第24話 キモオタ

「はぁ……。マジありえない」


体育の時間、私――日向ひむかい 彩華あやかは1人ため息をついていた。

ただでさえ嫌いな体育の授業が、今日はより憂鬱なものになっている。


それもこれも全部、あいつ、根倉だっけ?とかいうキモオタのせいだ。

少し思い出しただけでもまじイラつく……。




事の発端は今日の朝のホームルーム前。

1時間目に体育があったからいつものようにロッカーに体操服を取りに行ったら、そこにあるはずの体操服がなかった。


(またこのパターン?ってか体操服とか、嘘でしょ……)


今までも何回かやられたことがあったからすぐに検討がついた。

誰かが私の体操服を盗んだのだ。

今までも似たようなことはされたことがあるけど、消しゴムとかヘアゴムとかその程度だった。


多少のことには目をつぶってきたけど、もう限界。

徹底的に犯人を探し出してやる……!



探し始めて数分で、意外にあっさりと犯人は見つかった。


「おいおい!何してんの根暗くぅ~ん?」


「なんかコソコソしてんじゃん」


「ロッカーにヤバいモンでも隠してるんじゃねぇの?」


廊下から声が聞こえたから、その方向に行ってみたら人だかりができていた。

その円の中心にいたのは絵に描いたような、丸メガネにマスク姿の冴えない男。


「いや、これは……」


「怪しいなぁ~。キモオタの根暗くんのことだから、女子の持ち物盗んでたりしてんじゃねぇの?」


「そうだな~、例えば……体操服とか?」


「ぎゃはははっ!キモすぎるだろ!!」


不快な笑い声を立てているのは確かA組の鈴木達。

アイツらも大概嫌いだけど、今はそっちじゃない。


「ちょっとどいて」


私がそう言うと、目の前の生徒たちが道を開け、キモオタと目が合う。

絶対にコイツが盗んだに違いない。


体操服を盗むなんて気持ち悪い真似、こんなキモい見た目のヤツしかやらないに決まってる!


「そのロッカー、開けたいんだけど。どいてくれない?」


「い、いや。ここには無いです。ほんとに無いです」


この期に及んで言い逃れ?

往生際が悪すぎて吐き気がする。


「隠すってことは盗んだって認めるってこと?」


私はありったけの怒りを込めて、目の前の窃盗犯を睨みつける。


「い、いや――」


「どいて」


「はい……」


言葉で言っても埒が明かないと判断した私はキモオタを押しのけ、ロッカーを開ける。

すると予想通り、そこには女子の体操服があった。


しかも2着……?

ってこれ、葉月って書いてる。凜花の体操服も盗んだのコイツ?


「ほら、やっぱり。私の体操服じゃん。凜花のもあるし、ほんっと最低!」


「……」


自分の罪を認めたのか、キモオタは俯いて黙り込む。

もう確定、コイツは最低のクズ野郎だ。


「みんな集まってどうしたの?」


「葉月さん……」


「え、涼雅くん?それに彩華ちゃんも……。いったいどうしたの?」


教室から姿を現したのは凜花だった。

正直、読モをやっている私から見ても可愛いと思うくらいの美少女。

凜花にもコイツの悪行を教えてあげないと……。


「聞いてよ凜花!このキモオタ、凜花と私の体操服盗んでたの。ほんっと信じらんない!マジさいてー!!」


「ち、違うんです!俺が朝読の本を取るためにロッカーを開けたら――」


凜花に向かって惨めったらしく命乞いをしているキモオタ。

それを見た瞬間、私の中で何かが切れた。


「言い訳すんなキモオタ!あんたみたいなキモいやつが私は一番嫌いなの!!こんなセコい真似せずにコクってこいっての。まあ、あんたみたいなキモオタ3秒でフるけどね」


「ほ、本当に俺じゃないんです!一回話を聞いて……」


「そ、そうだよ。1回話を聞いてあげようよ彩華ちゃん」


「なに?凜花もこのキモオタの肩を持つってわけ?」


「そういうわけじゃないけど、まだ涼雅くんがやったって決まったわけじゃないんだし……。話を聞いてあげるくらいしてもいいんじゃないかな?」


自分も被害にあっているにもかかわらず、凜花はこのクズ野郎を庇っている。

この娘は優しすぎるんだ。

それが良いところでもあるけど、今回はそれが裏目に出てしまっている。


こんなクズを庇う必要なんか無いってことを私が教えてあげないと……。


「そんなの無意味よ。このキモオタがやったに決まってるわ。絶対先生にチクるから、じゃあね」


そう言って私は立ち去った。

今回ばかりはもう許さない。

先生に言いつけて、絶対にあのキモオタを吊るし上げてやる……!

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