第40話 ヤバい
ガチャッ
「よいしょっ、と」
自室に入った俺は、ベッドに腰掛けて一息つく。
(はぁ……)
今日は本当に疲れた。
コスプレの相談をするためにエレナを初めて家に呼んだのはいいものの、なんだか様子がおかしい。
まるで初めて彼氏の家に招かれた彼女みたいな……。
——っていやいや、何を考えているんだ俺は。
超人気アイドル声優のエレナと俺みたいな隂キャが釣り合うわけないだろ……。
そんなことを考えていると、部屋のドアがノックされる。
コンコン
「はーい」
「入るわよ?」
そう言って入ってきたのはエレナだった。
「隣、座るわね」
「えっ?」
エレナは自然な流れでポスンと隣に腰掛けてくる。
さっきあんなことを考えていたせいか、いつもより変に意識してしまうな……。
「話には聞いてたけど、朱理ちゃんって本当に可愛いのね。ビックリしたわ……」
「へっ?ああ、エレナもそう思う?やっぱり分かっちゃうか〜」
エレナには以前から朱理の事は話していたが、今まで家に招く機会がなかったので顔を合わせるのは今日が初めてなのだ。
「やっぱり朱理ってオーラが出てるんだよな。うん、まああれだけ可愛かったら仕方ないよな。はぁ……」
世界一可愛い俺の妹に悪い虫がつかないか、今から心配だ。
「エレナもそう思うだろ?」
「……シスコンキモい」
ジト目でこちらを見てくるエレナ。
な、なぜだ……。
————
「そ、そういえばリョウガは私にコスプレして欲しいのよね!」
「へっ?ま、まあそうだな。というかコスプレのアドバイスを——」
「は、はぁ。まったくリョウガってばもうむっつりなんだから……」
ほんのり顔が赤いエレナがあからさまなため息をもらす。
何か重大な勘違いをしてるような気がするんだが……。
「いや、だから俺は——」
「ほらっ!今から着替えるから出て行って」
ガチャリと扉が閉まり、俺は追い出される。
「……」
……いや、もう考えるのはやめよう。
俺は無心になって天井を見つめること約5分。
『入っていいわよ、リョウガ』
「ああ、じゃあ入るぞ」
そう告げて俺はドアを開ける。
ガチャッ
「結構着替えるの長かったな——えっ?」
思考が一瞬フリーズする。
いやいや、どういうことだ?えっ?
何度も目を擦るが目の前の光景は変わらない。
だって、俺の目に映っているのは——
「お、お菓子くれないとおそっちゃうぞ?……にゃぁ」
——ベッドの上で、真っ赤な表情で招き猫のようなポーズをしている水着姿のエレナだった。
頭には猫耳をつけ、体を覆っているのはファーのついた紫色のビキニと細い紐のみ。
「お、おい。どうしたんだエレナ……」
「あ、あんたが言ったんでしょ?コスプレがいいって。リ、リョウガもさっさと服脱ぎなさいよ……」
ふ、服を脱ぐ?どういうことだ。
いや、やっぱり何か勘違いをしているような……
「いや、俺はコスプレのアドバイスを貰いたかっただけというか」
「……はっ?」
刹那、エレナの表情が固まる。
「どういうこと?説明して」
「いや、それが今度アニメのトークイベントでコスプレしないとダメになったんだよ。しかも相手が姫宮さん——」
「は、はぁぁぁ!?そ、それどういうこと!なんで顔出ししてんのよ!!というかよりにもよってなんであの腹黒女なのよ!!!!」
こちらに詰め寄ってくる銀髪美少女。
い、いやさすがにこの状況はマズイだろ……。
「お、おい。落ち着けって……」
「落ち着けるわけないでしょ!そ、そんなのダメ。ダメに決まってる……、今すぐキャンセルしなさい」
「そうだよな。俺もやりたくなかったんだけど関さんに頼まれて断れなかったんだよ」
はぁ。今思い出しても、マジであのポンコツマネージャー……。
「はぁ?じゃあどうするのよ!でも、いやこうすれば——」
エレナは何やらブツブツと呟いている。
「おい、どうしたんだ?」
「な、なら私がそのイベントに出てあげる。はぁ、本当に仕方ないわ。うん、仕方ない」
いや、何を言ってる……。
「いや、まずお前アニマルふれんず出てないだろ?」
「くっ……。で、でもあの女だけはダメ。なんとかしなさいよ!」
「なんとかって、どうしようもないだろ……」
内心ため息をつきながら、俺は頭を抱えるのだった。
マジでやばいぞ、これは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます