第16話 現場 ②

キーンコーン カーンコーン


チャイムの音を背後に聞きながら、校門を出る。

ふぅ、今日は疲れた……。


あの後、俺は昼休みに屋上で葉月さんとお弁当を食べていたのだが――


「はい、あ~ん♡」


と言って彼女はお弁当のおかずを俺の口元に運んできたのだ。

断ったら「友達だったら普通だよ?」とか言ってたけど……。


いや、アレは友達同士でもやらないだろう。

さすがにボッチの俺でも分かる。うん。


見え透いた嘘をついて、葉月さんは一体何を企んでいるんだ……。

俺をからかって楽しんでいるのだろうか?

さっぱり考えが読めない。



そんなことを考えていると、いつの間にか電車は目的地に到着。

俺は駅のトイレで身なりを整え、仕事モードに切り替える。

そこから歩くこと10分、スタジオの前に着いた。


前回に引き続き、今日は『俺カノ』2話の収録だ。

よしっ、行くぞ。


「こんにちは!アオノエンタープライズのryogaです。よろしくお願いします!」


「お、ryogaくんじゃん!今日もよろしく」


最初に声をかけてくれたのは主人公役の須田すだ 春海しゅんかいさん。

芸歴15年の大先輩だが、俺のような新人にも気さくに話しかけてくれる現場のムードメーカーだ。


「こちらこそよろしくお願いします、須田さん」


「おう!って、彼女ちゃんまだ来てないの?」


「えっ?彼女なんていないですよ俺」


「照れんなって~!エレナちゃんだよ、付き合ってんだろ?」


「いや、そんな訳ないじゃないですか。俺とエレナは幼馴染ってだけですよ」


そう言うと、須田さんは驚いたような顔をする。

いや、逆にどうやったら俺がエレナと付き合えるんだっていう話だ。


「いや~、でもアレははただの幼馴染って感じじゃないと思うけどなぁー」


「私がどうかしたんですか?」


「うわっ!」


背後から聞こえた声に振り替えると、そこには見慣れた幼馴染の姿。


「い、いや別に大した話じゃないから……」


俺は須田さんにアイコンタクトを送る。


「お、おう!そうだな、全然大したことない世間話だぞ。うん、全然大したことない」


「ふぅーん、そうですか」


「じゃ、じゃあ俺はお邪魔そうだし。お二人でごゆっくり~」


須田さんはどこかへ行ってしまった。


「……で、何の話?」


次の瞬間、ジト目でこちらを見てくるエレナ。


「い、いや本当に何でもないんだって」


「じゃあ話しなさいよ。それとも何、やましいことでもあるの?」


プライドの高いエレナのことだ。

俺とカップルだと思われていたなんて言ったら怒りだすだろう。

言いたくないなぁ。


「はぁ……」


「何よそのため息。やっぱり何か隠してるんでしょ!」


もう言い逃れできそうな感じではない。

仕方ない、言うか。


「須田さんが、『俺とエレナが付き合ってるんじゃないか』とか言ってたんだよ。そんな訳ないのにな。俺なんかがエレナと付き合うなんて……」


「ふぇっ?」


すっとんきょうな声を上げて固まるエレナ。

怒り出すだろうと身構えていた俺は拍子抜けする。


「わ、私は別に嫌じゃないけど……」


エレナは顔を赤くして俯き、銀色の髪の毛先をくるくるといじっている。


なんか思っていたリアクションと違うんだが……。

体調でも悪いのだろうか?


「も、もしリョウガが良ければ本当に付き合ってあげても……」


「ほ、本当にどうしたんだエレナ。熱でもあるのか?」


「――っ!このばかぁ!」


エレナは走って行ってしまった。

やっぱり体調が良くないのだろう。

声を聴いた感じ喉は大丈夫そうだったし、あんなに勢いよく走ってたけど……。







その後挨拶回りを終えた俺は、自販機で買ったコーヒーを飲みながらエレナと喋っていた。


「リョウガの役ってメインじゃないのに結構セリフ数多いよね」


「確かになー。下手したらサブヒロインより喋ってるかも」


俺が今回演じるのは主人公の親友役だ。

学校からの帰り道で主人公とメインヒロインズ(彼女と妹)と共に異世界に飛ばされてしまい、転生後は主人公とそのヒロイン達を陰から支える脇役。


かなり頑張っているのに誰からも好かれないというちょっと可哀そうなキャラだが、縁の下の力持ち的なところが密かに読者の人気を集めている。


一方で、エレナが演じるのは主人公の妹役。

表向きツンツンしているけれど、中身はお兄ちゃんラブなブラコン妹だ。

朱理もこんな感じだったら嬉しいんだけどなぁ。


そんなことを駄弁っていると、挨拶をする声が聞こえてくる。


うん?この声は確か――


「こんにちは!大石プロダクションの姫宮しおりです。田中さんの代役で来ました。本日はよろしくお願いします!」


「へっ……?」


俺はポカンと口を開ける。

すると、顔を上げた彼女と目が合った。


「えっ?う、うそ……、涼くん!?なんで、えっ?」


う、嘘だろ……?

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