第10話 天使の思惑 ③

「ふふっ、じゃあよろしくね。根倉涼雅くん」


私は体育館の入り口から根倉くんの背後に近づき、肩にポンと手を乗せた。

すると、彼は驚いた様子でこちらを振り向く。


「な、なんで葉月さんが?」


狼狽えた様子の根倉くん。なんだか可愛い。


「私、今日は女の子の日だから今来たところなんだ。そしたらみんなもうペア決まってたの。だから仕方ないよね?うん、仕方ない」


まあ、嘘なんだけど♪


「い、いやちょっと待っ――」


「じゃあペアごとに散らばって、準備体操から始めてくれ」


「じゃああっちの方に行こっか!」


私は涼雅くんの手を引っ張り、体育館の隅に連れていく。

さあ、2人っきりの時間を過ごしましょう?

涼雅くん――







体育館の隅に移動した私は、根倉くんの柔軟を手伝っていた。

開脚している根倉くんの背中に、ぴったりと体をくっつける。

ryoga様と合法的にいちゃつけるチャンス。ぐへへっ……


っと、いけないいけない。

私は緩んでいた頬を引き締める。


「ほらっ、集中して。力を抜かないと、ね?涼雅くん」


「いや、そ、その背中に当たってるというか……」


反応が初々しい。

あまり女の子に慣れていないのだろうか?

ついつい意地悪をしたくなってしまう。


「ふふっ、何が当たってるの?ちゃんと言ってくれないと分からないよ」


「い、いやだから。そそ、その胸が……」


「ねえ、何考えてるのかな涼雅くん。真面目にやらないとダメだよ?ほらっ」


一通りからかったところで、そろそろ本題に入ろうかな。


「ねえ、君はryoga様なの?」


「だ、だからそんな人知らないって。本当に知らないんだ」


「嘘。私分かってるんだよ?廊下でぶつかったときの君の声。あれryoga様の声だよね?」


「……」


ふふっ、分かりやすい沈黙。

でも、もうちょっとかまをかけてみようかな。


「なんで隠してるのかな?」


「……」


根倉くんは下を向いて黙り込んでしまった。

ちょっとイジメ過ぎたかな?

もうそろそろやめておこう。


「まあ、今はそういうことにしといてあげる。これからもよろしくね、涼雅くん」


「……」







今度は朝のホームルーム前。

私は根倉くんの席に座っていた、――彼と一緒に。


今日は、根倉くんが珍しく楽しそうにスマホを見ていたのでちょっとからかってみようと思ったのだけれど、周りの注目を集めてしまっていた。


まあ、私は別に構わないけれど。

だが隣に座る彼はそうでもなさそうだ。


「ねぇ、見られてるね。私たち」


「……」


「ち、ちょっとトイレ!」


「あっ。ま、待って」


私の制止も聞かずに行ってしまう根倉くん。

彼がryoga様である証拠をゲットしようと思っていたのに。


(はぁ、また失敗か……)


心の中でため息をつき、ふと机を見る。

すると、そこには根倉くんのスマホが付きっぱなし・・・・・・で置いてあった。


あれ、これってひょっとして……?


私は彼のスマホを操作し、ラインのアプリアイコンをタップする。

すると、すんなりとアプリが起動した。


(ダメだよ?ラインにロックをかけてないなんて。ねぇ、涼雅くん。)


私は内心ほくそ笑み、なんとなく一番上のトークルームを見る。



エレナ『リョウガはどこで練習してるの?』


ryoga『うーん、だいたい家かカラオケだな。学校だと昼休みの屋上でやってる』


エレナ『そうなんだー。ところで今度のスイパラだけど、いついけそう?』



エレナ?誰よこの女。私のryoga様と馴れ馴れしそうに……!

しかもスイパラ?まさか2人きりじゃないでしょうね?


(いや、落ち着くのよ凜花。今はまだその時じゃないわ)


深呼吸し、思わずこの相手をブロックしたくなる衝動を抑える。

とりあえずryoga様が昼休みの屋上で何か・・の練習をしていることが分かった。

さっそく、明日にでも行ってみよう。


「ふふっ……」


思わず口から笑みが漏れる。


「逃がさないよ、ryogaさま」


このとき私は思ってもいなかった。

まさか、屋上で自分が返り討ち・・・・に会うなどとは――

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