第34話 逃亡

ガチャッ


「失礼します。ライブお疲れさまです」


ドアを開けて入ってきたのは――


「エ、エレナ?」


「えっ、リョウガ?ってアンタ……」


般若のような顔をしてこちらを見てくる、俺の幼馴染四条 エレナだった。


さ、最悪だ……。


「エレナ、違うんだ。これはその、誤解というか――」


「な、何して……。と、とりあえずめぐりちゃんから離れなさいよ!!」


ガバッ!


エレナが俺と七星さんを引き離す。


「ちょっと来なさい!アンタにはお説教が必要みたいね……」


タッタッタッ


我が幼馴染エレナは俺の手を取り、ズンズンと出口に向かっていく。


「お、おい。ちょっと待てって」


「うるさい、このバカリョウガ!」


パシッ


反対側の手が誰かに掴まれる。

だ、誰だ?


「ふふっ、ちょっと待ってください」


振り向くと、そこには笑顔で俺の手を握るしおりの姿。


「あら、何かしら?――姫宮さん」


「涼くん嫌がってるじゃないですか。放してあげたらどうですか?」


「あら、余計なお節介をどうも。でもあなたには関係ないことでしょう?姫宮さん」


2人とも顔は笑っているが目だけ笑ってない。

なんか怖いんだが……。


「それなら関係ありますよ?涼くんは、私と今からご飯を食べに行く予定なんです」


ん?どういうことだ?

確か、しおりとはそんな約束してなかったはず……。


「四条さんこそ、何か用事でもあるんですか?この前の勝負で完膚無きまでに叩き潰したはずですけど……。ふふっ」


「くっ……。そ、それとこれとは話が別よ!私は今からこのバカと話があるの。だいたい、アンタこそ猫被りすぎ。それで男がみんな引っ掛かると思ったら大間違いよ」


「あら、負け犬はよく吠えますね。もうちょっと演技が上手くなってから出直してきたらどうですか?」


「はぁ!?どういうことよそれ」


2人は俺の手を放し、睨みあっている。

お、おい大丈夫かこれ……。


ちょい ちょい


ふと横に目を向けると、マヤさんが手招きしている。


「どうしたんですか?」


「私にいい案があるの。お姉さんについて来てくれる?」


「?まあ、分かりました」


マヤさんはそーっと扉を開け、部屋から出る。


「さあ、こっちよ」


「はい」


マヤさんが早足で向かう先は……


「あの、これって出口じゃ……」


「いいからいいから、お姉さんに任せなさい!」


そのままアリーナの外に出て歩くと、タクシーが何台か停まっていた。


「さあ、乗りましょう」


「え、でもあの2人は……」


「ryogaくんがあの場に居たら逆効果じゃない!だ・か・ら、お姉さんと一緒に楽しいこと、しましょ?」


「え、ええっ!?」


俺はマヤさんに手を取られ、気づけばタクシーの車内に。

い、いいのかこれ……。


「すいません、この店まで乗せてもらえます?」


「はい、分かりました。この距離ですと少々お値段高くなりますが、大丈夫ですか?」


マヤさんは鞄からカードを取り出し、運転手に見せる。

……って、ゴールドカード?


「これで大丈夫かしら?」


「これは失礼しました。では発車致します」


ガチャリと自動ドアが閉まり、車が動き出す。


「あ、あの。マヤさん、これはどこに……」


「どこ?ふふっ、それは着いてからのお楽しみよ♪」


こうして、俺とマヤさんはライブ会場から去っていったのだった。

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