第41話 打ち上げ

「グッ!魔王である我が人間に負けるなど……ありえんのだぁぁぁ!!」


ブンッ


「甘いっ!」


ガキンッ


魔王の振り下ろした剣は勇者カナタに弾き返され、一瞬の隙ができる。


「カナタッ、今よ!」


「俺たちの力を受け取れ!」


「魔王を倒してください——」


パーティーの3人が勇者の方に手をかざし、自分たちの全魔力を分け与える。


ブゥーン——


「すごい、力がみなぎってくるぞ……」


勇者の体を金色のオーラが包み、まばゆく輝きだす。


「ぐぉぉ、なぜこの我がこの程度の奴らにっっ!仲間ともども我の必殺技——『デス・ザ・クラッシャー』で塵にしてくれる!!」


「——確かに俺1人だったら負けていたかもしれない。でもな、魔王。俺にはかけがえのない仲間がいる!こいつらと一緒なら……俺は誰にも負けないっ!!奥義——『セブン・バニッシュメント』」


勇者と魔王の一撃がぶつかり、視界が真っ白に包まれる————







「はい、これで全カット終了でーす!みなさんお疲れさまでした〜」


「「「「お疲れ様でした〜〜!」」」」


音響監督の一声とともに、緊張感に包まれていた現場は喧騒に包まれる。


「ふぅ……」


なんとかやりきった、、

俺はホッと胸を撫で下ろす。


そう、今日は秋アニメ『俺カノ』の最終回の収録が行われていた。


先ほど最後の魔王との激闘シーンのアフレコが完了し、音響監督のOKが出たから俺たちの仕事はここで終了。


あとは制作会社が最高のアニメに仕上げてくれるのを信じて待つだけだ。

そして、この後は——



「——お疲れさまです!アオノエンタープライズのryogaです。今回は共演させていただきありがとうございました」


「ryogaくんこそお疲れさまー。また現場で会うことあったらよろしくね〜」


「こちらこそよろしくお願いします」


よし、これで共演者の声優とスタッフの挨拶回りはほぼ完了。

あとは……


「わっ!」


「うおっ」


耳元に突然囁かれ、後ずさる。

だ、誰だ?って……


「ふふっ、お疲れ様です。涼くん」


声のした方向に振り向くと、そこにはいたずらが成功した子供のような表情を浮かべているしおりんの姿。


「お、お疲れさまです」


心なしかより距離を詰めてきてるような、いや、気のせいか。

それにしても、こんな美少女がドアップで……心臓に悪すぎるぞ、本当に。


「えいっ!」


ギュッ


突然、腕を絡ませてくるしおりん。


「ちょ、ちょっと!何してるんですか?」


「むぅ、敬語をやめてくれるまで離しません」


し、しまった。

そういえばタメで話して欲しいって言われてたのに、ついクセで敬語が、、


「お疲れさ——いや、おつかれ。しおり」


「はい、お疲れ様です。涼くん♪」


ようやく腕を離してくれたしおり。

周りに見られたらマジでやばいけど……まあ、みんなまだ挨拶してるから大丈夫だろう。


「今回はすごい勉強になったよ。ありがとう、しおり」


「そう言っていただけると嬉しいです。でも、私も涼くんの演技から色々と盗ませてもらいましたからwin-winですよ?」


またそんな社交辞令を……。

といいつつも、俺の口角は少し上がってしまう。

あのしおりんに褒めてもらえるなんて、俺も少しは上手くなれているのだろうか。


「そういえば今度のトークイベント、涼くんと一緒ですね」


「そうだな。はぁ……」


唐突に気が重くなる。嫌なことを思い出してしまった……。


「どうしたんですか?」


「いや、自前のコスプレをどうしたらいいか悩んでて」


結局、あの後エレナをなんとか家に帰したのはいいもののあまり有効なアドバイスは貰えなかったし、どうしたものか……。


「それなら、私の友達を紹介しましょうか?」


「えっ?ほ、本当に?」


「はいっ♪コスプレのイベントとかも頻繁に出てて、自分で衣装作ってるんですよ。私もその子に今度のイベントの衣装は任せるつもりです。どうですか?」


か、神だ……。さすがに神すぎるだろこれは。


「た、頼む。俺の衣装もその人に作ってもらえないか?」


「ふふっ、いいですよ。——でも、その代わり1つだけお願いがあります」


「お、お願い?」


お、お金か。いや、最近は仕事も結構きてるし10——いや、20までなら……。


「そんなに身構えなくてもいいですよ?私のお願いは——この後、私と晩ご飯に付き合ってください」


「えっ?」


どういうことだ?しおりんが俺とご飯?

くっ、意味がわからないぞ……。


「嫌……ですか?」


「いや、そんなわけないよ。でも、俺なんかでいいのか?」


「もうっ、涼くんがいいんです!」


お、俺がいい?その言い方だとまるで——


ポンッ


その瞬間、俺の肩に手が置かれる。

この感じは……


「須田さん、お疲れさまです」


「お疲れ様です」


「おーっす!2人ともお疲れ〜」


振り返った俺の目に映っているのは、アロハシャツに短パンとラフな格好の須田さん。相変わらずと言った感じだ。


「2人ともこの後打ち上げ行く?焼き鳥の美味しい店とってるみたいだぜ」


焼き鳥……。

ゴクリと喉がなる。


「い、行きま——じゃなくて、行けないです」


「えっ、マジ?」


「はい、すみません」


危ない危ない、間違えるところだった。


「私も用事があって行けないです。すみません、須田さん」


「あちゃー、しおりんも行けないのか〜!ってか、ひょっとして……あっ、なるほどー!おじさん分かっちゃったなー」


何やら訳知り顔の須田さん。

なんか嫌な予感がするぞ……。


「……須田さん、何か勘違いしてませんか?」


「いやいや、分かってるよryogaくん!おじさんもその気持ちはよーく分かる。エレナちゃんには上手いこと言っとくから、な?」


「いや、なんでそこでエレナが出てくるんですか……」


「まーまー!後はお2人でごゆっくり〜」


そう言って、ヒラヒラと手を振って去っていく須田さん。

……まあ、いいか。


「それじゃあ、この後打ち上げ会場に移動しまーす!打ち上げ来れる人はスタジオ前に集まってくださーい」


「それじゃあ、私たちも行きましょうか!」


「ああ、そうだな」


そうして、俺としおりはスタジオを後にしたのだった。

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