第26話 キモオタ ②
「この公式は一般に二次方程式の解を求める際に使われることが多い。これ大事だからな?覚えておくように。具体的には教科書69ページの――」
今は4時間目の数学。次は昼休みだ。
「~~~、~~♪」
鼻歌を口ずさみながら、私――日向 彩華は授業を聞いていた。
いつもは寝てしまう数学も余裕で起きていられる。
ふっ、それにしてもいい気分……。
というのも今朝、騒動があった後に私はキモオタのことを進路指導の先生に言いつけてやったのだ。
その後、チクったことを伝えにいった時のキモオタの顔が傑作だった。
頭を抱え込んで顔面真っ白。本当にいい気味だわ。
授業の内容は何言ってるのかはさっぱり分かんないけど、そんなのどうでもいい。
(今日のお昼はどうしよっかな~。購買でサンドイッチ?いや、食堂で焼き魚定食もありかなぁ。ふふっ、迷うなー)
キーンコーン カーンコーン
ガタッ!
チャイムと同時に席を立った私は、意気揚々とお昼ご飯に向かったのだった。
★
「なぁ、俺達付き合わね?」
昼休みの校舎裏。私は鈴木に告白されていた。
「だから私さっきから言ってるよね?鈴木君とは付き合えないって」
「おいおい照れんなって彩華。そんなこと言って実は俺のこと気にしてんだろ?」
もうマジで最悪……。
目の前のチャラい男、コイツの名前は鈴木駿。
コイツは私が一番苦手なタイプ。2年A組という小さなグループの中で威張っている、典型的な井の中の蛙だ。
クラスの女子達はコイツのことをカッコいいとかなんとか言ってるが、メンズ読モの知り合いがいる私からしたら、こんなのイキってる中学生以下。無理、というかありえない。
「いや、だから――」
「ほら、クラスのカースト?的にさ、俺達お似合いじゃん。彩華もそう思うよな?それに朝の一件も俺があの陰キャを見つけたわけだし」
「はぁ……」
朝の件については多少感謝してるけど、それとこれとは別問題でしょ?
それに自分のことを本気でイケメンだと思ってるのが痛すぎる。
その上、目の前の勘違い野郎のせいで私はまだ昼ご飯が食べられていないのだ。
ああ、もうイライラしてきた……。
「ねぇ、私まだ昼ご飯食べてないんだけど」
「彩華が素直になってくれればすぐ終わるからさ、な?」
「だから無理」
「はぁ、分かったって。今度はいい返事聞かせてくれよ?」
「あ、ちょっと!」
鈴木は走リ去っていった。フラれると分かった途端逃げるとか、マジであり得なさすぎる……。
今日はほんとにツイてない日だ。
朝は体操服盗んでくるキモオタ、昼は恩人ヅラして告ってくるノーデリカシー野郎。
男なんてほんとロクな奴がいない。
どこかにいないのかな、私の
黒髪の爽やか系イケメンで身長170cm以上。それで、私がピンチになったら助けに来てそっと手を差し伸べてくれる、そんな優しい人。
でもいるわけないよねそんな王子様……。
少なくともこの学校にいるとは思えない。
「はぁ……。帰ろ」
私は教室に向かって踵を返す。
――――この時、私は知らなかった。
そう遠くない内に、自分が本物の王子様と出会う事を。
そして、今までのちっぽけな価値観が変わってしまう程に、彼に夢中になってしまう事を。
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