第27話 ヒーロー
『なあ、本当にやるのか?駿』
『そうだぜ、これがバレたら俺たちヤバいことになるって!』
『おいおい、ビビってんのか和夫、正樹?』
『い、いや。そういうわけじゃないけどよ』
『俺は勘弁だぜ、あんな陰キャに舐められっぱなしなんて。これでアイツを停学にさせてやる……!』
僕、山田 藤吉郎の手にあるスマホには、鈴木達が根倉君のロッカーに体操服を入れている様子が映っている。
「どうしよう、これ……」
事の発端は昨日のこと――――
★
「はっ……はっ……」
放課後。誰もいない校舎で、僕は階段を駆け上っていた。
普段は忘れ物なんてしないんだけど、昨日はたまたま学校に数学の問題集を忘れてしまったんだ。
次の日に提出の宿題があったから仕方なく教室に取りに戻ったら……鈴木達がコソコソと何かやっていた。
僕はアイツらが苦手だ。
オタクのことを馬鹿にするし、休み時間は無駄にでかい声で喋りあっている。
同じリア充でも葉月さんなんかは周りに気を配っているし、僕みたいな日陰者にも喋りかけてくれるから、リア充が悪いとは思わない。
けれど、鈴木達みたいな――そう、DQNっていうのかな? ああいう連中とは関わりたくない。
そんな訳で教室に入れずに奴らが帰るのを待っていた僕だけど、すぐに様子がおかしいことに気づいた。
バカでかい声で喋る鈴木達が、ヒソヒソと肩を寄せ合うように喋っていたのだ。
しかも鈴木が何かを手に持っている、あれは……女子の体操服?
それを理解した瞬間、僕はポケットからスマホを取り出してカメラを録画モードにしていた。何か分からないけど、アイツらはヤバいことをしている気がすると僕の本能が告げていたのだ。
結果的に、予感は的中。
鈴木達は葉月さんとB組の日向さんの体操服を根倉君のロッカーに入れ、根倉君を窃盗犯に仕立て上げようとしていたのだ。
そして僕の手元には鈴木達の犯行映像が残っている。
これを見せれば根倉君の無罪が証明されるだろう。確か、さっき先生に呼び出されていたから今ちょうど日向さんと話し合いをしているはず。
でも……でもだ。
これを見せて根倉君が助かり、鈴木達が処分を受けたとしよう。まあ、学校側も大事にしたくないから停学ってのが精一杯だろう。
そうしたら鈴木達の矛先が向くのは僕。あの動画を見せた僕に復讐をしてくるに違いない。アイツらは間違いなくそういうことを根に持つタイプだ。
漫画の主人公ならここで迷わず生徒指導室に向かうだろう。
でも僕はそんなに強い奴じゃない。喧嘩なんてしたこともない。
だから、アイツらに目を付けられるのが――怖いんだ……。
僕はそそくさと下駄箱で靴を履き替え、校門を出る。
(何やってるんだよお前!このままじゃ友達が冤罪を被せられるぞ)
僕は何も見てない、見てないんだ。
(お前がなりたかったのはそんなダサい奴なのかよ。見損なったぞ……)
うるさい、うるさい!僕は面倒事に巻き込まれたくないんだ!
(ここで帰っちゃったら絶対後悔するぞ?)
ピタッと足が止まる。
根倉君には申し訳ないけど、僕は普通の高校生活が送りたいんだ。
学校では空気として1人静かにスマホでネット小説を読み、家に帰ったら撮りためてたアニメとラノベの新刊を読む。
あんなDQN連中に目を付けられる高校生活なんてまっぴらごめんだ。
(そうか、それでいいんだな?)
「いちいちうるさいんだよ……!」
もう話がついてるかもしれないじゃないか。今更戻ってももう遅いだろ?
仕方ないんだ、僕のせいじゃない。
「ああ、くそっ!」
僕は、僕は――
★
side 根倉 涼雅
放課後の生徒指導室。
夕日に照らされオレンジ色に染まる部屋で、俺は生徒指導の先生に呼び出されていた。
「はい、もう決定。アンタが昨日の放課後、私と凜花の体操服盗んだんでしょ?」
向かいのテーブルからこちらを睨みつけてくる日向彩華。
その視線に怯みそうになるが、やってないものはやってないのだ。
「いや、だから俺はやってないんです!昨日は授業が終わったらすぐ家に帰ったからそんな時間無かったんです」
「そうだよ、彩華ちゃん。根倉君にはアリバイもあるし、盗んだっていう証拠もないから決めつけるのはよくないよ!」
俺の横に座る葉月さんが援護してくれる。
「だからさぁ~。凜花はなんでこんな奴を庇うわけ?凜花も被害者なんだよ?」
「そ、それは……」
「それに、証人もいるわけだし」
日向彩華が視線を横に向ける。
そこにいるのは――
「ああ。こいつ昨日から様子がおかしかったんだよ。なんか昨日の昼休みくらいから周りの目を気にする感じ?でキョロキョロしてて、次の日も挙動不審だったから何してんの?って声掛けたら案の定、ってわけよ」
鈴木は肩をすくめ、さもそうであるかのように語っている。
こいつ……。
「ふむ。状況は大体わかった。お互いの言い分も踏まえて、明日の職員会議で根倉の処分は決定する。以上だ」
先生の顔は険しい。
やはり俺は退学か停学になってしまうのだろうか。そうすれば俺の声優としての活動は――
ガラガラッ!!
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「山田君……?」
扉を開け、姿を現したのは山田君だった。
何やら覚悟を決めたような表情をしている。
「先生、根倉君は無罪です。この動画を見てください」
「?あ、ああ……。分かった」
山田君がスマホを操作し、全員に見えるように動画を再生する。
そこに映っているのは――
「これは……鈴木か?あとは、斎藤と後藤もいるな」
「チッ、山田ァ!ちょっと話がある。面貸せや」
「ひっ!」
何かに感づいたのか、鈴木が山田君につかみかかる。
はぁ……。
ガシッ
俺は山田君につかみかかる鈴木の手首を掴む。
「あ゛?」
「話があるならここでもいいですよね?」
「う、うるせぇ!放せやこの陰キャ!!」
「別に俺は陰キャでもいいですけど、なんで山田君につかみかかるんですか?」
「んなもん何でもいいだろ!放せよ、このっ……」
「無駄です。変に抵抗したら骨折れますよ?」
「放せよ、クソがっ!!」
「はっ!」
「ぐあぁぁぁ!」
鈴木を地面に倒れ込ませ、無力化する。
「山田君、続けてくれ」
「あ、うん……」
そして山田君が流した動画は、鈴木達が俺のロッカーに体操服を入れてる様子が一部始終映されていた。
「山田、この動画のデータを送ってくれるか?明日の職員会議の資料として使わせてもらいたい」
「はい、わかりました」
「違う!おれじゃない!それはデタラメだぁ!!」
「観念しろ、鈴木。この動画が合成じゃないのは火を見るよりも明らかだろう。鈴木以外は全員帰っていいぞ」
★
とりあえず俺と葉月さん、山田君の3人は下駄箱で靴を履き替え校門へと向かっていた。
「ありがとう、山田君。本当に助かった」
「ううん、友達だったら当たり前だよ」
そういう山田君の足は、まだ少し震えている。さっきの鈴木がよほど怖かったのだろう。
「涼雅くん!!」
突然、後ろからバサッと葉月さんが抱き着いてくる。
「うわっ、は、葉月さん!?」
「よかった。本当によかったよ……」
本当にその通りだ。勇気を振り絞ってくれた山田君には感謝しかない。
それにしても、背中に柔らかいものが当たってるんだが……。
「葉月さん、その……」
「ふぇっ!あ、ご、ごめんね。つい興奮しちゃって。べ、別に誰にでもするわけじゃないんだよ?」
ん?どういう意味だ?
「あれ、そういえば日向さんは?」
「あ、いないね」
周りを見渡すが誰もいない。
もう帰ってしまったのだろうか。まあどうでもいいが。
「じゃあ、私たちも帰ろっか!」
「そうですね」「うん、そうだね」
――こうして、一連の騒動は幕を閉じたのだった。
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