第39話 自宅

事務所からの帰り道。


エレナと合流した俺は、自宅へと向かっていた。

それにしても……


「どうしたんだ?その荷物」


横を歩いているエレナが手にしているのは、旅行用のキャリーケース。


一体何が入っているんだろうか?


「えっ!?ま、まぁ準備とか。色々あるのよ」


「そ、そうか」


心なしか狼狽えている様子のエレナ。

いや、気のせいか……。


「そういえばエレナって俺の家って来たことなかったよな」


「そ、そうね。(初対面は第一印象が大事。しっかりするのよ私!)」


真剣な表情で何やらブツブツとつぶやいている幼馴染。


まあ、人の家に行くのが初めてで緊張しているのだろう。


俺もコミュ障だからその気持ちはよく分かるけど、自信の塊みたいな我が幼馴染エレナでもそうなるとはな……。







その後はお互いにほとんど喋らないまま、俺と朱理の住んでいるマンションの部屋に到着。


ガチャッ


「ただいま〜」


俺がそう言うと、奥からパタパタとスリッパの音が聞こえてくる。


タッタッタッ


「お兄ちゃんおかえり〜」


「ああ、ただいま朱理」


ラブリーマイエンジェル、もとい朱理が姿を現した。


ふぅ、1日の疲れも余裕で吹き飛ぶな……。


「結構遅かったねー。……ってえっ?」


玄関まで小走りで迎えにきてくれた朱理は、俺の隣にいるエレナを見て驚きの表情を浮かべている。


——そして次の瞬間、目からハイライトが消失。


ゾクゾクゾクッ!


「あ、朱理?」


な、なぜだ?背筋の寒気が止まらない。

くっ、何をこんなに焦っているんだ俺は……。


「ねぇ。誰かな……?その女の人」


「い、いや——」


口ごもっている俺を遮るように、エレナが口を開く。


「は、初めまして!四条 エレナと申します。涼雅くんとは声優仲間として仲良くさせていただいてます!」


「ありがとうございます。根倉 涼雅の妹の朱理と申します。いつも兄がお世話になっています。ところで、四条さんは……お兄ちゃんのお友達・・なんですよね?」


「は、はいっ!」


「……ふふっ。そうですか、なら良かったです♪」


エレナが緊張気味にそう言った瞬間、朱理の目に光が戻った……ような気がする。


「あ、あのっ!これつまらないものですが」


そう早口でまくし立て、エレナが差し出したのは手に持っていた紙袋。

これ確か結構有名なケーキ屋だよな?


「うわぁー!これ、『diamond piece』のケーキですよね?」


「はい、お口に合えばいいのですが……」


「いえいえ、とんでもないですよ!汚い家ですがどうぞ上がってください」


いつも通り——いや、若干ハイテンション気味な朱理についていくように俺とエレナは家に入る。さっきまでの寒気が嘘のようだ。ひょっとして、俺の気のせいだったのだろうか?


……まあ、それはいいとして。


「おい、大丈夫か?」


「ふぇっ?う、うん」


「……」


終始、借りてきた猫みたいな様子のエレナ。

ほ、本当にどうしたんだお前……?

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