第4話 不調
「
「雷の型 一の舞 ――
ここは俺と朱理が2人で暮らしているマンションの1室。
俺はもうすぐ収録が始まるアニメの練習を朱理に見てもらっていた。
「朱理、どうだった?」
「うーん、なんかちょっと違う気がするなー。ちょっと感情が乗せられてないというか、心ここに在らずって感じ?」
朱理の言う通り、今いち気持ちが込められていないのは俺自身感じていた。
「そっか、ありがとう」
「学校で何かあったの?」
「まあ、ちょっとな」
原因は分かっている。
先日の葉月さんとの一件だ。あれ以降、何をしていても監視されている気がして演技に身が入らない。
「そっか……、気が向いたら話してね。お兄ちゃん」
朱理は少し寂しげに微笑む。
「ああ、ごめんな朱理」
自分のせいではないとはいえ不甲斐ない。
ただでさえ親元を離れて2人暮らしをしているわけだし、朱理に余計な心配はかけたくない。それなのにこんな顔をさせてしまうなんて兄失格だ。
「大丈夫。すぐにいつも通りになるから、な?」
「うん……、ってお、お兄ちゃん!?」
目の前には動揺してあわあわとしている妹の姿。
ふと我に返ると、俺の右手が無意識のうちに朱理の頭を撫でていた。
昔は朱理を元気づけるときには頭を撫でていたものだが、その癖が出てしまったようだ。
しまった、俺嫌われたかも……。
「す、すまん朱理!」
俺が慌てて手を降ろそうとすると、それを止めるように朱理の両手が優しく包み込んでくる。
「ちょっと驚いただけ。べ、べつに嫌じゃないから……」
下を向いているせいで表情はよく分からないが、朱理の頬は赤く染まっているように見える。照明のせいだろうか。
「……」
そのまま、俺は朱理の頭を撫で続けた。
1分ほどだろうか。とても長く感じられた時間が終わり、朱理は名残惜しそうに俺の右手を放す。
「――うん、ありがと。元気出た」
そう言って、いつも通りのはにかんだ笑顔を見せてくれる朱理。
葉月さんの件は気にかかるけど、現場では頑張ろう。
この笑顔を曇らさないために。
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