第5話
航空祭当日の朝は早い。午前四時や五時に起き出し、展示する機体を並べるからだ。
松島基地からは予備機も含めてT-4ブルーインパルスが七機、小松基地からアグレッサー部隊の
当基地百里からは地上配備や装備品、
なので、それら全てを踏まえ、どこにどの機体を展示するのかを考えて配置しないといけないのだ。
まあ、じいさんたちもブルーインパルスも展示飛行を行うので、滑走路により近いエプロンに展示する。その他は、地上展示用と観客のための場所としてロープで仕切り、航空機に接触できないようにするのだ。
他にもハンガー内でも展示を行う予定である。
まずは展示飛行を行う機体をハンガーから外に出して指定位置に駐機させ、F-15や
それから、ペトリオットや移動管制隊車両、基地防空隊火器などの地上装備品を指定されている展示場所に配置するのだが。
その、一番初めに展示飛行を行うことになる
「こーら、シロとクロ。今日は航空祭だから、人がたくさん来るぞ」
「連れ去られたくなければ、おとなしく家にいろ」
「「にゃあん」」
「にゃあんじゃねえよ。わかってんのか?」
「帰れっつってんのに、なんでじいさんのとこに行くんだよ!」
クロとシロが可愛く鳴いたが、こっちの言うことなど聞きやしない。これからエプロンの一部にロープを張り、駐機してある機体に近づけないようにしようとしているのに、猫たちはお構いないに駆け出し、じいさんが四機並んで駐機している場所に行く。
すぐに捕まえないといけないのだが、如何せん相手は猫であり、俺たちが全力で走ったところで、奴らのスピードに敵うわけがない。結局先にじいさんのところに行ったクロとシロは、甘えるように「にゃあん」と鳴き、尻尾をピンっとたててじいさんの脚に頭を体を擦り付けた。
『『『『おお、おお。おはようじゃのう』』』』
「にゃあん」
「にゃんっ」
ご機嫌な様子で猫に挨拶をする
「にゃ~♪」
「にゃ~ん♪」
『そうか、そうか』
『ご飯が美味しかったんじゃな』
『それはよかったのう』
『他の猫や仔猫たちはどうしたんじゃ?』
『これから来るのか?』
「にゃん」
「にゃあ」
毛繕いを始めた猫たちに、じいさんたちの声が響く。表情はわからないのに、声も機体も優しく聞こえて見えるのはなぜなんだろう。
『寝ておるのか』
『留守番もさせておるんじゃな』
『今日はヒトがたくさんくるからのう』
『連れ去られては大変じゃしのう』
『今日はもうこんでええからの』
『気をつけて帰るんじゃぞ』
「「にゃ~」」
他の猫や仔猫たちによろしくな、と告げたじいさんたちに、猫はもう一度じいさんたちの脚に甘えたあと、素直に戻っていく。
「おおい! なんで俺たちの言うことは聞かないくせに、じいさんたちの言うことは聞くんだよ!」
ハンガーのほうに戻るのかと思いきや途中で曲がり、ロクマルやアグレッサー塗装の
特に
「コラー! シロ、クロ! ロクマルやイーグルの脚にじゃれるんじゃない!」
「整備の連中に怒られるだろ!」
『イーグルの腹の中に入るんじゃないぞ』
『儂らよりも危険じゃからの』
「「にゃあん!」」
「にゃあんじゃねえ! たまには俺たちの言うことも聞け!」
かなり離れているというのに、じいさんたちの声が聞こえるのも凄いというか呆れる。そして猫たちもじいさんに敬意を払い、エンジンなど猫が入れるような隙間に潜り込むことなく、じいさんたちにしていたように尻尾をピンっとたて、頭と体を脚に擦り付けている。
マジでなんなんだよ、
とにかく、九時になればゲートの開門時間となり、航空祭が始まる。人の並び方によっては早く開門するかもしれん。
それまでに猫たちを追いやっておかないと、マジで危険だ。
特に展示飛行を一番最初に控えているじいさんたちと、午後から展示飛行予定のブルーインパルス、救難訓練の様子を見せることになっている
あとは中が見学できる機体も、猫が入らないようにしなければならない。
今回の地上展示で機体の中を見学できるのは、大型輸送機であるC-2と、大型ヘリであるCH-47だ。CH-47は通称チヌークと呼ばれ、災害派遣や山火事の消火にも出向くこともある機体でもある。
今回はこの二機の中を見学できるわけだが、どちらの機体も人気があるので、見学者が列をなす。そんなところに猫が入り込んでみろ……捕まえるのにとんでもないことになるのは目に見えている。
他にもブルーインパルスの色違いでもあるT-4練習機や洋上塗装とよばれる青い塗装が施されているF-2戦闘機、
それを知ってか知らずか、猫たちはお構いなしにあちこち移動しては機体に挨拶をするように頭と体を擦り付け、最後とばかりにブルーインパルスを駐機している場所へと移動する。
「あああ! コラー! クロ! シロ! ブルーだけはやめてくれ!」
「うちの機体はともかく、他の基地の機体はマジでヤバいって!」
「ドルフィンライダーとキーパーに怒られるうぅぅぅ!」
じいさんたち以上に磨き上げられ、朝日を浴びてキラキラと光るブルーインパルスに近づいた猫たち。それを見たうちの整備班の人間が絶叫した。
そこに、落ち着きのある、老齢の声が響く。
『これ、その機体だけはやめなされ』
『儂らとは違うんじゃ』
『傷どころか埃すらないじゃろう?』
『挨拶をするなら、たくさんの人間たちが帰ってからにせい』
「「にゃー」」
「「「おいぃぃぃっ! 最後! それはダメだろ!」」」
俺たちが全力で突っ込んだところで、猫たちにとっては関係ないと言わんばかりなわけで……。
とりあえず、航空祭の間は必ず誰かが機体の近くにいるし、エプロン内にも誰かしらがいる。観客の監視をしつつ猫たちが来ないよう、見張ることにした。
そして忙しなく準備をして開門。オープニングセレモニーでF-2二機が飛んで軽く展示飛行。それから
それまではずっと、ずーーーっと爺さんたちは猫が見れなくて寂しいだの、観客の声が煩いだの、プロ仕様のバズーカのようなカメラを見て、
飛んでしまえば黙るので、問題なく展示飛行を終えて戻ると、途端に
ここまででだいたいお昼直前だ。
俺たちが終わるとブルーインパルスの出番だ。
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