第3話 チェックメイト寸前
「よーし、みんな集まったな。起立、気を付け、礼!」
体育の先生がやけに大きい声で号令をする。
俺のクラスは体育館に集合していた。
時間は4時間目、今日やるのは卓球だ。
「これは俺が優勝するしかないだろ!」
「よっ、さすが駿!スケールが違うぜ」
「じゃあ俺らでトップ3独占しちゃいます?」
何やら陽キャグループが盛り上がっている。
リーダーっぽいのが鈴木駿。あとは……誰だっけ?
ああ、斎藤と後藤だ。
あの3人、周りからイケメンだとか言われているが、本物のイケメンや美女と毎日のように接している俺からすれば雰囲気イケメンもいいところだ。正直、雰囲気すら怪しい。
まあ、俺みたいな陰キャが何を言ってるんだという話だが。
「よし、じゃあペアを作ってくれ。好きな奴と組んでいいぞ」
周りに次々とペアが結成されていく中、俺を含め3人が残った。
2人の名前は山田君と吉野君。
2人とも友達といる所を見たことがない、おそらく俺と同じ側の人間だ。
「おいおい、陰キャしか残ってねえじゃねえかよ!」
「これはヤバすぎる……。ここで余ったらもう人として終わりだろ」
「さぁ、真の陰キャはどいつだ?ぎゃはははっ!」
鈴木達が口々にはやし立てる。本当、耳障りな笑い声だ。
くっ、それにしてもこれはまずい。
この中で誰か1人は間違いなく笑いものにされるだろう。
俺は迅速に動いた。
「吉野君、お、俺と一緒にペアを組まないか?」
すまない山田君。だが俺は悪目立ちしたくないんだ。
「あ、あの。僕とやらない?山田君」
「う、うん。よろしく」
「えっ……」
しかし、吉野君は俺の誘いを聞こえなかったかのようにスルーし、山田君とペアを組んでしまった。みんなペアを組んで座っている中、俺は1人ポツンと立ち尽くす。
う、嘘だろ……?
「根暗のやつ、陰キャにすら無視されてんじゃねえか!」
「笑わせるなよマジで!あー、腹筋痛てえわー」
「根暗くんが陰キャ選手権優勝!ダメだ、笑いが止まらねえ!!」
鈴木達は俺を指さして笑い転げている。
(はぁ……)
薄々分かっていたとはいえ、ため息が出てしまう。
俺にできることはこの公開処刑が早く終わることを祈るだけ――
「よし、決まったようだな。根倉の相手は葉月だ」
「えっ?」
俺の聞き間違いだろうか。なんで葉月さん?
鈴木達もポカンとした顔で先生を見ている。
え、というか何で?え?
「ふふっ、じゃあよろしくね。根倉涼雅くん」
ポンと肩に手が載せられ、振り向くとそこには葉月さんの笑顔。
ってか、き、距離が近すぎる……。
「な、なんで葉月さんが?」
「私、今日は女の子の日だから今来たところなんだ。そしたらみんなもうペア決まってたの。だから仕方ないよね?うん、仕方ない」
「い、いやちょっと待っ――」
「じゃあペアごとに散らばって、準備体操から始めてくれ」
「じゃああっちの方に行こっか!」
俺の声は先生に遮られ、俺は葉月さんに引っ張られるように体育館の隅に移動する。
周りからの視線、特に鈴木達からの射殺すような視線が痛い。
こんな状況で葉月さんと柔軟とか、マジで地獄過ぎるだろ……。
★
「ほらっ、集中して。力を抜かないと、ね?涼雅くん」
「いや、そ、その背中に当たってるというか……」
開脚している俺の背中に、ぴったりと密着するように葉月さんが覆いかぶさっている。な、何が起きてるんだ一体……。
「ふふっ、何が当たってるの?ちゃんと言ってくれないと分からないよ」
「い、いやだから。そそ、その胸が……」
「ねえ、何考えてるのかな涼雅くん。真面目にやらないとダメだよ?ほらっ」
葉月さんはさらに体を密着させ、耳元で俺に囁いてくる。
くっ……、本当に何が起きてるんだ?
葉月さんもなんでそんなにくっついてくるんだ……。
「ねえ、君はryoga様なの?」
「だ、だからそんな人知らないって。本当に知らないんだ」
「嘘。私分かってるんだよ?廊下でぶつかったときの君の声。あれryoga様の声だよね?」
「……」
「なんで隠してるのかな?」
「……」
「まあ、今はそういうことにしといてあげる。これからもよろしくね、涼雅くん」
「……」
どうやら、俺はチェックメイト寸前らしい。
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