか?

そう思って周囲を見渡すと——


「えっ?」


さっきまで空いていた店内が、かなり混んでいる。

し、しかも女の人ばっかり……。


な、何が起きている?


「あ、あの……」


突然、後ろから声をかけられる。


慌てて振り向くと、そこにはスマホを片手にこちらを見てくる茶髪セミロングの女性。


「な、なんですか?」


大学生だろうか?

見るからに陽キャという感じだ。


「あっ、すみません。あの。ひょっとして……ryoga様、ですか?」


「へっ?」


「ま、間違ってたらすみません。でも、このツイートってこの店の抹茶パフェですよね?」


そう言って女性が見せてきたスマホには先ほどの俺のツイートが表示されている。


ま、マジか……。

突然の事に冷や汗が流れる。


なんとかして誤魔化さないと!

俺は頭をフル回転させて言い訳を考える。


「……い、いや。たぶん違うと思います」


「えっ、で、でも……」


「5分くらい前に男の人が慌ててお店を出て行ったので、たぶんその人じゃないですか?」


「そ、そうなんですか?」


「はい。なんか『店内と持ち帰りを間違えた』とか言ってました」


「あっ、そうなんですね……」


そう言いつつも、茶髪の女性は半信半疑の目でこちらを見てくる。


「じゃ、じゃあ俺行きますね」


「えっ、ちょっと待って——」


俺は慌てて会計を済ませ、店を出て走り去る。


タッタッタッ


————


——



「はぁ……はぁ……もう……大丈夫だろ……」


俺は膝に手を付き、呼吸を整える。

後ろから聞こえていた足音も、もう聞こえない。


「ふぅ」


それにしても、マジで危なかった。

あんなツイートで場所を特定されるとはな……。


正体がバレかけていたせいか、まだ心臓がバクバクしている。

いや、本当に危なかった。


まあ何とか誤魔化せたし、写真の音も聞こえなかったから多分大丈夫だろう。


それにしても、と俺は周囲を見渡す。


「ここ、どこだ……?」


周りには閑静な住宅街が広がっている。

とりあえず歩くか。


タッタッ


しばらく歩いていると、何やら話している声が聞こえてくる。


この声、どこかで聞いたことがあるような……。


俺は声の聞こえてくる方に向かって角を曲がる。


ドンッ


「きゃっ!」


「あっ、すみません。って……」


ぶつかった人に反射的に謝り目を向けると——


「な、七星さん?」


「ふぇっ?」


そこにいたのはTry☆Starsのメンバー、七星めぐりその人。


尻餅をつき、ポカンとした目でこちらを見ている。

な、なんでここに……。


「あらっ、ryogaくんじゃない」


「ま、マヤさん!?」


マヤさんまで?

ど、どういうことだ……?

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