第22話 校舎裏

昼休みの校舎裏。

普段はほとんど人通りのないこの場所で、俺は鈴木達に囲まれていた。


「おい根暗ぁ。テメェ、わかってんのか?」


きっかけは4時間目の体育。


俺はいつものように葉月さんとペアで卓球をしていたのだが、その帰りに鈴木達が絡んできた。

そしてここまで連れてこられたのだ。


なんでこんなに怒っているのだろうか?

さっぱり心当たりがない。


「えっと……何がですか?」


「あぁ?ふざけてんじゃねぇぞコラ!」


「ネクラのくせにあんまり調子乗ってると……わかってるよな?」


3人がかりでまくし立てて来るが、あまり怖くない。

前のチンピラ達のほうがまだ威圧感あったなぁ。


「いや、本当に分からないんですけど――」


ガンッ


その瞬間、鈴木に胸ぐらをつかまれる。


「しらばっくれてんじゃねえ!!てめぇ、俺の凜花に付きまとってんだろうが!キモいんだよ」


「……はっ?」


え、俺が葉月さんに付きまとってる?


というか『俺の凜花』って、別に葉月さんは誰のものでもないだろ……。


「だから体育のペア、俺と変われ。凜花にふさわしいのはこの俺、鈴木駿しかいねえ」


「いや、ペアは1学期の間は変えられないと……」


「仕方ねぇな、駿。俺が犠牲になってやるよ」


「すまねぇ、和夫……」


「いいってことよ!親友のためだからな」


勝手に話がすすんでいくんだが……。

なんか怖い。


「というわけだ。凜花のペアを俺と代われ、陰キャ」


「……」


一度決まったペアは俺の一存では変えられない。

そう言ってるんだけど、話が通じそうな感じでもない。


「なんか文句でもあんのか?あぁ?」


「いや、だから無理ですって……」


「お前、今置かれてる状況わかってる?」


「あんまり俺達怒らせると痛い目見ちゃうよぉ?ちょっと手が滑ったりとか……っな!!」


パシッ


突然飛んできたストレートを片手で受ける。


「チッ、根暗のくせに……。俺のパンチを受け止めるとはいい度胸してるじゃねえか」


え、こんなのがパンチ?

突然殴りかかってきたことよりそっちに驚いたわ……。


「はぁ……。とにかく、ペアを変えるつもりはないので。もう教室に戻りますね」


俺は胸ぐらの手を振り払い、3人に背を向けて歩き出す。


「テメぇ待てやコラ根暗ぁ!」


「ブチ殺す!」「死ねや陰キャ!!」







「涼雅くん遅かったね!どうしたの?」


「いや、ちょっと用事があっただけです」


あの後、後ろから殴りかかってきた鈴木達を投げ飛ばしていつものように屋上に到着。


それにしても、鈴木達2、3回投げただけで気絶してたな……。

まあ、手加減は十分していたし怪我はしてないだろう。


「師匠、鈴木達に絡まれたけど大丈夫だったんですか!?」


心配そうな顔をした山田君がそう尋ねてくる。

敬語とその変な呼び方はやめてくれと言っているのだが……。

山田君は一向に直そうとしない。


「ああ、別に何もされなかったから。大丈夫」


「じゃあお昼ご飯にしよっか!今日は……チャーハンを作ってきました~」


「おぉ~」


お弁当箱から漏れる匂いに「ジュルリ」とよだれが出る。


最近は葉月さんの手作り弁当を食べるのが当たり前になってきた。

正直、葉月さんのお弁当はお弁当屋で売っていてもおかしくないくらいクオリティが高い。


タダで食べさせてもらうのは申し訳なくてお金を払おうとしたのだが、「花嫁修行だから大丈夫!」と言って受け取ってくれない。


葉月さんの旦那さんはきっと毎日が幸せなんだろうな……。羨ましい。


「じゃあ、手を合わせて」


「「「いただきます!」」」


ぼっちで食べるご飯も良いけど、こうして友達とワイワイ喋りながら食べるご飯も悪くない。

そう思った昼下がりのこと。


今にして思えば、俺は鈴木達のことを甘く見ていたのかもしれない。


この時は思っていなかった。まさか、あいつらがそこまでしてくるなんて――――

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