第9話 天使の思惑 ②

その日の夜、私は自分の部屋で悶絶していた。


「ryoga様は根倉くん。うへへぇ……」


思わず頬が緩んでしまう。

今の私は、とてもクラスのみんなには見せられない顔になっているだろう。


「根倉くん、どんな人なのかな?」


私の知っている限りでは、クラスの中でもあまり目立たない静かな人というイメージ。

名前をもじって『根暗』なんていうあだ名をつけられている。

いじめられている……とまではないけど孤立している感じだ。確かに、マスクと眼鏡、長い前髪で素顔がほとんど見えないのは少し不気味ではある。


でもなぜあんなに素顔が見えないようにして、全然喋らないのだろう?


今までは恥ずかしいからなのだろうと思って見過ごしていたけれど、彼がryoga様だと分かった今では別の見方もできる。


例えば素顔がカッコよさすぎるから変装して隠し、声バレを防ぐためになるべく喋らないようにしている……とか?

それに下の名前も同じ。

病弱だからという理由で月に数回欠席や早退をしていたことも、今思えばアニメやラジオの収録があったからなのではないだろうか。


彼がryoga様だと考えると、色んなことにつじつまが合っていく。

時間が経って、半信半疑になっていたものが確信へと変わる感覚。

間違いない、彼がryoga様だ。


「ふふっ……、逃がさないよryoga様。いや、――根倉くん!」





「失礼しまーす。体育の山寺先生いますか?」


3限後の休み時間。私は職員室に来ていた。


「おう!どうした葉月、まさか体操服を忘れたんじゃないだろうな?」


「いえ、ちょっと体調が悪くて」


「そ、そうか。じゃあ見学するか?」


「途中から参加します。すいません……」


「分かった。無理しなくてもいいからな?」


よし、上手くいった!

山寺先生は結構厳しい先生で、めったに見学や遅刻は許してくれない。

けれどこの手(生理)を使えばあっさりと許してくれる。(と、友達が言っていた)

私は職員室を後にした。



――15分後。

私は体育館の入り口からこっそりと様子を伺っていた。


「根暗のやつ、陰キャにすら無視されてんじゃねえか!」


「笑わせるなよマジで!あー、腹筋痛てえわー」


「根暗くんが陰キャ選手権優勝!ダメだ、笑いが止まらねえ!!」


そこには私の予想通り、根倉くんがポツンと1人立ち尽くしていた。

私がいなかったせいでクラスの人数が奇数になり、彼が余ったようだ。


(ごめんね)


心の中で根倉くんに謝る。でも、これで彼と1対1でお喋りできる。


それにしても……。

私の目が向いたのは根倉くんを指さして笑っている鈴木君達。

あまりにもひどすぎる、人として最低だ。

それに、(私の)ryoga様を笑うなんて許せない!


軽薄な感じで元々好きではなかったけど、私は彼らが余計嫌いになったのだった。

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