JK召喚の秘密

「マッ!? へえ、あんなんがタイプなん!? マ!? あああ。でも、人の価値観を否定すんのはクズか。うん。、だよね! よかったじゃん!」

「えへへぇ」


 またしても、ヒナマルは二人で抱き合う。


「どこまでいったん?」

「えっとね。寝てるときにチュってしたくらい」

「マ!? プラトニックじゃ~ん」

「えへへぇ」


 どうやら自分は、寝ている間に唇を奪われていたらしい。


「唇合わせただけだから! あんただって後藤先生と、おはようのチュってするじゃん? そんなカンジ!」

「わかる! パーやんめちゃ照れるんだよな!」


 両手の指でヒナマルを指し、ミュリエルははしゃぐ。


「パーやん!? ひょっとして、パーやんってキミのこと? 後藤先生って呼ばれていたってのは知っていたけれど」

「そうだ。パーシヴァルだから、そう呼ばれている」


 恥ずかしげもなく、パーシヴァルが言い切った。


「あのー」


 蚊帳の外にいる魔族が、ひとり。手を上げて、ミュリエルに尋ねる。


「あん?」

「お二人は、どうしてチキュウ進撃をやめたので?」

「あー。話してなかったよな? ウチだと話が下手だから、パーやんに聞いて?」


 ミュリエルは、パーシヴァルに話を振った。


「実は、我々は魔力を失い、路頭に迷っていた」


 転移の際に体力まで尽き、瀕死の状態だったらしい。


「それを助けてくれたのが、ヒナマル殿だった」

「助けてもらったときに食った寿司が、またうまいのなんのって」


 ヒナマルは、寝食の面倒を見ていたという。


「ていうか、オヤジが世話好きでね。あたしは、ユミとだけ仲良くしていたから、後藤先生のこととか知らなかったんだよ」


 ヒガシマル家に引き取られた二人は、ヒナマル父のもとで戸籍を得た。


 ミュリエルはヒナマルと同級生になり、パーシヴァルは後藤と名乗って体育の臨時講師という職を手に入れる。


「ウチね、最初はアンタを食おうって思ってたんだよね」

「マ?」

「大マジで。けどさ、バカバカしくなって」


 それだけ、二人の境遇は深刻だったのだろう。

 殺す気力さえ奪うほどに、パーシヴァルたちは消耗していたのだ。


「平和が一番だと、思い知らされた。戦など起こしている場合ではない。で、この事態を元の世界でも伝えようと」

「魔法を使おうって思ったんだな」

「それをヒナマル殿に見つかって」

「殺そうとした?」

「いや違う! 助けようとしたのだ!」


 ヒナマルは、ミュリエルの様子を見に来た下級魔族に、命を狙われていた。

 こちらの世界の秘密を知られたからである。


「下級の悪魔なら、あっちの世界にも簡単に入り込めるからな。おおかた、セルベールのしもべだろう。魔物は倒したが、奴が落とした岩がヒナマル殿に落下してしまった。私は、残る魔力で槍術を使い、岩を破壊した。しかし……」


 ヒナマルが姿を消していたという。


「ボクが、ヒナマルを召喚した後だった」

「ヒナマル殿をこの地に喚んだのは、ロバートだったのか」


 これで、ようやく誤解が解けた。


 パーシヴァルは、過去こそチキュウを滅ぼすつもりだったが、力が戻った後もヒナマルを大事にしてくれていたのだ。


「疑って済まなかった」

『ワシも、非礼を詫びよう』


 ロバートとミニムが、パーシヴァルに謝罪する。

 続いてヘザーも。


「その姿は、老師ミニムか。非礼など。私が地上の支配を目論んでいたのは事実だ。だが、それが虚しいと気づかせてくれたのは、他ならぬヒナマル殿だった。これからは、平和のためにこの力を使おうと思う」

「ウチも。魔王とかどうでもいい。でもさ」


 ミュリエルから、膨大な魔力が放出された。


「どうしても魔王をやれってんなら、やってやらあ。従者セルベール、なんでも命令聞けよ!」

「は、はい! ありがたきお言葉」


 この土壇場で、裏切りか? まさか、そんな。


 しかし、どうも殺意はない。


「セルベール」


「はい!」




「お前はクビ」

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