第19話 脱ボッチ大作戦

昼休みの屋上。

俺は葉月さんとお弁当をつつきながら喋っていた。


「脱ボッチ大作戦?」


「うん。涼雅くんもね、私以外の友達を作るべきだと思うんだ」


「そっか……そうですよね」


さっき葉月さんが言い出したその計画は、俺に友達を作るためにコミュ力を上げようというものらしい。

彼女曰く、こうして一緒に昼食を食べているのもその作戦の一環だとか。


「それでね、お弁当食べ終わったらさっそく話しかけてみようよ!」


「えっ、さすがにそれは……」


「うん、恥ずかしいのは分かるよ。でも私も涼雅くんに友達ができるように頑張るから、キミも一緒にがんばろ?」


ほんのり頬を赤く染めながらも、可愛らしいガッツポーズで微笑む天使。

本当に彼女の言う通りだ。



――――今でこそボッチであることに慣れてしまった俺だけど、1年の入学直後はそうではなかった。


なんとか友達を作ろうと周りのクラスメイトに声をかけたり、委員に立候補したりして人と喋る機会を作ろうとしていた。


けれど、同じクラスでカーストの上位だった鈴木達が俺のことを『根暗』と呼んで馬鹿にするようになり、仲良くなりかけていたクラスメイト達も鈴木達に目を付けられるのを恐れて俺のことを避けるようになってしまったのだ。


2年でも鈴木達と同じクラスになってしまった俺は、友達を作ることを無理だと諦めてしまっていた。

けれど、最近になって葉月さんという友達ができた。


……もう一度、頑張ってみるか。


「分かりました。やってみます」


「よしっ、その調子だよ!誰に話しかけるつもりなの?」


「そうですね……赤木さんとか」


赤木さんは俺の隣の席のおとなしい感じの女子だ。

図書委員をやっているし、物静かな感じだから俺でも話しかけられそうな気がする。


「だ、ダメだよ……。女の子は駄目」


慌てた様子で首を横に振る葉月さん。


「えっ、駄目ですか?」


「う、うん。ダメ。涼雅くんはコミュ力が足りないから失敗しちゃうよ。だから絶対ダメ」


「は、はい……」


葉月さんは必死な様子で止めてくる。

分かってはいたことだがここまでストレートに言われると悲しい。

そこまでヤバい奴だったのかオレ……。


「山田くんとかどうかな?彼もオタクだし気が合うと思うけど」


クラスの中で数少ないボッチ仲間の山田君。

確かに彼なら気兼ねなく喋れるかもしれない。

しかも前に朝の読書で『俺マチ』の最新刊を読んでいたからオタクトークもできるかも……。

これは予想以上にアリかもしれないな。


「ちょっとやってみます」


「うん、ファイトだね!」





教室に戻った俺は自分の席の戻り、山田君の様子を観察していた。

何やら本を読んでニヤニヤしている。

ここからだとよく見えないが恐らくラノベだろう。

よ、よしっ。行くぞ……。


俺は山田君の席の背後に回り、トントンと肩をたたく。


「あ、あの――」


「ひぃっ!だ、だれ!?」


「あ、ごめん。根倉だけど、それラノベだよね?」


「う、うん……」


「実は俺もラノベとか好きでさ。良かったら話とか――」


「えっ、根倉くんもラノベ好きなの!?何が好き?」


突然すごい食いついてくる山田君。

あまりの食いつきっぷりに少し面食らってしまう。


「えーっと、俺マチとか」


「俺マチ!?僕も超大好きなやつだよ!うわー、それだったらもっと早く言ってくれればよかったのにー。ちなみに好きなキャラは――」



キーンコーン カーンコーン


昼休みの終わりを告げるチャイムの音で我に返る。

ということは山田君と30分もしゃべり続けていたのか、俺。


「うわっ、もうこんな時間か。また放課後に話そうよ!というか一緒に帰る?」


「そ、そうだな。じゃあまた後で」


「うん、また後でね」


山田君に手を振って俺は自分の席に戻る。

本当に楽しい時間だった……。


ピコン


ラインの着信音、葉月さんからだ。


凜花『どうだった?』


そのラインに俺はこう返したのだった。


ryoga『楽しかったです』


やっぱり友達って、いいものだな……。

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