JKとギャル魔王 ミュリエル

 まだ元の世界に戻ってきたという実感がないのか、パーシヴァルはしきりに辺りを見渡していた。


「ここは、我々の世界だな。チキュウではないようだが?」

「そうだよ。お前は、帰ってきたんだ」

「そうか。私は、戻ってこられたんだな。力が戻ってくるのを感じるよ」


 手を握りながら、パーシヴァルは自身の力を確認している様子だ。


 彼は、本当に的に寝返ったのか?


 一方、ミュリエルの方は周りをキョロキョロして、何かを探している。


「あれユミじゃんっ! ユミ!」


 パッとヒナマルを見つけると、こちらに一目散に走ってきた。


「逃げてヒナマル!」


 危ない! と思ったがもう遅い。


「ククク! 危険な相手が誰だかすぐにわかったようですね、王女殿下! さあ、こいつらを始末――」

「うわーんヒナマル、生きてたよかったぁ!」


 ミュリエルが、ヒナマルを抱きしめて泣き出した。


「えええええええええええええっ!?」


 ロバートたちは、呆気にとられる。まさか最大の災厄であるはずの魔王が、なんの攻撃もしてこないなんて。しかも、民間人と抱き合って涙を流すとは。


「ちょ待てよ!」


 一番驚いていたのは、セルベールだった。キャラまで崩壊している。


「ど、どういうことなのです、ミュリエル!? あなた方は、ややられたフリをして異世界チキュウを支配する手はずだったのですよ!?」

「ああ。たしかにな」


 パーシヴァルは、たしかにチキュウの支配に乗り出そうとしていた。


 ロバートはショックを隠しきれない。かつての友が、魔王に寝返っていたことに。


「で、ではどうして?」

「気が変わったのだ! チキュウは、我々の支配など及ぶほどでもなかった!」


 チキュウの文明はたしかに凄まじいものであった。しかし、軍事などに転用できるレベルのものがほとんどなかった。科学が過剰に発達しすぎていて、こちらの技術では維持できないものばかりだったという。


「しかも、案外心地よい。異世界転生や転移の物語を読んで、チキュウの民はさぞ厳しい生活を強いられていると思っていたのに!」

「チキュウでの生活で、骨抜きにされた!?」

「そうだ。世界征服などバカバカしい! それより、愛するミュリエルと共に過ごすほうがよほど有意義ではないか。あそこは争いなど数えるほどしかない。わざわざ侵略戦争など仕掛けずとも、個人の生活は保証される!」


 パーシヴァルは言い切った。


「なにを寝ぼけたことを!? あなたたちお二人を迎え入れるのに、我々がどれだけ苦心したとお思いか!? ミュリエル様を魔王としてお迎えする、我々の計画はどうなります!?」

「私に戦は無益だと主張したのは、ミュリエルだ!」


 衝撃の事実を突きつけられて、セルベールは愕然となる。


「ユミこっちこっち」

「おけおけヒナマル、いえ~いっ」


 話題に登った魔王の娘ミュリエルは、ヒナマルと一緒に写真を撮っている。


「ミュリエル王女殿下! なにを人間の娘とお戯れを! あなたは、魔王の娘であるという誇りはないのですか!?」

「は~あっ!?」


 撮影の邪魔をされ、ミュリエルがセルベールに凄む。


「うっせえんだよテメエ! ウチらの邪魔すんな!」

「言葉遣いまで変わって!?」


 セルベールが、めまいを起こす。


「いいえ! あなたに次期魔王としての自覚が生まれるまで、我々は何度でもあなたを妨害する所存!」

「るっせえなコイツ。ねぇヒナマル」


 ヒナマルが、ミュリエルと「ねー」と言い合う。


「ほんとだよね。パリピのくせに」

「パリピ! たしかにパリピだわコイツ! マッジウケる!」


 セルベールをパリピ呼ばわりして、手を叩いてガハハとミュリエルが笑う。


「ちょっといいか。その魔王ミュリエル」

「ああん? なに?」


 ミュリエルはロバートにまで敵意を向けてきた。


「待って待って。この人は敵じゃないよ、ユミ」

「ヒナマル、誰このオッサン」



「あたしのカレシ」


 イケメン声で、ヒナマルはそうロバートを紹介する。

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