第48話 新幹線

『今日も新幹線をご利用いただきありがとうございます。この電車は「のぞみ」号、新大阪行きです。途中の停車駅は——』


新幹線のアナウンスが車内に響く。


今、俺は京都に向かう新幹線の中で窓の外を眺めている。


「いやー、京都かあ。楽しみだね、根倉くん」


「ああ、そうだな」


本当なら無言の時間を過ごすはずだったが、俺の隣にいるのは山田君。


『新幹線の座席は自由に座っていい』という先生の提案のおかげだ。


本当に助かった……。

そしてありがとう、山田君。


俺は心の中で山田君に感謝し、ガイドブックを取り出す。

さて、どこを見て回ろうか。


「そういえば、根倉くんの班はどこ行くか決めてるのかい?」


「いや、俺の班は個人行動ってことになってるから。まだ決めてないな」


まあ、実際には(俺だけ)個人行動というのが正しい言い方だが、1人でゆっくり京都を満喫できると考えれば悪くない。うん。


「そ、そうなんだ……」


「ああ」


なんか悪い事を聞いてしまったかのように申し訳なさそうな山田君。

やめて!俺のメンタルはもうゼロよ!


「——あ、あのさ!」


突然、俺のほうを見てくる山田君。


「どうしたんだ?」


「僕たちの班、『響け!サックスソリスター』の聖地巡礼に行くんだよ。根倉君も知ってるよね?」


「あ、ああ。もちろん知ってる」


『響け!サックスソリスター』とは、京都の宇治市を舞台にした吹奏楽のアニメだ。


キャラの可愛さと作中で流れる演奏シーンの迫力、そして神がかり的な作画で大人気となった。


「それで、もし良かったら——根倉君も一緒に行かないかい?」


「お、俺が?」


「うん。班のみんなには僕が説明するからさ」


正直、願ってもない申し出だ。


『響け!サックスソリスター』は俺も大好きなアニメだし、いつか聖地に行ってみたいとは考えていた。


でも——


「……いや、やめておくよ」


「そ、そっか」


もし、俺が一緒に行けば他の班員は気まずくなるだろう。

そして、その矛先が山田君に向く可能性もあるかもしれない。


「ごめん山田君。せっかくの提案なのに」


「いやいや、全然大丈夫だよ!根倉君も行きたいところあるだろうし、ね」


「誘ってくれてありがとう」


「ほんとに大丈夫だって!——って、あれ」


突然、窓の外を指さす山田君。

なんだ?って……


「すごいね……富士山」


「確かに」


俺の目に映っているのは、悠然とそびえている富士山。晴れているせいか、頂上までくっきりと形が見える。


あ、そういえば。


俺はスマホ取り出し、富士山の写真をカメラで撮る。


パシャッ


「お、いい感じだね」


「ああ」


少しブレているが、まずまずの写真。

あとはこれをツイッターに投稿するだけ。


そうして、俺はツイッターを開く——


ピコン! ピコンピコンピコンピコン!


「うわっ」


俺は慌ててツイッターを閉じる。

な、何だ今のは……。


「なんか、今通知音しなかったかい?しかも連続で」


「い、いや。電話がきてたみたいだ」


「え?でも今のって——」


「ごめん、ちょっとかけ直してくる」


「あ、ああ。分かったよ」


怪しむ山田君を尻目に、俺はスマホを片手にトイレに直行。


ガチャッ


「ふぅ」


ひと息ついてもう一度ツイッターを開く——


ピコンピコン! ピコピコピコピコン!!


「な、なんだこれ……」


そこには通知マークがひっきりなしに通知を鳴らしている光景。


えっと、とりあえずプロフィールを表示するか。

そしてプロフィールを表示すると、


「う、嘘だろ?」


フォロワーの数がおかしい。

いや、俺の目がおかしいのか?


フォロー 0 フォロワー 32500


何度見返してもその数字は変わらない、というかどんどん増えていっている。

突然の事態に、俺の脳は完全に思考停止。


いや、マジか……。


俺は放心状態で、検索欄に『ryoga』と打ち込む。


『これ本物ですか?』


『アイコンめっちゃイケメン!!』


『かっこよすぎ。マジで結婚して欲しい、、』


『ryoga様神すぎる……』


くっ、何が起きてるんだ?

とりあえず誰かに相談しないと——


すると、突然スマホが震える。


プルル——


ピッ


「も、もしもし」


『あっ、リョウガ!あんたツイッター始めたの?』


電話をかけてきたのはエレナだった。た、助かった……。


「あ、ああ。昨日始めたんだ。そ、それより助けてくれエレナ!通知が止まらないんだ」


『へっ、そりゃあそうでしょ。しかも似顔絵がアイコンになっちゃってるし……』


「俺がイケメンだって勘違いされてて、どうしたらいいんだよマジで……」


『いや、リョウガは普通にかっ……、じゃなくて!わ、分かったわ。解決法を教えてあげる』


「ま、マジか。助かる」


『とりあえず——私のアカウントをフォローしなさい』


「えっ?な、なんで」


『な、なんでもいいから!早く私をフォローしなさい』


「わ、わかった」


慌てた様子のエレナに急かされ、俺はエレナのアカウントをフォローする。


「フォローしたぞ」


『そう。あっ、私急用ができちゃって。じ、じゃあねリョウガ』


「えっ?ちょ、ちょっと待って——」


プツッ


ピーッ ピーッ


な、なんで急に……。

しかも通知の量がさっきより増えてるような。


「……」

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