クーデターに巻き込まれたJK

「なんですと?」

「だから、お前はクビだっての」


 冷酷に、ミュリエルは言い放つ。そこに、魔族としての未練はない。


「ば、バカな。我々はなんのために、あなたを召喚したと思っているのか!? あなた方とチキュウをつなげて、我々はチキュウへ侵攻する準備を進めていたというのに!」

「それは、お前らが勝手に始めたことじゃん。関係ねーし」


 ロバートは、事情をパーシヴァルから聞いた。


 話によると、チキュウ侵略が済んだら、こちらからコンタクトをとるという手はずだったらしい。しかし、我々からの連絡がいつまで経ってもこないため、独自で動いてしまったのだろう、とのことだ。


「元はと言えば、伝達係の低級魔族を私が殺してしまったからだ。そのせいで、彼らは我々に良からぬことが起きたのだと誤解したのだろう。許せロバート」

「キミが謝ることなんてないよ。悪いのは全部セルベールだ」


 で、とうのセルベールはと言うと。


「冗談ではありませんよ。あなたがたをお救いするため、どれだけ魔族が犠牲になったというのです? これが、王たるもののすることなのですか!?」


 うっとおしい。


 人に害することをなんとも思わない者の所業だ。

 自分たちの都合しか考えていない。


「世界を闇で覆い尽くすのは、我々の総意! あなたまで人間などの味方をして、魔族たちが納得するとでも?」

「ついて来たいやつだけ、来ればいいから。でも、お前みたいな悪いことしか考えていないヤツは、土下座されても仲間に入れてやんね」


 苦悶の表情を浮かべていたセルベールが、次第に笑みをこぼすようになった。気でもふれたか?


「承知しました。あなた方はもう魔族の一員でないと。ならば、私が魔王を名乗ってもいいわけだ!」


 セルベールが、フードを脱ぐ。


 全身を近未来型の機械で改造した肉体が、顕になった。魔術師のようなやせ細った身体から、筋肉質のボディへと姿を変える。肩からはドラゴンの首が生え、背中から多関節の腕が伸びた。


「ふうう。本当なら、ワタシが直接手を下さず、あなた方のような『大して力もないくせにカリスマ性だけは一流』のヤツを掲げて支配してから、権力をかっさらう方法を取ろうとしていたのですが、自ら地位をお捨てなさるとは」


 魔法陣から、大量の魔族たちが湧いてくる。


「なんだ、こいつら?」



「わかりませんか? クーデターですよ」



 もはや今のセルベールに、忠誠心など微塵も感じない。


「どういうこと、ロバちゃん?」

「コイツははじめから、ユミさんだっけ? 魔王ミュリエルを殺そうとしていたんだ」


 役目を終えたら、なにかしら理由をつけて暗殺する予定だったのだ。


「ユミを殺そうとしていた?」

「で、この地もチキュウも、全部自分たちのものにしようとしている」

「最悪じゃん! 顔もだけど性格もグチャグチャだね!」


 久々にヒナマルの怒りが、頂点に達したようだ。


「これだけの英雄を相手にして、無事でいられると思うなよ魔族!」

「はーあっ? ニンゲンが何をほざきますか? アレを見なさい!」


 魔法陣の上空を、セルベールが示した。


 チキュウらしき景色が見える。


「今から我々は、あの星を侵略します。低級魔族といっても、

向こうでは脅威ですからね! これだけの魔物をチキュウへ送り込めば、どれだけの被害が出るか?」

「おのれ!」


 パーシヴァルは、槍を振り回した。槍は黄金色の光を放ち、低級魔族たちを薙ぎ払う。


 だが、魔物たちが魔法陣から湧いてくる勢いを押さえられない。


「パーやん! くそが!」


 ミュリエルが、指先から紫色の稲妻を放った。パーシヴァルの振り回す槍に向けて。


「受け取ってパーやん!」

「おうとも!」


 パーシヴァルとミュリエルとの連携によって、大半の魔族が散っていく。

 それでも、魔法陣からは魔物たちが溢れ出ていた。


「穴を塞げ!」


「ダメだ!」


 ロバートの言葉を遮ったのは、パーシヴァルの弟、ジークムント・ゴットフリート第二王子だった。

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