第21話 師匠

「ご、ごめんね?」


「いや、別に怒っては無いです」


「そ、そう?」


「はい」


今は体育の授業中。

ペアの葉月さんが謝っているのは、おそらく昨日の昼休みの事だろう――――







ふぅ、終わった……。

4時間目の授業も終わり、ようやく昼休み。


俺は席から立ち上がり、山田君の席に向かう。


「お疲れ」


「ああ、お疲れ根倉くん。ところで、根倉くんはどこでご飯食べてるんだい?」


「ああ、いつも屋上で食べてる」


「へーっ、あそこって入れるんだ」


「うん、それで……良かったら山田くんも一緒に食べないか?」


「そ、そうだね!一緒に食べようか」


そして俺と山田君は屋上に到着。


「あっ、涼雅くん!」


屋上のドアを開けるとそこには葉月さんがこちらに手を振っている姿。


「どうも」


「あ、山田くんも一緒なんだね!一緒に食べよっか」


隣から声が聞こえない。

ふと横を見ると山田君が葉月さんを見て固まっていた。


「どうしたんだ、山田君?」


「えっ、天使?えっ、でも、いやえっ?」


『えっ』しか言ってないけど大丈夫だろうか……。

俺は固まっている山田君を連れて葉月さんの隣に座る。


「今日はちょっと遅かったね」


「すいません。山田君を誘っていたので」


葉月さんからお弁当を受け取る。

付き合っているわけでもないのに毎日お弁当を作ってもらうのは申し訳ないのだが……。

お金を払おうとしても要らないって言われるし、どうしたものか。


「えっ、お弁当?えっ?」


壊れたロボットのように「えっ」を連呼する山田君。


「だ、大丈夫か?」


「いや、えっ?」


山田君のあまりの壊れっぷりに葉月さんも苦笑している。

本当にどうしたんだ山田君……。


「ふ、2人は付き合ってるの?」


「い、いやいや。そんな訳ないだろ、俺が葉月さんと付き合えるわけ無い。1000パーセントあり得ない。どうしたんだ山田君」


唐突に爆弾発言をしてくる山田君。

それは葉月さんに失礼すぎるぞほんとに……。


「で、でもそれ……手作りだよね?」


山田君はそう言って俺の持っている弁当箱を指さす。


「そうだよ。私の愛情たっぷり弁当♪」


「や、やっぱり……」


「ちょ、ちょっと葉月さん!」


なんで葉月さんもそんな紛らわしい言い方を……。

そのせいで山田君が勘違いしてしまうじゃないか。


「いただきます!」


これ以上おかしな空気になる前にご飯を食べようとお弁当箱のフタを開ける。

今日のメニューは――って


「はっ?」


そこにあったのは一面のハート。

ついに目がおかしくなったのか俺?

ハート型の卵焼きにハート型のご飯、ハート型の――


「あ、それはね――」


「ししし失礼しましたぁぁ!!!!」


ダダダダダッ


「あ、山田くんちょっと待っ」


山田君は一瞬で扉の向こうに消えてしまった。


「あはは。私たち勘違いされちゃったね」


なんで葉月さんもそんな嬉しそうに照れ笑いを……。


ってやばくないかこれ?

……マジ?







――とまあ、そういうことがあったのだ。


「はぁ……」


本当に生きた心地がしなかった。


今朝山田君には誤解だと伝えておいたから大丈夫だと思うけど、なぜか敬語を使われるし『師匠』とか呼ばれるし……。

どこか頭でもぶつけたのだろうか、心配だ。


それにしても葉月さん。


「お詫びに今日は涼雅くんの好きなハンバーグ作ったから!ねっ?許してほしいな」


「いや、俺は別にいいんですけど。もし山田君がクラスメイトに言いふらしたりしたら、どうするつもりだったんですか?」


俺は悪口には慣れているからそこまで気にはならない。問題は葉月さんだ。

俺なんかと付き合っていると噂されるのは彼女にとっても本意ではないだろう。


「本当に残念だよ……、じゃなくて!そうなってたらピンチだったねー」


軽いノリで流されてしまったけど、本当に分かっているのだろうか。

やっぱり葉月さんの考えが分からない。

それに、もう慣れたけど周りからの刺すような視線。


(はぁ~~)


俺は心の中で今日一番のため息をつくのであった。

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