第23話 濡れ衣
『朝読』という習慣を知っているだろうか?
1時間目の授業が始まる前の10分間で本を読ませる、という趣旨の活動だ。
ちなみに、正式名称は『朝の読書活動』というらしい。
今や全国の高校で行われているこの習慣は、俺の通う高校でも例に漏れず行われている。
「朝読何呼んでる?」
「朝読?今は『ハナビ』とか読んでるかな~」
「えっ、うそ!?私もそれ読んでる」
「リナも?めっちゃいいよねアレ!こう、2人のもどかしい感じの距離感がたまらないっていうか」
「だよね~!恋愛モノの頂点って感じする」
「わかる~」
(ふっ……。まだまだだね)
近くで聞こえてくる女子達の会話を心の中で一蹴し、俺は席を立つ。
向かう先は廊下にあるロッカー。
その中にあるのは我が
少し捻くれた主人公の軽快な語り口、個性豊かなヒロインたちとの掛け合い、美麗なイラスト。
……どれをとってもまさに神作!!
ラノベだから読まないなどというあの陽キャ達は何も分かってない。
この作品こそがラブコメの頂点であるとっ!!
「何巻を読もうかな~。1週間後に新刊出るし9巻か、いや……ここはあえて原点に戻るという意味で1巻を読むというのも――」
ガチャッ
「よし、1巻に……はっ?」
ロッカーを開けると、そこあったのは俺マチのラノベ、ではなく服?
というか、これって――
(体操服……?)
胸の部分に『葉月』と書いてある。
間違いない、体操服だ。
でもなんで?いや、今はそんな場合じゃない。
この状況を誰かに見られたら俺が社会的に終わる。
「マジかよ……。って、もう一着ある」
葉月さんの体操服の下にもう1着あった体操服。
そこに書いてあった名前は
「
――
派手な金髪に校則違反上等な服装で学校生活を送っている、ギャルという人種だ。
読モをやってるとかで、2年生のみならず上級生や下級生からも告白されるほどの美少女。
だが、俺は彼女が苦手だ。
何回か廊下ですれ違ったことがあるけど、その度ゴミを見るかのような目で俺を見てきた。
葉月さんだけならなんとか話を聞いてくれそうだけど、この女が話を聞いてくれるとは思えない。
これは移動教室とかで人のいない時にこっそり返すしか……。
「おいおい!何してんの根暗くぅ~ん?」
「なんかコソコソしてんじゃん」
「ロッカーにヤバいモンでも隠してるんじゃねぇの?」
声の方向に振り返ると、そこには教室のドアから出てきた鈴木達の姿。
「いや、これは……」
「怪しいなぁ~。キモオタの根暗くんのことだから、女子の持ち物盗んでたりしてんじゃねぇの?」
「そうだな~、例えば……体操服とか?」
「ぎゃはははっ!キモすぎるだろ!!」
ニヤニヤとこちらを見てくる鈴木。
間違いない、こいつらだ……。
「おいおい、なんだなんだ?」
「鈴木達が根倉に絡んでるぞ!」
「根倉のやつ、何かやらかしたんじゃね?」
鈴木達の騒がしい声に、野次馬が俺と鈴木達を取り囲むように集まってきた。
さすがにこれはまずい……。
「ちょっとどいて」
その人混みの一角が割れるように左右に分かれ、向こうから誰かが近づいてくる。
金髪に着崩した制服、陶器のような白い肌、整った顔立ち。
間違いない――日向彩華だ。
「ねぇ、私の体操服ないんだけど。知らない?」
俺のことを見下すように、ジロリと睨んでくる。
「い、いや……。知らないです」
ロッカーを背に、俺はそう答える。
バレたら終わりだ。どうすればいい、どうすれば……。
「こいつのロッカーにあるんじゃないですか?日向さんの体操服」
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる鈴木。
く、クソが……。
「そのロッカー、開けたいんだけど。どいてくれない?」
「い、いや。ここには無いです。ほんとに無いです」
「隠すってことは盗んだって認めるってこと?」
「い、いや――」
「どいて」
「はい……」
俺は押しのけるようにどかされ、日向彩華がロッカーを開ける。
「ほら、やっぱり。私の体操服じゃん。凜花のもあるし、ほんっと最低!」
「……」
終わった。もう終わりだ。
間違いなく事務所はクビ、下手したら退学だろう。
俺が頭を抱えていると――
「みんな集まってどうしたの?」
教室から出てきたのは葉月さんだった。
「葉月さん……」
「え、涼雅くん?それに彩華ちゃんも……。いったいどうしたの?」
「聞いてよ凜花!このキモオタ、凜花と私の体操服盗んでたの。ほんっと信じらんない!マジさいてー!!」
「ち、違うんです!俺が朝読の本を取るためにロッカーを開けたら――」
「言い訳すんなキモオタ!あんたみたいなキモいやつが私は一番嫌いなの!!こんなセコい真似せずにコクってこいっての。まあ、あんたみたいなキモオタ3秒でフるけどね」
「ほ、本当に俺じゃないんです!一回話を聞いて……」
「そ、そうだよ。1回話を聞いてあげようよ彩華ちゃん」
「なに?凜花もこのキモオタの肩を持つってわけ?」
「そういうわけじゃないけど、まだ涼雅くんがやったって決まったわけじゃないんだし……。話を聞いてあげるくらいしてもいいんじゃないかな?」
「そんなの無意味よ。このキモオタがやったに決まってるわ。絶対先生にチクるから、じゃあね」
そう言い捨てて、日向彩華はB組の教室に戻っていった。
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